【悲報】王都の結界、ログイン不能により消滅。パニックの重鎮たちと「管理者」の昼寝
王都グランゼールの空に、巨大なガラスが砕けるような不吉な音が響き渡った。
「な、なんだ!? 何が起きた!」
王宮のテラスに飛び出した王国宰相が見上げた先――そこには、建国以来この街を護り続けてきた「守護結界」が、光の破片となって剥がれ落ちていく光景があった。
結界を維持するための魔導核が、レインという「管理者」の存在を感知できなくなったことで、システムが維持不能と判断し、強制シャットダウンを引き起こしたのだ。
「宰相閣下! 報告です! 結界の消失に伴い、市街地の中央広場にランクAの魔物が『直接出現』しました! 騎士団が対応していますが、武器が……武器が次々と折れて使い物になりません!」
「馬鹿な……! 我が国の誇る魔銀の剣だぞ!? 手入れは万全だったはずだ!」
「鑑定士ドラン殿によれば……レイン殿がこの街から去ったことで、周辺一帯にかかっていた【上位術式(経年劣化の停止パッチ)】が消滅したとのことです! 我々の武器は、一瞬にして『100年分の寿命』を使い果たしました!」
かつて、レインが勇者パーティの装備をメンテナンスする際、彼の指先から漏れ出る魔力は、無自覚のうちに王宮の宝物庫や騎士団の武器庫にまで波及していた。彼が王都周辺に滞在しているだけで、物質の劣化は止まり、武器は常に「新品同様」の性能に固定されていたのだ。
管理者という名の「世界の重石」を失った王国は、今や100年分のガタが一気に押し寄せたボロ屋も同然だった。
「あ、あああ……レイン……! あの男、自分がどれほどの『法則』を支えていたのか、一言も言わずに去ったというのか……!」
重鎮たちが腰を抜かし、崩れゆく王都で泣き叫ぶ。 だが、その声が「管理者」に届くことは、もう二度とない。
一方その頃、座標NULL(レインの庭)。
「……ふぁ。アリス、今、何か『パリン』って音がしなかったか?」
木漏れ日が降り注ぐハンモックの上で、レインが眠そうな目を擦りながら尋ねた。それは、王国を護っていた巨大な物理法則の壁が砕け散った「音」だったのだが。
「いいえ、レイン様。私が『不必要なバックログ』をシュレッダーにかけた音にございます。お気になさらず、もうひと眠りされてはいかがですか?」
アリスは膝の上にレインの頭を優しく導き、心地よいリズムで髪を撫でる。 彼女の手元で展開されている管理ウィンドウには、【警告:王都の生存率、残り15%を切り――】という真っ赤なエラーログが滝のように流れていたが、アリスは微笑みを浮かべたまま、それらを一括で「アーカイブ(破棄)」に放り込んだ。
「そうか……。アリスが言うなら、気のせいかな」
「はい。今のレイン様のお仕事は、この平和な庭で、私やリヴィアと一緒に、健やかに過ごされることだけです。外の『ゴミ(王国)』がどうなろうと、レイン様が責任を感じる必要は一切ございません」
「……むふー! 主様、リヴィアも一緒に寝るですぞ! 寝ながらお菓子の夢を見る準備は万端ですな!」
リヴィアがどさくさに紛れてハンモックに潜り込み、レインの反対側の腕をぎゅっと抱きしめる。
「わわっ、ちょっと狭いぞリヴィア。……まあ、いいか。……おやすみ、二人とも」
「「おやすみなさいませ、レイン様(主様)」」
管理者が幸せな眠りについた瞬間、王国の「守護結界」という名のデータは完全に抹消された。世界がどれほどエラーの悲鳴を上げようとも、この聖域の中だけは、永遠に変わることのない凪のような時間が過ぎていく。
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