13夢の中で父に会いました。
「クラウディアは紅茶を飲むかい?」優しく笑いかけてくれる父に頷き返す。
父は満足気にポットからティーカップに紅茶を注いだ。
「熱いから気をつけるんだよ」微笑ましいものを見つめるように、優しげに弧を描く瞳に安堵する。
見覚えのある懐かしい景色。
3年前に枯れてしまった桜の木が満開に花咲いている。
私はワンピース姿で庭先にいて、真昼間から父と二人でベンチに腰掛けていた。
ーーー懐かしい記憶。
「クッキーもあるが、食べるかい?」父はクッキー缶の蓋を開ける。
缶に手を伸ばし、そのうち一つを口に放り込んだ。
「甘いだろう?」嬉しそうに笑う父に、コクリと頷き夢中で食べた。
「クラウディア…きっとこの先、辛いこともたくさんあるだろうけど…」父は言葉を切って、ゆっくりと紅茶を口に含んだ。
私の頭を優しく撫でる。
「辛いときは逃げていいんだ…けど、逃げられないこともある。そんな時はね…」父は悲しげに眉を下げ、私の髪を掻き回す。
温かな紅茶の香りが風に乗って、鼻腔をくすぐった。
「美味しいものをたらふく食べて忘れなさい」
父の横顔はどこか遠くを見つめている。
風が一陣、駆け抜ける。
桜の甘い香りが風に乗って吹いていった。
冷たい春風が頬を撫でる。
父の髪が風に靡いて、ひらりと…芝に落ちる。
太陽の光を反射して輝く頭頂部が露になる。
私は地面に手を伸ばし、それを拾い上げた。
「ああ、すまないね」
父は何事も無かったように、それを被り直した。
「お父様の毛根は焼け野原だったのですね…」
「まだ終わっていない、諦めたらそこで試合終了さ」
「覆水盆に返らず…です」
「毛根に対して随分な表現をするね…」
「お父様の…ご顕在だった頃はどのような御姿だったのですか?」
「毛根を言い淀むと、私が死んだみたいに聞こえるよ?目の前にいるからね?」
「どうぞ、それが退却する前の状態を私に話してください」
「そんなエキセント翻訳みたいに…」
「そもそも生えていたんですか?」
「私にも若い頃があるさ。そうだね…私がふさふさだった頃、それは艶やかな黒髪だったよ」
「記憶は美化されると言いますね」
「嘘じゃないからね!?」
父は嘘泣きの真似をする。
それを無視してクッキー缶に手を伸ばした。
甘い味が口に広がる。
昼下がり、父と2人きり。
母と兄は訓練に行ったというのに。
「お父様は戦わないのですか?」私の質問に父は困惑したように、頬を掻いた。
「…私はエリウス公爵家当主だからね、弱々しいくらいが丁度いいんだよ」
「お母様は強いです」
「そうだね」
その答えに私は頷く。
「お兄様も」
「ああ、そしてクラウディアも」
その答えに私は首を振る。
「クラウディアおいで」父が両手を広げるので、少し躊躇ったのちにその腕に飛び込んだ。
「愛してる、愛しいクラウディア」
父はそう言って、私を抱きしめ背をさすった。
体温が服越しに伝わって、私は力を抜くように息を吐いた。
「ねえ、クラウディア…教会で働いてみないかい?」
私はその提案にコクリと一つ頷いた。




