【悲報】元勇者、世界の果てへ。管理者が味わう果実一つで、世界が作り替えられる件
「はぁ、はぁ……っ! どこだ、どこなんだよレイン……!」
かつて英雄と呼ばれた男、アルディスは今、泥濘に足を取られながら荒野を彷徨っていた。アリスによって羅針盤の数値を書き換えられた彼は、レインのいる「聖域」とは真逆の方向――魔境の最果てにある絶海の孤島へと誘導されていた。
「クソッ、この剣ももうボロボロだ……! おい、誰かメンテナンスしろ! レイン! どこにいやがる、さっさと出てきて俺の剣を直せよ!」
彼が掴んでいる剣は、レインという「パッチ」を失ったことで本来の脆さを露呈し、一太刀振るうごとに刃こぼれしていく。かつてはどれほど乱暴に扱っても、翌朝にはレインが無言で新品同様に修復していた。その「当たり前」の代償が、今、絶望となって彼に襲いかかっていた。
一方その頃、座標NULL(レインの庭)。
アリスはレインの乱れた髪を優しく整えながら、水晶のトレイを差し出した。そこには、リヴィアが庭の奥で見つけてきたという、神秘的に輝く果実が盛られている。
「主様、あーん、ですぞ! この実は噛むとシュワシュワして、星が弾けるような味がしますな!」
リヴィアが元気よく差し出したその果実は、外の世界では『神の落とし物』と伝承される伝説の霊果だった。たった一粒で枯渇した魔力を全回復させ、不治の病すら癒やすとされる代物だ。
「……うん、本当に不思議な味だ。疲れが完全に消えていく気がするよ」
レインがその果実を含み、薄い皮を破れば、溢れ出した魔力の余波だけで、枯れていた周囲の芝生が一瞬で青々と蘇り、新種の美しい花々が咲き乱れた。
「レイン様。その果実は、この庭のシステムログが物質化したものです。それを召し上がるということは、レイン様がこの世界の『法』そのものを体内に取り込んでいることに他なりません」
アリスがうっとりとした表情で、レインの口元に付いた果汁を指で拭い、そのまま自分の唇に寄せる。
「つまり……レイン様が『美味しい』と感じるだけで、世界はより美しく書き換えられていくのです」
「……なんだか、どんどん人間離れしていく気がするな」
レインは苦笑するが、その表情に悲壮感はない。自分を虐げ、利用するだけの場所だった王国。そして今、自分を世界の中心として全肯定してくれる、アリスとリヴィアがいるこの庭。
「レイン様。不浄な者たちは、もう二度とここへは辿り着けません。どうぞ、次の果実もお召し上がりください。あなたが望むままに、世界を甘く、優しく作り替えて差し上げますから」
アリスの抱擁を受けながら、レインは再び目を閉じる。遠く離れた孤島で、アルディスが最後の一振りの剣を折り、魔物の咆哮に震えながら「助けてくれ」と泣き叫んでいることなど、この甘美な聖域には、風の音一つ届かなかった。
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