運営殺しの黄金王 〜無能運営、アバターロストの恐怖に震える〜
第1サーバー『監獄都市エデン』の空が、物理的に「割れた」。黄金の光で満たされる視界を、強引に塗り潰す漆黒のウィンドウ。そこに刻まれた『真なる運営 (ゼネラル・マネージャー)』の文字は、この世界の住人にとって「神の宣告」と同義だった。
「……エラー・オブジェクト『レイン』、および随伴データ。直ちに削除を実行せよ」
空の亀裂から降りてきたのは、巨大な「指」だった。雲を突き抜け、数キロメートルに及ぶ肉の柱となって、レインへと振り下ろされる。指先が触れる場所から、世界のテクスチャが「砂の嵐」のように分解され、虚無へと消えていく。
「お、おい……嘘だろ、運営が直接手を下しに来たのかよ!?」
「逃げろ! 触れたら魂ごと消されるぞ!」
歓喜に沸いていた民衆が、再びパニックに陥る。だが、レインは動かない。振り下ろされる「神の指」を、退屈そうに見上げている。
「削除……か。あいにくだが、コマンドはもう受け付けていないんだ」
レインが右手を軽く振り上げる。その瞬間、背後に控えていた四人のヒロインが、同時にその力を解放した。
「主様への不敬……万死に値しますな」
黄金竜のリヴィアが吠える。彼女の咆哮が物理的な衝撃波となり、空間を分解していた「削除の力」を強引に押し留めた。本来、システムの絶対命令であるはずのデリートが、「風」によって押し返されたのだ。
「解析完了。……この『指』、単なる遠隔操作のプログラム・アバターです。本体は依然として管理階層に潜伏中」
アリスの瞳が青く発光し、空の亀裂の先にある「真の敵」の座標を特定していく。
「あーあ、せっかく先輩が用意してくれた綺麗な空を汚しちゃって。……お仕置きが必要だね、これは」
シュガーが不敵に笑い、指先で空中をなぞった。彼女が干渉したのは、運営の「管理システム」だ。指に、ザザーッと激しいノイズが走る。
【警告:当該オブジェクトの維持リソースが不足しています】
「な、なんだと……!? 私の権限が拒絶された!?」
空の彼方から、初めて「動揺」を含んだ声が響く。そこへ、凛とした足取りでエルナが前に出た。彼女は、ふんと鼻を鳴らして空を見上げる。
「……勘違いしないで。私が守っているのはレインであって、この無能な民衆やサーバーの平和なんて、どうでもいいのよ」
頬を赤く染めながら、しかし眼差しは「削除の光」すら凍りつかせるほどの鋭さを帯びている。
「ただ、私のレインを『消去』しようなんて……その思い上がり、許せない。これ以上近づくなら、規約ごと存在を切り捨ててあげるから。……分かったら、さっさとその見苦しい指を引っ込めなさい!」
エルナが杖を地面に突き立てると、そこから衝撃波が走り、空を覆っていた黒いウィンドウがガラス細工のように粉々に砕け、音を立てて崩れ落ちた。
レインが視線を天へと向ける。
「金も、民も、システムも。お前たちが握っていた『支配の紐』は、もう俺の手の中にあるんだ。……降りてこいよ、序列第7位。その指、一本ずつへし折ってやる」
王の宣言が、反逆の狼煙となる。
「……左様。後悔しても、もう遅いですな」
リヴィアが天へと跳ね、その爪を振り下ろした。世界の法を物理的に切り裂く一撃が、数キロメートルに及ぶ「神の指」を真っ向から両断する。
断絶されたアバターが修復不可能なノイズとなって弾け飛ぶ。
「ぐああああっ!? 私の指が、認識できない……だと!?」
空の向こうで、苦々しい吐捨しが、大気を震わせた。
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