第十八話 バルトスにて
母からの手紙をきっかけに、俺は久しぶりに、バルトスへ帰ることにした。
フェリシオンから馬車を乗り継ぎ、半日ほど。鍛冶の煙が立ち上る、懐かしい町並みが見えてくる。
「帰ってきたのね」
実家の戸を叩くと、母が、変わらない様子で出迎えてくれた。
「久しぶり」
「随分、老けたわね」
「そりゃ、十八年も経ってるからな」
母は、そう言いながらも、嬉しそうに俺を家に招き入れた。
*
翌日、俺は、町を軽く歩いてみることにした。
鍛冶場からは、相変わらず、金属を打つ音が響いている。子供の頃、この音を聞きながら、殴られ役を買って出ていた自分を思い出す。
「おい、お前、ガイルじゃないか」
声をかけてきたのは、子供の頃、よく一緒につるんでいた顔ぶれの一人だった。
「久しぶりだな」
「フェリシオンで、タンクやってるんだって?」
「まあな」
「相変わらず、殴られ役か」
その男が、からかうようにそう言った。
「うるさいな。ちゃんとした仕事だぞ、これでも」
「分かってるって。お前、昔からそういうとこ、変わんねえよな」
軽口を交わしながら、俺は、少しだけ懐かしい気持ちになった。
*
その夜、母と二人で食卓を囲んでいると、母が、ふと尋ねてきた。
「フェリシオンでは、うまくやれてるの?」
「……どうだろうな」
俺は、少し迷ってから、審査での出来事を、正直に話してみることにした。
仲間に支えられていたこと、それを知ってショックを受けたこと。
母は、黙って話を聞いていたが、話し終えると、静かに言った。
「あんた、昔から、そうだったじゃない」
「そうって?」
「殴られても平気な顔してたけど、本当は痛かったでしょう。それでも、みんなのために前に出るのをやめなかった」
「……まあ、そうだな」
「それを、支えてくれる人がいるって、幸せなことだと思うけどね」
母の言葉に、俺は、しばらく黙り込んだ。
「一人で強くなることだけが、偉いわけじゃないでしょう」
その一言が、なぜか、これまで聞いたどの言葉よりも、すとんと胸に落ちた。
*
フェリシオンへ戻る馬車の中、俺は、窓の外を眺めながら、これまでのことを、あらためて考えていた。
十八年、前に出続けてきた。それは、決して無駄ではなかった。ただ、俺一人の力だけで、成り立っていたわけでもなかった。
その両方が、事実なのだと、ようやく、少しだけ、受け入れられる気がした。




