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最強勇者パーティを追放された俺、実は“世界の仕様書”を書いた本人でした  作者: ちいもふ
第5章:【オーバーライド・エンパイア編】「先輩、私はあなたの盾になります」――運営を裏切った後輩(GM)と、世界を上書きするバグの楽園――
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捨てられなかった箱庭。新世界の空に灯る「約束の火」

 新世界、『エターナル・レジェンド』の未実装エリア。


 深い森に囲まれたその盆地に、本来そこにあるはずのない「街」が静かに息づいていた。レインが現実世界のサーバーを焼き切る刹那せつな、強引にマージ(統合)し、引き連れてきた「箱庭」の断片。転移の衝撃で眠りについた住人たちが、街の灯りとして小さく揺れている。


 その街外れ。見知らぬ星空の下で、レインたちはき火を囲んでいた。


「……信じられませんわ。世界そのものを『外部』へ射出するなんて。レイン様、あなたの演算能力は、もはや神の領域です」


 アリスが、れたての紅茶を差し出す。レインはそれを受け取ったが、その指先が震えているのを、隣に座るエルナは見逃さなかった。


「……無理もないわ。自分の魂をデータ化して、さらに街一つ分の情報量を背負って次元を超えたのよ。死ななかったのが奇跡だわ」


 エルナが、そっとレインの肩に自分の肩を預ける。その温もりに、レインは長く重い息を吐き出した。


「……なあ、エルナ。俺がいた『向こう側』の世界の話を、少しだけしてもいいか」


 レインの言葉に、まきがパチリと弾ける。黄金の竜の姿を解き、幼い少女の姿でレインのひざに顔を乗せていたリヴィアが、大きな瞳を見上げた。


「俺がいた世界は、この星空みたいに綺麗きれいじゃなかった。……ずっと、灰色だったんだ」


 語り始めたのは、完璧な管理者「レイン」の物語ではなく、一人の青年が使いつぶされていた地獄の日々だった。


 窓のないオフィス。何日も浴びていないシャワー。


 自分の名前よりも、「おい、そこの」という無機質な呼び声や、ただの「番号」として扱われる日々。


「家族も、友人も、俺を待っている奴なんて一人もいなかった。……ただ、毎日死ぬためにコードを書いていたんだ。あの日、倒れて意識が遠のく中で、部長の声が聞こえたんだよ。『こいつの成果さえあれば、どうなってもいい』ってな」


 アリスが持っていたティースプーンが、カチリと音を立てた。リヴィアが、レインの服をぎゅっと握りしめる。


「……だから、決めたんだ。もし俺に、もう一度だけ『何か』を創るチャンスが与えられるなら、今度は誰かの道具じゃなく、俺が本当に愛せるものだけを創ろうって。……それが、お前たちであり、あの街なんだ」


 レインは、森の向こうで静かに眠る街の灯りを見つめる。


「あの世界には、一片の未練もない。……でも、俺を信じてついてきてくれたお前たちを、道連れにするのだけは怖かった。……今、こうしてみんなが無事でいるのを見て、ようやく……生きた心地がしてるよ」


 管理者の完璧な仮面の下にあった、き出しの孤独。それを知った瞬間、三人のヒロインの瞳には、かつてないほど深く、熱い献身の光が宿った。


「レイン……。あなたはもう、独りじゃないわ。この街も、私たちも、あなたの心そのものなんだから」


 エルナがレインの手を握りしめる。その夜、新世界の風はどこまでも優しく、レインの震えを止めるように吹き抜けていった。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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