【修羅場】精霊女王の『正論パンチ』vs 側近アリスの『全肯定バリア』
翌朝。俺が目を覚ますと、右腕にはぐっすり眠るリヴィアの柔らかな重みがあり、左側からはアリスの熱い視線が突き刺さっていた。
「……おはようございます、レイン様。昨夜の『同期』、心ゆくまで堪能させていただきましたわ」
「あ、ああ、おはよう……。リヴィアが窓を突き破ってきた時はどうなるかと思ったけど、よく眠れたよ」
アリスは満足げに微笑んでいるが、その背後には、昨夜の惨状を修復した跡と……そして、朝食の準備を整えたワゴンが置かれていた。
だが、食堂へ向かうと、そこには眉間に深い皺を寄せた精霊女王エルナが、腕を組んで待ち構えていた。
「ちょっと! 管理者ともあろう者が、いつまで寝てるのよ! だいたい、昨夜のあの騒ぎは何!? 隔離領域(寝室)から、規約違反レベルの致死量に近い『甘い魔力』が漏れ出していたんだけど!」
エルナは顔を真っ赤にして、俺に指を突きつける。彼女は一応、旧世界の「秩序」そのものだ。
「……エルナ。朝から元気だな。アリスのOSが不安定だったから、調整してただけだよ」
「調整!? あんなのただの痴話喧嘩……いえ、不純異性交遊よ! いい? レイン。この庭の主としての自覚を持ちなさい! 管理者たるもの、常に冷静沈着、ヒロインたちには平等に……」
「……平等、ですって?」
アリスの手元で、お盆がミシリと音を立てた。彼女の瞳から温度が消える。
「旧式のバグ(エルナ)が、随分と大きな口を叩きますわね。レイン様を不自由な檻に閉じ込めていたシステムの残滓が、『癒やし』に口を挟む権限などございません。……それとも、今すぐその光輪を砕いて、私の下着の予備にでも作り替えましょうか?」
「なっ……! 下着!? 失礼ね、これでも私は世界の意志なのよ! 正論を言ってるだけじゃない!」
「その『正論』がレイン様を孤独にしたのです。今のレイン様には、正論よりも、私という『全肯定(愛)』が必要なのですわ」
エルナとアリスがバチバチと視線をぶつけ合わせ、空気中に黄金の火花が散る。
「むふー! 朝から二人とも元気ですな! 主様、喧嘩はお腹が空くですぞ。リヴィアはパンのお代わりが欲しいですな!」
リヴィアだけが、空気を読まずに黄金の果実のジャムを塗ったパンを頬張っている。
「……。二人とも、そこまでにしておけ。エルナ、お前が正論を言うのは『仕事』なんだろうけど、ここはもう、お前のいた世界じゃない。俺の庭なんだ」
俺がそう言ってエルナの頭にポン、と手を置くと、彼女は「ひゃぅっ」と情けない声を上げて硬直した。
「……な、なによ……。子供扱いしないで……。私はただ、あんたが変な方向に暴走しないか心配で……っ」
顔を真っ赤にして俯くエルナ。どうやら「説教」は、彼女なりのコミュニケーション……あるいは、自分もレインの役に立ちたいという、不器用な自己主張らしい。
「レイン様。……あまり、その女を甘やかさないでくださいませ。……あとで、私にももう一度、頭を撫でる『同期』をお願いしますね?」
アリスが俺の腕にぎゅっと抱きつき、エルナを勝ち誇ったように見せつける。最強の管理者である俺の庭は、今日も絶世の美女たちの愛と嫉妬で、旧世界よりもずっと騒がしく、そして温かかった。
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