第十三話 冒険者クリル
しばらく二人して草原に寝転び、誰にも邪魔されない自由を満喫した後、カレンの案内の元ギルドへと向かうことにした。冒険者ギルドという組織はこの世界において大きな権力と財力を持っており、その権勢を誇るようにこのイトゥアンの街でも街の中心部に一際大きな建物を構えていた。
頑丈そうな門を抜けると、広々としたロビーは多くの冒険者で賑わっていた。土地柄から獣人を主とした亜人が多く見られるが、ちらほらと屈強そうな人間や小人などの姿も見かけられる。街中とはまた違った独特の熱気がこの空間に足を踏み入れた瞬間にクリルの表情を強張らせた。
「凄い雰囲気でしょ。みんな、何というか、特殊な人達だからね。さ、受付に行きましょうか」
カレンはそんな雰囲気も特に気にする様子はなく、明らかに場慣れしている感じでクリルを気遣った。獣人の少女には場違いかと思いきや、女性の冒険者もそれなりには散見され、小人など小柄な種族もいることから、クリルの姿はそれほど悪目立ちすることはなかった。しかし、中には好奇の視線で二人の関係性を勘繰る者や、油断ならない目でこちらをじっと見つめる者もいた。
「こんにちは。この子の冒険者登録をお願いしたいのですが、こちらでよろしいですか?」
「ああ、こちらで大丈夫だ。ふむ……随分とか弱そうな女子だが、本当に冒険者になるつもりか?」
受付には獣人の中では最も数が多いと言われる犬人の男が立っていた。受付という割にはあまりに屈強な体と、威圧するような目つきを持ち合わせている。カレンは物怖じすることなく平然と話しかけるが、普通の女性ならば躊躇するところだろう。
受付の男は視線を下げ、クリルをじろっと一瞥して、やはり不審に思ったようだ。
「うん、登録をお願いします。特に冒険者になる基準はないんだよね?」
「ああ、基準も試験もない。ないがな……ギルドに登録する以上はそれなりに危険な仕事を引き受けてもらわんといかん。明らかに力不足だと判断されれば、尾を持つ仲間として俺は君を止めねばならん」
冒険者になること自体は誰にでも出来ることは出来る。厳密には年齢制限もないし、何の試験もない。しかし、ギルドに登録するということは依頼を斡旋してもらう代わりに、有事の際にはギルドに召集され戦わなくてはならない場合もある。それ故にある程度腕に自信のある者しか、基本的には冒険者にはならないのだった。
ギルド側からすれば登録したいものは勝手に登録だけさせておけば、登録料が入るのでまず拒否されることはないのだが、この受付の男は同じ獣人としてクリルの身を案じてくれているようである。
「まだ修行中だけど、魔法が使える。これからもっと強くなるから大丈夫」
「魔法だと? 獣人に魔法が使えるとは、俄かに信じ難いが……」
そう言って受付の男は顎に手を当てながら一歩下がって見守っていたカレンの方へと戸惑いの視線を送る。一般的に獣人には魔法は使えないというのが共通の認識である。
「ええ、あなたが疑うのももっともですよね。ですが、確かにこの子には魔力がありますし、優秀な先生もいるようです」
「ふむ……そうは見えんがな……。くどいとは思うが、何か証明するような物があれば心配いらんのだが」
犬人という種族は義理堅く、真面目な者たちであるとよく言われるが、この受付の男は正にその通りなのだろう。登録料だけ搾取して、その後のことなど知らん顔していればいいものを、ここまで登録だけで渋るとは普通で考えられなかった。
「ふふ、噂通り犬人の方たちは真面目なんですね。でしたら、こうしましょう。私がこの子の身元を保証します。これを……」
そう言うと、カレンは懐からカードのようなものを取り出して受付の男に見えるように提示した。あまり見られたくないものなのだろうか、男がそれを確認し驚いたような顔をすると、すぐにすっと懐にしまった。
「……失礼しました。それでは登録の手続きを始めよう。ところで君、『役割』は何なのだ?」
『何か』を見せられた男は先程までの態度と一変し、手続きを始めようとしていた。だが、その顔には拭いきれない疑念のようなものがまだ残っていた。
「役割は『旅人』。だから、これから世界を旅するの」
この質問をされることはクリルにはわかっていたことだった。今となっては『役割』を答えることにも躊躇いはない。『ハズレ』なんかではなく、『旅人』の名の通り、自由に生きてみせる。
「旅人……? ふっ……なるほどな。長い間、多くの冒険者たちを見てきたつもりだったが、俺もまだまだ知らない事だらけのようだ。君たちのような者が何かを変えてくれるのかもしれんな……」
男は固かった表情を崩し、何かを諦めたかのような笑みを浮かべながら二人を見つめた。そして、また仕事用の固い表情に戻り、粛々とクリルの冒険者登録手続きを進めていくのだった。




