その六
ボヤ騒ぎが起きた、三つ子山のふもと。
薄暗い闇の中に、場違いなほど巨大な、異様な大木が佇んでいた。張り巡らされた根で足の踏み場もない。そして、数本ある大木のすべてが、いびつにねじれて歪んでいた。中には、幹が大きく湾曲して地面に埋まっているものもあった。
「――――どうなってんだ!? 昨日までは、こんな木……」
「はい。無かったと思います……」
「ナンカ不気味」
トモカさんはともかく、花畑を手入れするため毎日のようにここを通る二人が口をそろえて言うのだ。間違いないだろう。
「それにこの木、この辺りのものじゃない気がします。なんだか、怖いです」
万美さんはおびえて顔をしかめ、樹理さんの背中に隠れる。
ゾッとするほど冷たい風が吹いて、壁のように立ちはだかる大木の枝をゆらした。生い茂る葉は、この薄暗闇の中でもやけに青々としているのが分かった。
「この辺りの木じゃ、ない?」
改めて見ると、大木はどれも苔や傷あとがまったく無く、表面の樹皮はピンと張ってみずみずしい。樹齢とサイズがちぐはぐで、ひどく作りものめいていた。
「……まるで、ついさっき生えてきたみたいだ」
「ソウダネ。……ちょっとおいしそう」
おなかを押さえ、舌なめずりするトモカさん。
「トモカさんは黙ってて下さい」
「えー」
「黙れ」
「……わかったヨ」
樹理さんに睨まれ、トモカさんはしゅんと肩を落とした。親友に噛みつかれた溝は深い。
「樹理さん、私、そんなに気にしてないですから……」
見かねた万美さんがおろおろと慌てる。分け目から飛び出したくせ毛がぴょんぴょんと伸び縮みしていた。……ずっと思ってたけど、こういうの、アホ毛と言うんだろうか。失礼だから言わないけど。
「ホラホラ、マミちゃんもコウ言ってるし」
「お前が言うな」
「いいじゃないですか。許してあげてください」
「……わかったよ、ったく」
腕にくっつかまれたまま上目づかいで見つめられ、樹理さんが折れた。茶髪の頭を気まずそうにかいて目をそらす。
「それじゃあ、仲直り、ですねっ」
言いながら、万美さんは間に入って二人の手を取った。困惑する樹理さんに、万美さんは満面の笑みで笑いかける。
「握手、しましょ?」
「は?」
露骨に顔をしかめる樹理さん。
「おう」
一方トモカさんは、大して気にした素振りも見せず、右手を差し出す。
「ほらほら、樹理さんもっ」
「わかったっつの!」
万美さんに背中を押され、樹理さんも、照れたように明後日の方を向きながら手を出した。回り込んだ万美さんが、二人の右手をつなぐ。
「いいですね、いいですねっ! ……えへへ」
嬉しそうにその場で飛び跳ねる万美さん。くせ毛が、犬の尻尾のように左右に揺れ動く。トモカさんの視線が釘づけになっていた。
「それで、結局、この木はなんなんですか?」
タイミングを見計らってから尋ねると、樹理さんは照れ臭そうに握っていた手をふりほどいた。打って変わって、真剣な表情で答える。
「――――多分、あの黒い星を呼び寄せた奴の、〝星の力〟だ」




