もう二度と触れられない。最高の美女に癒やされる追放者と、魔物の群れに放り出された元仲間たち
「……あ、が……あ……っ」
湿った土と、腐肉の臭い。時速600キロで「強制射出」された聖女セシリアが次に目を開けたとき、そこは再び、飢えた魔物たちが跋扈する死の平原だった。
横を見れば、重戦士ボルドは岩に激突して白目を剥き、魔導師ミレーヌはあまりの恐怖に言葉を失い、ただガチガチと歯を鳴らしている。
「……うそ……うそよ……。どうして、こんな……」
セシリアの脳裏には、先ほど見た「光景」が焼き付いて離れない。自分たちが泥を啜り、一匹の狼に怯えていたその時。レインは、見たこともないほど豪華なテラスで、この世の者とは思えない美女たちに囲まれていた。
かつて自分たちが「荷物持ち」と蔑み、野宿の焚き火番を押し付けていたあの男が、今や世界の王か神のように、完璧な「楽園」を築いていた。
「私が……聖女である私が……あんな女より劣ってるっていうの……!? レイン、あなたは私の後ろを歩いていればよかったのよ! 戻ってきなさいよぉぉ!!」
セシリアが枯れ果てた声で叫ぶが、帰ってくるのは空腹に目を光らせた魔物たちの咆哮だけだった。彼女たちが信じていた「いつかレインが謝って戻ってくる」という甘い幻想は、リヴィアの一撃と共に完全に粉砕されたのだ。
一方、座標NULL(レインの庭)。夕暮れに染まるテラスでは、先ほどの騒動など微塵も感じさせない、穏やかな空気が流れていた。
「……ふぅ。リヴィア、お疲れ様。少し騒がしかったが、もう大丈夫そうだな」
レインが、戻ってきたリヴィアに労いの言葉をかける。
「むふー! ゴミ出しは完璧ですぞ主様! ついでに、あのアブラムシ共が持っていた不吉な因果 (ヘイト)も、魔物の巣に撒き散らしておきましたぞ!」
「それは……なかなか徹底してるな」
レインは苦笑しながら、隣で静かにお茶を淹れ直すアリスを見た。アリスは、セシリアたちがいた方向に一瞬だけ視線を向けたが、すぐに興味を失ったようにレインへと微笑みかける。
「レイン様。ログイン権限を失った『データ』のことは、もうお忘れください。今のこの庭には、あなたを必要としないものは一人もおりません」
アリスの手が、そっとレインの手に重ねられる。かつて勇者パーティにいた頃のレインは、常に「次」の心配をしていた。誰の装備が壊れるか、誰が怪我をするか、誰が不機嫌になるか。だが今、彼の目の前にあるのは、自分を心から敬い、愛してくれる仲間との、混じりけのない時間だけだ。
「……そうだな。あいつらのことは、もういい。それより、明日はリヴィアが耕してくれたあの神域に、何を植えようか?」
「リヴィアは、お肉がなる木がいいですぞ!」
「そんなものありません。……私は、レイン様が好きなあの青い花を、一面に咲かせたいです」
「いいな。……よし、明日は三人で種を植えに行こう」
レインの言葉に、二人の美女が同時に顔を輝かせる。かつての仲間たちが、闇の中で死の恐怖に怯え、後悔に身を焼かれていることなど、今の彼には一ミリも関係のないことだった。
管理者の庭。そこは、世界で最も閉ざされ、そして世界で最も幸せな「聖域」だった。
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