第六話 ロウが数字にこだわる理由
その日の依頼先は、「硝子洞」という、水晶質の鉱石が採れることで知られるダンジョンだった。ギルド評価はCランク。見た目こそ美しいが、複雑に入り組んだ罠が多いことで、盗賊泣かせの現場としても有名だった。
「この先、罠が三つ連続してる」
ロウが、いつも通り冷静に、罠の位置を読み上げていく。
「一つ目、床の圧力式。二つ目、天井からの落下式。三つ目は、ちょっと変わってて――」
その時、三つ目の罠の解除中に、ロウの手元がわずかに狂った。
「ッ」
小さな刃が、ロウの腕をかすめる。大した傷ではなかったが、俺は思わず駆け寄った。
「大丈夫か!」
「平気。かすっただけ」
ロウは、顔色一つ変えずにそう言ったが、その手が、いつもよりわずかに震えていることに、俺は気づいた。
*
依頼を終えた帰り道、俺はロウに、それとなく尋ねてみた。
「さっきの罠、お前にしては珍しく手元狂ってたな」
「……まあ、たまには」
「無理すんなよ」
ロウは、少し黙った後、珍しく自分から話し始めた。
「前のパーティーにいた時、盗賊の勘だけを頼りにする奴がいてさ。罠の解除も、探索の判断も、全部『何となく』でやる奴だった」
「それで?」
「ある時、その『何となく』が外れて、大怪我した仲間がいた。それ以来、勘とか気合いとか、そういうのだけを頼りにするのが、怖くなった」
初めて聞く話だった。ロウが、なぜあれほど数字や事実にこだわるのか、その理由を、俺はこの時、初めて知った。
「だから、俺は、確実に分かることだけを、確実に処理する。それだけを、大事にしてる」
「そうだったのか」
俺は、思わず神妙な顔になった。
「ガイルの『気持ちの問題』とか、正直、苦手なんだよな、そういう意味で」
「うっ」
図星を突かれ、俺は少し言葉に詰まった。
「でも」
ロウは、そこで少し間を置いてから、続けた。
「ガイルは、少なくとも、いつも同じ立ち位置にいてくれる。前に出て、そこにいる。それだけは、確実な事実だから」
その言葉に、俺は、なんだか妙にくすぐったい気持ちになった。
「そうか。俺は、確実な男ってことだな」
「……そういう意味で言ったんじゃないけど、まあ、否定はしない」
ロウは、そう言って、珍しく小さく笑った。




