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壁であり続けた男  作者: 中原九尾


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第十九話 ヴァンが本当に見ていたもの

 バルトスから戻って数日後、俺は、どうしても聞いておきたいことがあって、ヴァンを酒に誘った。


「今日は、奢るからさ」


「珍しいな、お前が誘ってくるの」


 ヴァンは、少し怪訝そうな顔をしながらも、付き合ってくれた。


 適当な雑談を挟んだあと、俺は、ようやく本題を切り出した。


「前に、お前が引き抜きの誘い断った時のこと、覚えてるか」


「ああ、あったな、そんなの」


「あの時、『今のパーティー、居心地悪くないから』って言ってたけど……本当は、違う理由があったんじゃないかって、ずっと気になってた」


 ヴァンは、しばらく黙って、グラスの中身を見つめていた。


「……昔、別のパーティーにいたんだよ、俺」


 初めて聞く話だった。


「そこのタンク、腕は立ったけど、とにかく目立ちたがりでな。仲間を囮に使うようなこと、平気でする奴だった」


「囮に?」


「危険な場面で、わざと他の奴を前に出させて、自分は安全な位置で美味しいところだけ持っていく。それで、パーティー内の評価だけは、いつも自分が一番になるように立ち回ってた」


 ヴァンの声は、いつになく低く、静かだった。


「ある依頼で、それが原因で、仲間の一人が大怪我した。そいつは、それでも謝りもしなかった」


「……それで、抜けたのか」


「抜けた。それから、しばらく、誰かの後ろで戦うのが、怖くなった」


 俺は、その話を、黙って聞いていた。


「お前と組むようになって、最初は、正直、居心地の悪さを感じてなかったと言えば嘘になる。前に出たがる割に、大して上手くもないし」


「うっ」


「でも」


 ヴァンは、そこで、少しだけ表情を緩めた。


「お前は、俺の手柄を、横取りしようとしたことが、一度もなかった。ちゃんと、俺やロウ、オーグの働きを、いつも認めてた」


「それは、当然のことだろ」


「当然じゃない奴を、俺は知ってるから言ってる」


 その言葉に、俺は、何も言い返せなかった。


「あの引き抜きの話、断ったのは、居心地が悪くないからってのも、本当だけど」


 ヴァンは、そこで一度言葉を切り、まっすぐにこちらを見た。


「お前となら、誰かを囮にしなくていい。そう思えたからだよ」


 その一言に、俺は、しばらく声が出なかった。


「……そんな大層なこと、考えてくれてたのか」


「大層でもないだろ、別に」


 ヴァンは、そう言って、いつもの素っ気ない調子に戻り、酒を口に運んだ。


 だが、俺の中では、これまでずっと引っかかっていた疑問が、ようやく、きちんとした形で解けた気がした。


 ヴァンが見ていたのは、俺の実力なんかじゃなかった。俺が、仲間をどう扱うか、という、もっと根本的な部分だったのだ。


「……ありがとうな」


「今更、気持ち悪いこと言うなよ」


 ヴァンは、そう言って、少しだけ、口の端を上げた。

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