第四話 ミナの真似事
その日潜っていたのは、「霧影の遺跡」というダンジョンだった。ギルド評価はDランク。難易度自体はそう高くないが、視界の悪い霧が立ち込めることで知られ、新人の実戦訓練によく使われる場所だった。
「俺が壁だ!」
いつも通り、俺は前に出て、魔物の攻撃を受け止めた。骨に響く衝撃と共に、後方の仲間たちの安全を確保する。これが、俺の役目だ。
その様子を見ていたミナが、何かを決意したような顔をしているのに、俺は気づかなかった。
次の魔物との遭遇戦。ミナが、突然、俺よりも前に出た。
「私も、前で戦ってみます!」
「お、おい!」
止める間もなく、ミナは魔物の攻撃範囲に飛び込んでいった。魔法使いが前衛に出るなど、本来ありえない動きだ。
「危ない!」
ヴァンが、すぐさま間に割って入り、事なきを得たが、ミナは魔物の爪先が掠め、腕に浅い傷を負ってしまった。
「大丈夫か!」
俺は慌てて駆け寄った。
「す、すいません……ガイルさんみたいに、前に出て戦えたらって、思って」
その一言に、俺は胸を打たれた。俺の生き様が、こんな形で若い世代に影響を与えている。
「気持ちは嬉しいが、無茶するな。お前の役目は、後ろから支援することだ」
「はい……」
ミナは、しょんぼりとした様子で頷いた。
*
その日の探索を終えた後、ロウが、少し険しい顔で俺に詰め寄ってきた。
「ガイル、あれ、ちゃんと言っておいた方がいいと思う」
「何をだよ」
「ミナに、前に出るのは真似しちゃダメだって。ちゃんと」
「言っただろ、さっき」
「『無茶するな』だけじゃ、伝わってないと思う。あの子、本気でガイルの戦い方を、正しいものだと思ってるから」
ロウの言葉に、俺は少し面食らった。
「正しいだろ、別に。俺のやり方は」
「ガイルは体が丈夫だから、なんとかなってるだけ。ミナがやったら、下手したら大怪我じゃ済まない」
その物言いに、俺は少しむっとしたが、ロウの目が、いつになく真剣だったことに気づき、それ以上反論するのはやめておいた。
*
翌日、俺はミナを呼び出して、あらためて話をすることにした。
「昨日のことだけどな」
「はい……」
「お前が俺の戦い方に憧れてくれるのは、正直、嬉しい」
「……はい」
「だが、俺の役目と、お前の役目は違う。お前は、後ろから的確に魔法を撃つ。それが、お前にしかできない、大事な役目だ」
その言葉に、ミナは、少し驚いたような顔をした後、こくりと頷いた。
「分かりました……前には出ません」
「よし」
俺は、自分がなかなか良いことを言えた気がして、内心で満足していた。
もっとも、この後もミナが、俺の言動の端々を、あれこれ真似しようとし続けることに、この時の俺は、まだ気づいていなかった。




