表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣人クリルの大陸見聞録  作者:
第一章 旅立ち
15/21

第十四話 央都へ



「よし、登録料として銀貨20枚をもらうが、大丈夫か?」



 冒険者登録の手続きはその後、問題なく進み、最終段階まで来ていた。ギルドは登録料として銀貨20枚――14才の田舎の少女には少々お高い代価を受け取る代わりに、冒険者としての登録、依頼の仲介、そして冒険者の証と言ってもいい冒険者カードの発行を行なってくれるのだ。 

 


「銀貨20枚……えーと、これで足りるかな」



「うむ、確かに受け取った。それでは今から冒険者カードの作成を行う。少し待ってくれれば今日渡せるがどうする? 別に明日以降でも構わんが」



「それなら今日もらう。そこで待ってるから」



 初めての海を十分に満喫したことで、特にクリルには用事がなくなっていたので、ギルド内でカードの発行を待つことにした。それに、冒険者になった証として早くカードを貰いたいという気持ちも半分くらいを占めていた。



「無事にいってよかったわね」



「うん、カレンのおかげ。ありがと。そういえば、受付の人に何か見せてたけど、あれって……あんまり人に見せたくないもの?」



 カレンは一貫して態度を変えず、柔らかな笑みをクリルに向けた。彼女の性格と育ちの良さもあるのだろうが、やはりこういう場に慣れているのだろう、屈強な犬人の男にも堂々とものを言うし、周りからの視線にもまったく動じない。



「ああ、あれはね……」



 そう言うとカレンは先程と同じように懐から手のひらにスッポリ収まるくらいの小さなカードを取り出した。カレンにしては珍しく周りから隠れるように、そのカードをあまり見られたくないようにコソッとクリルに見えるように示した。カードには大陸文字でカレンの名などの個人情報が刻まれており、カード全体が不思議な銀色の輝きに包まれていた。



「もしかして、冒険者カード?」



「……そう、私も一応冒険者だからね。ただ、これはあんまり人には見せたくないの。たぶん、この辺りにはあまりBランクはいないと思うから」



 冒険者カードの色は冒険者のランクを示すものである。一般的には初心者はEランクからスタートし、そのランクに応じた依頼を受けていく。依頼を達成していき、ギルドからの信頼を得ることでランクが上がっていく。そして、さらに高ランクの依頼を受ける資格を得るというシステムになっている。

 カレンの持っていた銀色のカードはBランク冒険者の証である。Bランク冒険者とは相当な実力者であることの証明であり、冒険者の中でも一握りの強者にしかたどり着けない境地でもある。Bランクのカードを示すだけでギルドのみならず、様々な場所で相当な優遇を受けることも可能であるが、それはギルドの権力に対する畏怖と強者へ媚を売るという二つの意味合いがある。



「あんまり知らないけど、Bランクって凄い冒険者しかなれないんだよね。カレンって強いんだ……」



「ううん、私なんか全然大したことないの。最初からBランクだったみたいなものだからね……あ、ごめんね、この話はあんまり外ではしたくないんだ。高ランクって知られると色々面倒なの。さっきみたいに役に立つこともあるんだけどね」



「あ……そうだよね、ごめん。とにかく、カレンは凄くて頼りになる。ありがと」



 カレンが言ったように高ランクの冒険者であることが知られると、様々な面倒事に巻き込まれる。ギルドからは危険な仕事を依頼されるかもしれないし、ギルドを介さずに金を持つ物は直接厄介な依頼を持ち込んで来ることもある。そして、何よりも高ランク冒険者は経済的にも裕福であることが多いので、金銭狙いで襲われることもよくあるのだった。

 その反面、それなりの待遇、名誉も富も得ることが出来るのだが、カレンのように名誉も富も望まない者からすればBランクの称号は厄介なお荷物でしかなかった。



「おーい、狐尾人の少女。登録カードが完成したぞ」



「お、完成したみたいね。行きましょうか」



 受付の犬人の男が相変わらず鋭い目つきでクリルを呼んでいた。受付の台の上には発行されたばかりの真新しい真っ白なカードが置かれていた。真っ白なカードはEランク冒険者の証、そして新米冒険者の証である。

 クリルはカードをおそるおそる手に取り、顔の前に掲げる。表情は崩さないが、その目はキラキラと輝き、尻尾がパタパタと揺れる。



「狐尾人のクリル、役割は『旅人』、間違いないな。まずはEランクからだ。無理せずに頑張れよ」



「うん、ありがと。そのうちAランクになるからね」



「……まあ、目標が高いのは結構だがな。君はまだまだ若い。まずはしっかり鍛錬に励み、力をつけるのだぞ。あと……カードは大事にしまっておけよ、いざと言う時身分証明に使えるからな。失くすんじゃないぞ」



「うん、わかってるよ」



「……余計なことを言い過ぎたな、すまない。俺の名はレオン。何かあれば頼るがいい」



 受付の男ーー犬人のレオンは最後までギルド職員らしく固い表情を崩さなかったが、彼なりにクリルを案じてくれているのか励ましとも取れる言葉を送ってくれたのだった。



◆◆◆



 ギルドに登録を済ませてから二日後、商隊の出発の時が近付いていた。目的地は大陸中央の都市ーー央都キルガス。道中の街々にも滞在して交易を行うので、だいたい二ヶ月の旅路になるとのことだった。

 少女一人が増えるくらい問題はないからと、クリルはロビ達商隊に同行することを許され、客人や用心棒などではなくあくまでただの同行者として扱われることとなった。街の外れには四台の馬車からなる商隊の面々が集合しており、クリルにカレン、ロビ、そしていつの間にか戻ってきていたアンティルが同じ馬車で旅をすることになっていた。



「まあ、なんだ……厄介事を押し付けられたような気がしないでもないけど、俺の馬車はこのメンバーで行くことになりました。問題はないですね?」



 商人見習いでまだまだ教えることがたくさんあるカレンに腕は立つが話しかけづらい雰囲気を放つアンティル、そして謎の少女クリルと他の商人達からすれば扱いづらいこの面子を最も若手のロビが必然的に受け持つことになっていた。仲間達の前では嫌々引き受けるような素振りを見せて一つ貸しを作った形にしておいたが、内心ではロビは悪い気はしていなかった。クリルは付き合いのある自分が世話をしてやるのが最もいいだろうし、そうなると師匠のアンティルも付いて来る形になるだろう。そしてクリルの側には女性が一人くらいいた方が何かと助かるだろうから、この編成が最も理にかなっているだろうし、ロビはカレンはもとよりアンティルに対してもあまり苦手意識は持っていなかった。

 ロビの言葉にクリルは嬉しそうに、カレンはいつもの笑みで、アンティルは無表情で面倒くさそうに頷いて同意を示した。



「と言っても、しばらくは何もないだろうから、ゆっくりしててください。お前はアンティルさんの言うことをよく聞いて、早く一人前になるんだぞ」



「うん、改めて、これからよろしく。あなたもね」



 クリルはそう言って馬車を引く馬の背を撫でた。獣人に共通する特性として動物との意思疎通が可能であると言われている。個人の資質によって意思疎通の程度は異なってくるが、クリルにも大まかな会話が可能であった。

 声を掛けられた馬は目を細めてクリルを見つめる。小さく鼻を鳴らして答え、二人の挨拶が済んだようだった。



「早く乗れってさ。けっこう退屈だったみたいだね」



「え、そうか、悪い悪い。よし! それじゃあ出発だ、いざ央都へッ!! 」



 クリルと馬に急かされ、一行は央都への旅路を歩み始めた。まだ日も昇り切らぬ早朝、空に雲は一つもなく、今日も快晴になるだろう。この空模様のように順調な旅になればと、クリルは願うのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ