鵜呑みにしてはいけない
前回のあらすじ!
わたしは洗われて、きれいになった!そして今日は、ナイルちゃんとパトロールをする!
わたしは今日も空が明るくなってきたくらいで起きた。昨夜は、朝に窓から外に出たせいで部屋の場所が分からなくて、ラウネちゃんに教えてもらったりと、色々あったけど……よく眠れた。
わたしはドアを開けた。静まり返った廊下。わたしはドアを閉じた。窓を開けた。
「やっぱり、わたしはこっちの方がいいなぁ……。」
というわけで、今日も窓からダイブ!!
なんだか今日は曇り空だったから、一応窓は閉めておいた、風魔法で。雨が吹き込んで部屋が水浸しになったら嫌だからね……。
「おはよーーーーっ!」
下からラウネちゃんの声が聞こえてきた。わたしも挨拶を返す。
「おはよーーーーう!」
ぐるぐると螺旋状に回転しながら滑空し、ラウネちゃんの前に降り立った。
「今日も早起きだね。」
「そうなのかなぁ、わたしからすればこれが普通なんだけど。」
そんなこんな、しばらくラウネちゃんと話していると、ナイルちゃんが欠伸をしながら玄関から出てきた。
「あれ?いつも一番のねぼすけさんなのに、今日は早いね?」
いつものナイルちゃん、リュウ君よりねぼすけさんなんだ……。
「ふわぁ……なんか外から、ものすごい声量で、『おはよう』って2回くらい聞こえてきたから、起きちゃったんだよねぇ……。」
わたしはラウネちゃんと顔を見合わせた。これに関してはわたし達に非があるなぁ……。
「まぁ起きちゃったもんは仕方がないからさぁ……ふぁぁ……ちょっと早めにパトロールしてこようかなって。」
めちゃくちゃ眠そうなナイルちゃん。これは申し訳ない事をしたなぁ。
「ってなわけで、ちょうどそこにハルっちが居るでしょ。連れてっていい?」
あ、そうだった。今日、ナイルちゃんとパトロールに行くんだった!
「そうだね、いつもの時間帯より、人気の少ない朝早くの方がパトロールの効果もあるかも?もっと言えば夜にパトロールするとか……」
「それは、夜間専用の人員を用意しないと無理!」
ナイルちゃんが食い気味で却下した。わたしも早朝ならまだしも、夜のパトロールはあんまりやりたくないなぁ。
「最悪、私がやるかぁ……」
「それも駄目!ラウネっちひとりじゃ危ないでしょ!」
「……そうだね。」
ラウネちゃんは見るからにしょんぼりしてしまった。まぁ、大将がひとりでパトロールしてたらそりゃあ危なすぎるから、わたしも流石にナイルちゃんと同意見だなぁ。
「ま、とりあえず、みんなが起きる頃くらいには帰ってくるかなぁ。とか言って、その時間まで寝てるのってあの駄龍と、あたしくらいだけど。」
「分かった。気をつけてね、ハルちゃんも。」
「うん!頑張ってくるよ!」
わたしはナイルちゃんと一緒に、お城から少し離れたところまでやってきた。そこには石レンガの道が整備されていて、遠くの方には石造りの大きな壁が見えた。
「パトロールするのはこの辺りだね。あの壁の中は人間の街なんだけど、その周りにあるこの道のパトロールがあたし達の仕事。」
「ふーん、人間の街の近くをパトロールするんだ。なんで?」
「まー理由は2つあって、1つは害のある魔物を駆除すること、もう1つは悪い人間をやっつけること!要するに、悪いやつらは全部倒しちゃえっていうこと!この辺って、特に変な魔物が多くってね、例えばあの虫とか。」
ナイルちゃんの指さす先には、でっかい虫が。初めてナイルちゃん達と会った時に、追いかけてた虫と同じ種類のやつだ!こんなところにも居るんだ。
「あれは、花を喰い荒らすだけじゃなくて、人間にも襲いかかることがあるし、あと、ラウ姉みたいなアルラウネにも襲いかかるし……とにかく迷惑なやつ!だから……」
ナイルちゃんは深く息を吸い込んだ。
「『青火』っ!」
ナイルちゃんの言霊で、青い炎が虫を包む。虫は暴れる間もなく黒焦げに。火の色以外はあの時と同じだ。
「見つけ次第、倒しちゃっていいから。」
「分かった!食べても良い?」
あの虫、意外と美味しかったりもするんだよね。でもみんな食べちゃダメって言うから、こっそり狩ってひとりで食べてたのが懐かしい。
「……え?」
「やっぱりダメなの?ママやみんなもダメって言ってたんだよね、美味しいのに。」
「美味しいって、あれ、毒虫だよ……?全身毒だらけの。なんなら体液を武器に塗って使われるくらいの。」
「え?そうなの?」
じゃあわたし、なんで無事なんだろう?
「……とにかく、食べないほうがいいよ。帰ったら多分ライム君がなんか用意してくれてると思うし。」
「そうだね!あの虫よりもライム君のパンの方が美味しいもんね!」
「そうそう。パンのためにも、ちゃちゃっと済ませて帰ろう!」
「おー!」
わたし達は、左回りでパトロールを始めた。すぐに虫を何匹か見つけて、ナイルちゃんが即焼いて。
「わたしも、虫くらい倒せるのにぃ……。」
今のままじゃ、わたし、役に立ってないじゃん。ただ居るだけ。
「どうする?ひとりでパトロールする?あたしが引き返して逆周りで見て、ハルっちがこのまま進めば、時間短縮になると思うけど。」
「わかった、それで行こう!」
というわけで、わたしはひとりでパトロールすることになった!頑張るぞ~。
それにしても、虫がけっこう多いなぁ。これじゃあ、外に出てきた人間が襲われちゃうよ。とりあえず、片っ端から潰してるけど。一旦飛んでから急降下しないと、体重の軽いわたしじゃ踏み潰せないから、けっこう面倒くさい。
そういえば風魔法って使えるかな?もしそれでいいなら、かなりの体力温存になりそう。あそこにもう1匹いるから、試してみようっと。
でも、風だけで攻撃しようとしたら、図書室で紙をばらまいた時みたいに周りが大変なことになりそう。クロ君みたいに、石を飛ばせばけっこうな威力になるんじゃないかな?
わたしは石を拾って、近くに居た虫に狙いを定め、イメージを固める……。空気を集めて、それを一気に押し出して石を飛ばす感じ。そして、それを実行!
「わぁっ!?」
石を発射した瞬間、わたしは後ろに吹っ飛んで、派手に転んで地面を転がった。そりゃ、集めた空気を発射する時に、反動が来るよね。考えてなかった……。
起き上がって辺りを見回すと、虫は……ぐちゃぐちゃに消し飛んでいた。見るも無惨に、原型をとどめないほど。さ、さすがに悪いことしたかなぁ……。
わたしは、そそくさとその場から飛び去った。
しばらくは、飛びながら、数個持ってきた石を虫にぶつけて駆除しながら進んだ。反動も空中で上向きにかかるから、さっきよりは影響は抑えられていて、吹っ飛ぶことはなかった……まぁ、威力を抑えめにしてるせいもあるけど。さっきみたいにむごいことになったら嫌だし。
案外、適当に狙っても命中するね。やっぱり、魔法で飛ばしてるから、イメージが大事なのかな?『あの虫を撃ち抜く!』っていう意思が?(石だけに……)
手持ちの石が尽きてきた頃、人影が見えた。あれは多分、街に住んでる人間かな?ちょっと挨拶していこう。
「こーーんにちは!!」
わたしが挨拶すると、人間たちは驚いたふうな反応をしてから、こちらを見た。よく見たら、あの人達も虫を狩ってたみたい。
わたしは石の補充のため、地面に降りた。ついでに人間たちに近付いてみる。人間たちは4人組みたい。
「こんにちは。こんなところで何してるんだ?」
「パトロールだよ!悪い魔物とか、悪い人間を倒すの!」
「そうか、偉いな。ちょっと待っててね……」
人間のうち1人がかばんを開けて、中からなにか取り出した。茶色くて丸い、小さな玉がいくつも入っている。
「飴ちゃんいるかい?」
「アメチャンってな~に?」
あの小さい玉のことかな?
「甘いお菓子だよ。口の中で舐めて、溶かして食べるんだ。」
「ふーん、くれるの?」
「どうぞ。」
わたしはそのアメチャンというものを2個くらい受け取った。1個を口に入れてみる。けっこう甘い。あと、なんだか別の風味もする気がする。どこかで食べたことあるかも……?
「美味しい!ありがとう!じゃあ、わたしはパトロールの続きに行ってくるね!」
「え、ちょっと待ってよ。せっかく出会ったんだからもうちょっと話していかない?」
人間のひとりに引き止められた。まぁ、わたしは結構速くここまで進んできたし、あとはナイルちゃんに任せちゃってもいいのかも?
「うーん、まぁいいよ!」
そうしてしばらく、わたし達はお話をした。
「あ、ハルっち、居た居た。その人達だれ?」
しばらくしたら、反対側からナイルちゃんがやってきた。向こう側のパトロールは終わったみたい。
「この人達?さっきここで会ったの。いい人たちだよ、アメチャン?くれたし。ナイルちゃんも食べる?」
わたしは、風魔法で浮かせていたもう1つのアメチャンをナイルちゃんの方にスライドさせた。ナイルちゃんも欲しいかと思って、食べずに1個取っておいたんだよね。
「へぇ~、ん、なんだこれ……?」
ナイルちゃんはそれをつまんで、においを嗅いだ。
「……『天火』!!」
ナイルちゃんは急に表情を変えて、左腕を天に掲げ、空に向かって何かを発射した。わたしがそれに気を取られている間に、首元を引っ張られた。
「ちょ、ナイルちゃん?どうしたの!?」
わたしを引っ張ったのはナイルちゃん。そして頭上では大爆発がして、轟音が響いた。さっきナイルちゃんが発射した何かだと思う。
「『火壁』!」
人間たちのうしろに、炎の壁が展開された。人間たちはもちろん驚いてる。ナイルちゃん、どうしちゃったんだろう……。
「ハルっち、何かされた?身体は動く?」
「え、わたしは……大丈夫だけど。なんで、こんなこと……」
「あのね、ハルっちは今、毒を盛られてたんだよ。あの飴、さっきの虫の成分が入ってる。」
……え?
じゃあ、あの虫を狩ってたのも、街の人のためじゃなくて、素材にするため?
わたしを引き止めたのも、おしゃべりしたいからじゃなくて、毒の効果を待つため……?
「あの虫の毒は、麻痺の効果がある。いつ頃あれを食べた?」
「えーと……けっこう前。あの人たちとけっこう長く話してたから。」
「……でもまだ効果が出てないってことは、やっぱりハルっちにはあの虫の毒に耐性があるのかな。普通は割とすぐに身体が動かなくなるよ、あんなに臭うほど成分が凝縮されてたらね。」
……わたしは鼻が利かないから、気付かなかったんだ。どこかで食べた味だと思ったのは、あの虫だったんだ。
わたしはショックだった。優しい人達だと思っていたのに、裏切られたこと。それ以上に、悪い人間が目の前にいるのに、気付けなかったこと。
「あんた達、抵抗しないなら命までは取らないから、大人しくして。」
ナイルちゃんが人間たちにそう告げた。だけど、人間たちはかばんから武器や杖を取り出して……。
「下がってて。あたしが何とかする。」
ナイルちゃんはそう言うけど……
「いや、わたしも戦える!」
せっかく出会った人間たちは、ワルモノだった……!
第8話へつづく!
tips:「スライム」
原初の魔物。水辺を中心にそこら中に蔓延っている。
小さいからと言って油断は禁物。強力な個体の分体である可能性が否定できない為。
原初から存在するので、長生きの個体は万単位の年月を生きている。また老いという概念もない。
能力値は個体によってまちまちだが、古い個体は知識や技術を蓄えている為強力になりがち。




