第三話 ヴァンが誘われた日
ギルドの掲示板前で、見知らぬ男がヴァンに声をかけているのを見かけたのは、ある依頼帰りのことだった。
「あんた、うちに来ないか。Sランクパーティーで、腕利きの戦士を探しててな」
男の口ぶりからして、それなりに名の知れたパーティーのリーダーらしかった。
「悪いが、間に合ってる」
ヴァンは、特に迷う様子もなく、そう答えた。
「もったいないと思うがな。あんたの腕なら、うちでもっと上目指せるぞ」
「今のとこで満足してる」
それだけ言うと、ヴァンはさっさとその場を後にした。俺は、少し離れた場所から、その一部始終を見ていた。
「なあ、今の話」
追いついて、俺はヴァンにそう声をかけた。
「なんだよ」
「お前、誘われてただろ。もっと上のパーティーに」
「ああ」
「断ったのか」
「断った」
あまりにあっさりとした返答に、俺は少し驚いた。
「なんでだよ。お前の腕なら、確かにもっと上でもやれるだろうに」
ヴァンは、少し考えるような間を置いてから、いつもの淡々とした調子で答えた。
「今のパーティー、居心地悪くないから」
「そうか!」
その一言に、俺は思わず声を弾ませた。
「まあ、俺が仲間思いにやってきたのが、伝わってるってことだな」
「……そういう話じゃないけど」
ヴァンは、それだけ言うと、それ以上は説明しなかった。俺は、その言葉の続きを深く聞くこともせず、なんとなく満足した気分のまま、ギルドへの帰り道を歩いた。
*
その夜、酒場で、ロウにこの話をしたところ、ロウは少し呆れたような顔をした。
「ヴァンが断った理由、たぶんガイルのことじゃないと思うけど」
「じゃあ何だよ」
「単純に、環境変えるのが面倒なだけかもしれないし、他に理由あるのかもしれないし。分かんないけど、少なくとも、ガイルが思ってるような理由じゃない気がする」
「お前、たまに冷めたこと言うよな」
「事実を言ってるだけ」
俺は、その言葉に、特に深く傷つくこともなく、軽く笑って流した。ロウは昔から、こういう風にひねくれたものの見方をする奴だ。
実際のところ、ヴァンがなぜ、あの誘いを断ったのか。その本当の理由を、俺はまだ、知らない。




