カラスの行水
前回のあらすじ!
魔王様に挨拶に行った!魔王様はなんと、わたしより年下だった!
「そんなに驚くほど?」
ナイルちゃんが首を傾げてこっちを見てるけど、わたしにとっては驚き桃の木山椒の木だよ!
「年齢なんてなんの物差しになるの?年の功?」
……それを言ってるのが、3000歳オーバーらしいナイルちゃん。長生きしてるのも強さの秘訣だと思うけどな。
「それはお前が言う台詞ではない。」
魔王様も同じ事を思ってたみたい。そりゃそうだよ。
「だが、我は今までの全ての魔王の知識や記憶を引き継いでいる。それに、魔王は成長する事も老いることもない故、年齢という概念を当てはめる意味もない。」
はぇ~、2歳って言っても最初から大人みたいなものなんだね。そして、記憶を引き継いでいるってことは、前の魔王様の生まれ変わりみたいなものってことか。
「そうだよ、だから結局なんの評価基準にもならないんだって。」
「我とお前とでは話が違うだろう。程度に差はあれど、寿命の長い種族は……」
「ストーーーーップ!!」
魔王様の話を途中でラウネちゃんが遮った。何やら焦った様子で。
「その話より、魔王様の得意ないつものやつ、ハルちゃんにも聞かせてあげてよ。」
「えー、あの惚気話またさせるの?あたし飽きたんだけど。」
魔王様は……顔がちょっと赤い。どんな話なんだろう、ちょっと気になる。
「我の友人の話か。いいだろう。あれは、我が生まれてすぐの事だった……。」
「我が生まれたのは、真っ暗な洞窟の底。最初は自分が何者かも分からなかったが、引き継いだ記憶を頼りに火魔法で明かりを作り、洞窟を彷徨っていた。」
真っ暗なところだったんだ。わたしだったらすぐにおかしくなっちゃいそうだなぁ、日の光が届かない所じゃ。
「正直、孤独と暗闇で狂いそうだったが……そんな時に出会ったのが、我が友人だ。」
あ、やっぱりおかしくなりそうだったんだ、魔王様も。そりゃそうだ。
「我が友人はミミックで、洞窟の中でもひときわ綺麗で明るい部屋に居た。まぁ……なんだ、我は開けたのだ。パンドラの箱を。」
「大袈裟に言ってるけど、ミミックの宝箱を開けちゃったってだけなんだよコレ。」
ミミック……宝箱の中から出てきてひとを驚かせる、小人の魔物。わたしも森に落ちてた箱を開けたらミミックの宝箱だったことはあるけど、間違って開けても彼らは驚かせる以上の事はしないから特に害はないし、暇ならちょっとした遊び相手にもなってくれる。でも宝箱から出てきたらちょっと残念。魔物というよりどっちかというと妖精みたいなものだって聞いた気がする。
「疲れ切っていた我は、出口を探すのを一旦止めて、しばらくそのミミックと過ごした。その部屋は彼が丁寧に手入れしていたのだ。」
「新しい魔王様を待ってるあたし達が居るのに、このクソザコ魔王様はのんびりしてたってわけ。」
「……彼奴があの部屋から出られないか、試していたのだ。依代の宝箱が部屋から持ち出せないようになっていてな……。ミミックは依代から遠く離れることは出来ない。」
あぁ、だから魔王様のお友達は、この魔王軍に居ないんだ。
「結局我は、また会いに行く事を誓ってその場を離れた。そうだ、我の名前もあいつに貰ったものなんだ。『マオ』。魔王だから、マオくんって呼ぶね!ってな……」
「出た、最大の惚気ポイント。こっちまで恥ずかしくなっちゃう。」
ナイルちゃんは頭をポリポリ搔いて、頬を赤らめた。わたしは素敵なお話だと思ったけど、何度も聞いてたら飽きるのもしょうがないか。
「結局魔王様は、ここに来てからもたまにその子に会いに行ってるんだよね。」
「そうそう、だから昨日も居なかったんだよ。ま、それについてとやかく言うつもりは、あたしは無いけど。」
その子とはずっと仲がいいんだ、なんだか微笑ましい話だなぁ。それはそれとして気になるのは……
「結局その後、魔王様はいつ地上に出れたの?」
「あー……前の魔王様が亡くなってから、3路後だったかな。」
「3路っていうと……1路が19日だから、60日くらい……?」
「全く、待ってるこっちの身にもなってみろって話だよねぇ。60日間も、こっちはボス無しで戦争してたんだから。」
「……仕方がないであろう、洞窟の出口を見つけるのに時間がかかったのだ。そもそも、復活地点が洞窟の奥底だったのが運が悪かった。」
「……この非運め。」
ヒウンって何?と思っているわたしに、ラウネちゃんが耳打ちする。
「魔王様、何かと運が悪いんだよね……。ちなみに私は何故か運が良いから、ちょっと申し訳なかったり……。」
ヒウンって、運が無いって意味か!
「その後って、どうなったの?なにがどうして平和になったの?」
わたしは気になった事を更に聞いてみた。つい最近までそんなに戦争してたのに、今は魔王様がサボっても誰も怒らないくらい平和。何があったのか気になった。
「あぁ、その話もして欲しい?その時の事を直接知ってるのって、あたしとあの駄龍くらいだし、ここで話しておくか。」
ん?他のみんなはその時には居なかったってことか。わたしだけが新参者かと思ってたけど、みんな意外と新しいメンバーなんだ。
「まず、先代の魔王様が倒された後、あの駄龍が怒って、人間の王都近くで大暴れしたわけ。それまでは先代魔王様の判断で大人しくしてたんだけど、指示を出すひとが居なくなったわけだから、あいつは止められなかった。あたしでも。」
あの気怠げなリュウ君も、ちゃんとドラゴンなんだ。怒らせたら止められない、天災。
「ま、あたしもひとの事は言えないんだけどね。あいつが大暴れした混乱に乗じて、人間の王と、偉そうなやつらを全員暗殺したから。」
「えええ!?」
「もちろん、人間の国はそりゃあ大混乱になったよ。でもそのおかげで、和平に繋がったから、結果オーライかな。まぁ当時のあたしや駄龍はもう、一国を滅ぼそうって気でいたけど。」
「何がどうなったらその状況から和平になるの……?」
「その後起こった事は2つ。まず、人間の国では、上層部に不満を抱いていた国民達が蜂起して、国を乗っ取った。新たな王は和平を望んでいた。次に、うちの新魔王がやっと魔王城に辿り着いて、あたし達を止めた。これ以上血を流す必要はないと。まぁ先代様はかなり強引なひとだったからねぇ、自分の力だけで全部解決しようとして……その結果道半ばで死んだ。今となっては、クソザコ魔王様の方がいいって思えるね。ちゃんとあたし達を頼ってくれるし、後で考えたらあのまま戦ってても良いことはなさそうだったし。」
そっか、魔王様は先代様の記憶を引き継いでるけど、別人であることには変わりないんだ。だから考え方も別。
ナイルちゃんはそう言いながらも少し悲しげな表情。リュウ君もナイルちゃんも、それだけ怒るくらいには、先代様の事が好きだったんだろうなぁ。
「まぁそんなわけで終戦になったから、今は人間の国とはもう争ってない!お互いに危害を加えないって条約も出来たし。」
「我が生きている間はこの平和を崩させる気はない。そのための新しい人員も補充している。」
「そう、それがラウネっち、ミドリ君、ライム君……あと、ハルっちもそう!」
そっか、平和のための……わたしも頑張らなきゃ!
「そうだ、早速、明日からナイルちゃんのパトロールについて行って欲しいんだけど、いいかな?いずれはハルちゃんひとりでも出来るように……。」
「うん、わたし、役に立ちたい!頑張るよ。」
ラウネちゃんは手を差し出してきた。わたしも翼を前に出す。ラウネちゃんはわたしの翼の先を握って、2回縦に揺らした。
「あ、それじゃあ今日は、次にやってもらいたい事があるから、私についてきてくれる?」
「うん、分かった!」
魔王様とナイルちゃんに見送られて、わたしはラウネちゃんと部屋を出た。
連れてこられたのは、2階の奥の方、突き当たりの部屋。3階と比べて廊下がけっこう短い気がしたから、たぶんけっこう大きい部屋の入口?
ドアの先には……小さな部屋と、奥にもう1枚のドア。
「ハルちゃん、水浴びって好きだった?ハーピィには好きな子と嫌いな子が居るって、ライム君が言ってたけど。」
え……待って、今それを聞くってことは。
「あ、あんまり好きじゃないかな……。」
「そっか。あとさ、いくら羽毛があるからって、服くらい着たほうがいいんじゃない?そうは思わない?」
「いや、思わなくはないけど、着脱が……。」
わたしの翼じゃ、服を着たり脱いだりするのは難しい。羽根を硬化したら布が切れちゃうし。そんな感じだから、わたし達ハーピィは基本的に着衣の文化は無いけど……。
と、ここで奥のドアが開く。出てきたのはライム君。
「風魔法、覚えたんだから、服を着る、くらい、出来るよ。」
そっか、そういえば風魔法が使えるようになったんだっけ。風でそこまで出来るんだ……?ライム君が言うなら間違いないんだろうけど。
「上手く応用、すれば、人間の、指のように、扱うことも、出来る。」
ライム君が説明してくれるけど、わたしが気になるのは、ライム君が開けた扉の奥。
「じゃあ決まりだね!名付けて、『ハルちゃんをお洒落にしちゃおう作戦』!まずは、お風呂で綺麗にしちゃおう!」
や、やっぱり、水浴びだぁぁ!?
「あ、泡だらけなんだけど……。」
「このくらいモコモコにしないと、綺麗にならないよ!ほら、ライム君も手伝って!」
「なんで、ボクまで、泡だらけに……。というか、ボクは、さっき、入浴済みなのに……。」
「この水、あったかい……。」
「ここのお湯、魔道具、使って、温めてる。たまに、ナイル、魔力補充、してる。」
「私が提案したら、ライム君とナイルちゃんが作ってくれたんだよ、このお風呂。すごいよね!」
「あ、なにコレ?」
「それは、筆毛。羽根、生え変わる時、そうやって、鞘、包まれて、出てくる。優しくほぐすと、喜ばれる、事もある。」
「え、ちょ」
「こう?」
「あ、待って、あぁっ!?」
「……ほどほどに。」
「そういえば、ラウネちゃんは服を着たまま入ってるけど、いいの?」
「あ~、私の服って、ほぼ体の一部みたいなものっていうか、自前の器官というか……なんというか……?だから、濡れてもあんまり気にならないし、植物的にはどっちかというと嬉しかったりもする。ちなみにもっと違うデザインに出来たりもするんだけど、私は大体いつもこれかな~。他の国とかへ行くともっと露出が多かったり、逆に厚着だったりして特色があって面白いよ。アルラウネを見ればその地域の気候がなんとなく分かったり……」
「種族によって、文化や、得意、不得意、外見、能力……色々、違う。他種族の事、知る、ボクは、楽しいと、思う。ハルは?」
「うん、わたしも色々新しいことを知れて楽しいよ!」
そして……。
綺麗に洗われたわたしは、ラウネちゃんに着せ替え人形にされるのであった……。
「このドレスとかどう?ハルちゃんに似合うと思うんだけど。」
「…………もうちょっと動きやすいの、無いの?」
「えぇ~、もっと飾り付けしたいのにぃ。」
周りに色々置いてある服は、わたしのような小さい身体の種族用に、ラウネちゃんが(原料から)作ったものらしい。こんなに、何十、何百も……??
「ラウ姉。ハーピィは、シンプルで、布面積の少ない、軽装を、好む。その方が、機動力を、損なわない。ハルの、言う通りに、した方が、いい。」
「はーい、わかったよぉ。」
その後色々あって……わたしは、軽い銀色の胸当てと、丈夫そうなハーフパンツを貰った!これなら飛ぶ時にも邪魔にならないはず!ラウネちゃんは、完全自作のものを渡せなかったって悔しがってたけど……。
さぁ、来たる明日のパトロール、これで準備バッチリ!頑張るぞ!
「え?ボクが、羨ましいって?何がさ。言っておく、けど、ボクは、原始的な、生命体で、性別とか、無いからね。」
「何の話?」
「まぁ、いいや。それじゃ、第7話へ、つづくよ。」
「あ、ちょっと、勝手に締めないで!ちょっと、ちょっと~!」
tips:「ミミック」
ひとを驚かす事を生業とする魔物。魔物に分類されることが多いが、妖精や精霊の方が近い。
戦闘能力は皆無で、基本的に驚かす以外は無害。
宝箱から離れられないので、宝箱ごと持っていけばお持ち帰りすることも可能。




