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獣人クリルの大陸見聞録  作者:
第一章 旅立ち
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第十話 最果ての街



 狐尾人の里を出発してから丸一日、クリル達は『最果ての街』へと到着していた。その名の通りコルコニア大陸の東の端に位置するこの街は、アルカー湾と呼ばれる内海に面している港街である。この東の辺境地域において唯一の多種族が交わって暮らす街であり、そこに中央からの商人なども足を運んでいるので物資の交流は盛んである。

 おそらくアンティルの帰りを待っているだろう小人(ハーフリング)のロビ達の商隊を探して合流するため、イトゥアンの街中をクリル達は歩いていた。

 文明から隔絶されたような自給自足の暮らしを送っている狐尾人の里とは違って、この街はそれなりに文化的にも経済的にも発展した街である。建物も石造りの堅牢なものが多いし、道もよく整備されている。何より活気があった。



「この街へ来るのは初めてだったか?」



「うん、今まで里から出たことなかったから。こんなにたくさん人がいるところ初めて」



 この街には亜人を中心に多種族が暮らしている。ぱっと見ただけでも犬人(シーエン)猫人(キャトリン)鳥人(ガルダ)ーー様々な亜人に加えて小人なども違和感なく混ざり合っていた。

 初めて見る外の世界はクリルにとって何もかもが新鮮で輝いて見えた。言葉や表情にはあまりその感情は出さないが、キョロキョロと落ち着かない様子で周りを見渡し、尻尾はパタパタと左右に揺れていることからもその興奮ぶりは隠しきれていない。



「お楽しみのところ悪いんだがな、ひとまず商人の奴らに合流せねばならん。付いて来い」



「ちゃんと付いて行くから、心配しないで大丈夫」



「……まあ無理もないがな。新しい発見をするということはこれ以上なく好奇心をそそられる。ただな、人の集まる場所というのは自然界とはまた違う危険があるものだ。それだけは肝に命じておけ」



「うん、わかってる」


 

 アンティルとクリルの関係はひとまず保護者と子供のようなものに落ち着いている。特にクリルは危なっかしい行動をしたりはせず十分に自分の力と立場を弁えてはいるが、とにかく世間というものを知らないためアンティルからすれば安心して目を離すことはできなかった。

 自己責任のもと旅に出た訳であるから、どんな目に遭おうがそれは自らの力で対処してしかるべきなのだが、サリフとミーリャへの義理もあるし、何より世間知らずな少女を放って置けるほどアンティルは冷酷な魔人ではなかった。

 


 それに、かつての遠い日、自分が世界を知るため旅へ出た日のことを思い出すようで、好奇心旺盛なクリルを観察することを内心面白く思っていた。 



◆◆◆



「おー、アンティルさん! えらく帰りが遅かったッスね。それで、あいつらの里は大丈夫でしたかね? まあアンティルさんがいれば魔穴の一個や二個、どうってことないか!」



「ああ、問題なく処理した。だが少し予定外の案件を抱えてな……」



「予定外ってそりゃ一体――ん? お前、クリル!何でこんなところにいるんだよ? アンティルさんこれは……」



「話せば長くなる。訳あって央都まで同行することになった。この街まで歩いてきたが、足手まといにはならないだろう。まあ客人扱いはしなくていいから、面倒を見てやってくれ」



「いや、央都って……何があったんだよ、親御さんはこの事知ってるんだろうな?」



「うん、ちゃんとお別れしてきた。わたし、旅に出ることにした……何が出来るかわからないけど、アンティルやロビ達みたいに自分の力で自由に生きてみようと思う」



「いやいや、自由にって……まあお前が本気でそう言ってるのはわかるけどよ、小娘がやってけるほど甘くないないんだぞ、一人で生きてくってのは。だいたい金とかはどうすんだよ」



 突然の思わぬ再会にロビは驚き、そして心配し、最後には呆れたような気持ちになった。商人として何度か狐尾人の里を訪れたことのある彼はクリルが小さい頃からの付き合いがあったので、その好奇心の強さ、旅への憧れも知っていたので事ここに至っては止めても無駄だということがわかった。

 それでも現実的な問題として、身を守る手段や金銭のことなど、しっかり計画しているのかと問い質さずにはいられないのだった。



「それは……アンティルに弟子入りして魔法を教わってるところ。きっと強くなるから。それで冒険者として依頼をこなしてお金も稼ぐ。あと、小娘って言っても身長同じくらいだよ」



「俺は大人、お前はまだ子供、そういうことを言ってるんだよ。それでアンティルさん、本当にそうなんですか?」



「まあ魔法を指南していることは事実だ」



 クリルはアンティルに頼み込んで弟子にしてもらうことに成功していた。初めは渋るアンティルであったが、半ば連れ出すような形になってしまった以上、断るわけにもいかなくなり承諾することになった。



「いやでも、獣人に魔力を持つ者は少ないはずだし、コイツの『役割』は……いや、悪いな。アンティルさんから見て、クリルに素質があるってことですか?」



「ああ、コレには少なくない魔力がある。それに……センスも悪くないな」



「え、本当に? わたしに魔法のセンスがあるの?」



「ああ、まあ無いとは言えんな……」



「うう、なんてこった……」



 実際、アンティルの目から見てもクリルは明らかに魔法のセンスに恵まれている。クリル以外に他種族に魔法を教えることなどまず無いし、あまり性格上褒めることは苦手なアンティルであっても褒めざるを得ないくらいの成果をこの二日でクリルは達成していた。

 ロビはクリルの見通しの甘さを指摘してもう一度考え直せと追い返すつもりであったが、その思惑は一瞬で崩れ落ちた。

 そして、何よりロビが気になったのはアンティルの態度である。央都で用心棒として雇ってから一ヶ月余りが経つが、必要以上には商人達とコミュニケーションを取ろうとせず、決してこちらに心の内を見せなかった魔人が、何故縁もゆかりもない獣人の少女にここまで肩入れするのか。何か裏があるのかとも当然疑うが、クリルにたまに投げかけられるアンティルの視線はどこか子を見守る親のように見えなくもなかった。



「ロビ、迷惑はかけないから央都まで付いて行ってもいい?」



「……まあ話は通しといてやるよ。明後日、日が出る頃に出発するからな。しっかり身支度を整えとけよ」



 どのように仲間の商人達に説明しようかと考えるが一向に名案の浮かばないロビは頭を抱えた。







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