第九話 バルトスの少年
「ガイルさんって、なんでタンクになったんですか?」
依頼の合間、ミナがふと、そんなことを聞いてきた。
「いい質問だな」
俺は、少し懐かしい気持ちになりながら、昔のことを思い出していた。
*
俺の生まれ故郷、バルトスは、鍛冶と武具作りで栄えた町だった。丈夫な鎧、頑丈な盾。町中の誰もが、「打たれ強さ」や「頑丈さ」に、ある種の誇りを持っていた。
子供の頃の俺は、腕力もそこまでなく、足も速くなかった。だが、なぜか殴られても、あまり痛みを感じない性質だった。
地元の悪童グループの中で、俺はいつしか「殴られ役」を買って出るようになっていた。誰かが喧嘩を売られそうになると、代わりに前に出る。殴られても、涼しい顔で立っている。それだけで、周りからは「すごい奴」として扱われた。
「お前、痛くねえのか」
「別に、大したことねえよ」
そう答えるたびに、仲間たちの尊敬の眼差しを浴びるのが、たまらなく心地よかった。
そんな環境で育った俺にとって、冒険者ギルドの適性検査で「タンク向き」という結果が出たのは、運命のようにさえ感じられた。
「これだ。俺の生きる道は、これだ」
当時の俺は、本気でそう思っていた。
*
「――ってわけで、まあ、天職に出会えたってことだな」
俺がそう締めくくると、ミナは、目を輝かせながら聞き入っていた。
「素敵な話ですね!」
「だろ?」
少し離れた場所で聞いていたロウが、ぼそりと呟いた。
「それ、単に痛みに鈍いだけの話じゃない?」
「……夢のある言い方をしてくれ」
「事実は事実だから」
ヴァンも、特にコメントすることなく、黙って話を聞き流していた。
*
その夜、俺は久しぶりに、バルトスの実家から届いた手紙を開いた。
『元気にしているか。たまには顔を見せに帰ってこい』
母からの、いつも通りの短い手紙だった。
もう十八年、この街で戦い続けている。バルトスを出た頃の自分と、今の自分と、果たしてどれだけ変わったのだろうか。
そんなことを考えながら、俺は手紙を、丁寧に折りたたんだ。




