鳥頭じゃないもん!
前回のあらすじ!
わたしはナイルちゃんの油揚げを奪った!ナイルちゃんの逆鱗に触れた!!
「待ちやがれぇ、この駄鳥!!」
「やだやだ、痛いのは嫌だぁ!!」
逃げるわたし、追いかけるナイルちゃん。わたしの方が少し速いはずなのに、ルート選びが違うのか、引き離せない!
迷子になりそうだからあまり遠くへは行ってないけど、逃げてる間に鐘が2回くらい鳴ってるし、もうかなりの時間追いかけっこしてるよ!
「『狐雷』!」
「ひゃぁぁ!?」
ナイルちゃんの魔法が、目の前の木に命中。焦げ目がついた。あんなの喰らったら墜落しちゃうよ!
「『空壁』!」
半透明な壁が目の前に出てきた。でもその手にはもう引っかからないもんね!
わたしはくるりと反転して足から壁に着地、壁を蹴って反転、斜め上に飛ぶ!
「逃がすかぁっ!『火壁』っ!」
四方を炎の壁で囲まれちゃった!っていうか、ナイルちゃんの魔法の種類が多彩すぎる!
「ナイルちゃんは、どうやってそんなにいっぱい魔法を使えるようになったの?」
わたしは思わずナイルちゃんに訊いてしまった。わたしだって魔法使いたいし。
「ああ、これ?これは魔法じゃなくって、言霊ってやつなの。魔法はイメージしただけで使えるけど、あたしの言霊は言葉にしないと発動しない。その代わり、一定の条件さえ満たしてれば、口に出すだけでそれを具現化できるの。例えば『狐火』だと……」
ナイルちゃんの手のひらの上に、オレンジ色の炎が現れた。そしてよく見ると、ナイルちゃんの尻尾が何本か光っている気がする。
「こんな風に、言葉の通りのものが出せる。ってことで、『火壁』を展開した今、ハルっちに逃げ道はもうないってわけ。」
やば……本当にもう逃げ場がないじゃん。でもまだ諦めたくはない……
こういう時どうするか?直感に従う!
「って、ちょっと!?」
わたしは炎の壁のド真ん中に向かってダイブ!!!
……やった、抜けられた!
ちょっと熱かったけど、羽根を硬化しておいたから燃えずに済んだし、意外と火の壁の厚さが無かった。
「っ……『空蹴』!」
まだ追いかけてくるのかぁ、そろそろ諦めてよ……。
「火に突っ込むなんて、めちゃくちゃだよ!どういう発想!?」
「え……直感?そうすれば助かると思ったから?」
「……おーけー、分かった。もういい。追いかけるのやめる。」
ナイルちゃんが、階段を降りるように下降していって、地面に降りた。息切れしてる?体力切れ?
「あの雑草、外に出られたらあたしが追いつけないのを分かって、窓を開けたな……?」
雑草って……。とりあえずラウネちゃんには感謝しなければ。いまわたしの顔が腫れていないのはラウネちゃんのおかげだから。
「ハルっちの……生存能力の高さの理由が分かった。」
「え、何?」
「未来視の魔法を使ってるんだよ、無意識に、常に。」
「ミ……ミライシ?なにそれ?」
「まーいいや。ハルっちに言っても……わ、わか……」
ナイルちゃんはついに膝をついてしまった。そっか、ナイルちゃんはその小さな身体で、ずっとあの重そうな尻尾を支えながら空中をダッシュしてたんだから、そりゃあ疲れるよね。最強って言ってたナイルちゃんにも弱点はあるんだ。わたしとラウネちゃんを運びながら走ってた時は、距離もそんなに長くなかったし大丈夫だったんだろうけど、この長時間となるとダメなんだね。
「と、とにかく……明日、ライム君の所へ行って、魔法の勉強してきて……。」
ナイルちゃん、めちゃくちゃ疲れてる。今にも倒れそう。
「大丈夫?」
「……大丈夫じゃない。肩貸して……。」
流石にナイルちゃんを掴んでは飛べないから、その後はそのまま歩いてお城の方まで帰った。
わたしも疲れていたから、入口でクロ君とリュウ君が出迎えてくれたところで、ナイルちゃん共々倒れて……
「……ここは?」
気がつくと、朝になっていて、わたしは知らない部屋にいた。これは、ふかふかのお布団?森に居た時は、ボロ切れや葉っぱを敷いて寝てたから、こんなのは始めての経験だ。
そっかわたし、昨日、魔王軍に……。
食堂のよりドアは小さめ、全体的に見てもわたしくらいの小さい種族用の部屋に見える。たぶん、それ用に作られた部屋なんだと思う。
ドアを開けると、見覚えのない場所に出た。昨日は1階と2階の一部くらいしか見てないし、窓から見た高さ的に3階より上だった気がするから、そりゃあそうなんだけど。
……お城の中が広すぎて、このままここを離れたら迷子になりそう。部屋には窓があったから、そっちから出ようかな。外なら最悪、入口まで飛んでいけば知ってる場所にたどり着けるもんね。
というわけで、わたしは窓を開けた。風が気持ちいい。けっこう高いね、ここ。高い所は好きだなぁ。
そのまま窓枠に登って、飛び降りる。空中を旋回しながら滑空。と、よく見たら入口の前にラウネちゃんが居る。こっちに手を振ってる!その後、上の方を指さした?
そっちの方を見てみると……お城の後ろから日光が差し込んで、すごく綺麗に見えた。ラウネちゃんはこれを見てほしかったのかな?
旋回を続けて、ゆっくりと地面に降りた。ラウネちゃんが出迎えてくれた。
「おはよう、ハルちゃん。早起きだね?」
「え、いつもこのくらいだよ?むしろ今日はちょっと遅かったかも!」
「へぇ、早起きなんだね。ハーピィってみんなそうなのかな?」
「たぶん、そうだよ!ラウネちゃんも早起きだね?」
「私はそもそも寝ることが無いから……。玄関のお掃除をして、時間を潰してたところ。」
ラウネちゃんって、寝ないんだ!アルラウネはみんなそうなのかな?植物だから?
「あ、そうだ。あの部屋、気に入ってくれた?ずっと使ってなかった部屋だから、昨日のうちに綺麗にしておいたんだよね。ハルちゃんが使う部屋にピッタリだと思って。」
「え、あの部屋って明日からも使っていいの?」
「勿論いいよ~。4階の部屋はほとんど余ってるから。なんなら他の部屋も勝手に入っていいからね。このメンバーの数じゃ、広い魔王城はちょっと持て余し気味なんだよね……。」
そういえば食堂も、クロ君とかが居る事を考えても明らかに余分な広さで、もっと大きいひとが入るためかな?って思ってたけど……本当に過剰なんだ。
と、ここで鐘が鳴った。いつもより小さい音なのは、みんながまだ寝ているからかな。
「皆が起きる時間はあと鐘2回分先……とは言っても、クロ君はいつも早めに起きて鍛錬してるし、ライム君と魔王様は寝ないから、まだ寝てるのはナイルちゃんとリュウ君くらいかな。まぁ、朝食はその後だから、それまで何かしてたらどうかな?」
「あ、じゃあ、ライム君のところへ行ってくるよ!昨日、3階の図書室で待ってるって言ってたんだ。魔法のこと教えてくれるって。」
「いいじゃん。行ってきなよ。ライム君はほぼずっと図書室にいるから、今行っても会えるよ。」
「分かった!よーし、行ってくる!」
と、意気込んで3階まで来たはいいものの……図書室がどこだか分からない!廊下を歩いてたけど、ぐるっと回って1周してしまった。
どのドアを開ければ図書室なのか、分からない。わたしは共通語なら読めるんだけど、どのドアを見ても違う言葉で書いてあって読めない……。ラウネちゃんに聞きに戻ったほうがいいかな……。
2階に降りる階段へ戻ろうとした時、ちょっとした違和感に気付いた。この廊下、右側にはいくつもドアがあるけど、左側には2個くらいしかない。一周回っても、そういえばこの2個以外にドアを見てない気がする。ってことは、右側……つまり廊下の内側、お城の中央には大きい部屋がある?そういえば、ライム君は『3階中央』って言ってた気もする。
間違えて開けても怒られないと思うし、ここが図書室である可能性に賭けよう!そう思って、わたしはそのドアを開けようとしてみた。大きい扉で、重いけど、なんとか開きそう。
「失礼しま……おわぁぁぁ!?」
ドアを開けたら、本が降ってきた!?
直感がヤバいって言ってたから、ドアを開けた時に1歩下がっておいたおかげで、怪我はしなかったけど……わたしは本の下敷きに。
「ごめん、大丈夫?そっちの、ドアは、長いこと、使っていないから……。」
ライム君が駆けつけてくれたみたい。そういえば、階段から遠い方のドアを開けたんだった。どっちも図書室に繋がるドアだったんだね。
「どのドアが図書室のドアか分からなくて……。勘で開けてみたら正解だったけど、不正解だった……。」
「そっか、ボクは、魔物語、読めるけど、今時の子は、共通語しか、読めないか。」
魔物語って……なんだろう?このお城で使われてる文字のことかな?
「この魔王城、1000年以上、前からある。700年前、人間の国の王、共通語、定めた。それから、魔物も、共通語、使うようになった。」
ライム君が本をどかしながら話してくれる。
「700年前……。ん?ライム君は何歳なの?」
「ボク?数えてない。けど、ナイル、3000歳以上、ボクは、それよりもっと。」
な、ナイルちゃんが3000歳以上で、ライム君はもっと……???
「……気が遠くなる数字だなぁ……。」
「ハルは、何歳?」
「わたし?14くらいかな。そもそも数える習慣がなかったから、大体だけどね!」
「……ふーん。」
ようやくわたしの上に乗っていた本が片付いた。
図書室に入ると、気が遠くなりそうなほどの数の本が出迎えてくれた。
「わぁ……すっごい数だぁ……。」
本ってのはじつは読んだことがない。わたしの翼だとページがめくれないんだよね。共通語の文字は森でも使われてたから、見れば読めるは読めるんだけど。
「一冊、読んでみる?絵本もあるよ。」
「読みたい。でも、ページがめくれないんだよね……。」
「そっか。じゃあまず、風魔法、習得しよう。」
風魔法……そういえばここには魔法のお勉強に来たんだった。
「風魔法を使えば、ページがめくれるようになるの?」
「上手く使えば、ね。ハルは、風によく、触れている、はず。だから、上手く使える、はず。」
今まで全く、魔法の事なんて意識したことがなかった。それでも出来るのかな……。
「不安?大丈夫。大事なのは、イメージと、魔力。魔力あれば、使うだけなら、誰でも、出来る。」
イメージ…………例えば、この床に散らばってる紙束を、吹き飛ばすとか……?
「あ、ちょっと、ストップ!」
「え?」
わたしのイメージ通り、紙束があちこちに吹き飛ばされた。わぁ、わぁぁ……!?戻って……戻れ……!
わたしが念じると、部屋の中央に向かって風が吹き、紙は一箇所に集められた。ふぅ、よかった……。
「……本当に、魔法、未経験?魔力の使い方、経験者か、それ以上か……。」
「うーん、そういえばナイルちゃんがなにか言ってたような気がする……。ミライシ?がなんとかって。」
「未来視?ちょっと、待って。未来視の魔法、使った?本当?」
「分からないけど、ナイルちゃんはそんなような事を言ってたような……。」
ライム君は身体をぐーんと伸ばして、高い所から本を1冊持ってきてくれた。共通語で書かれた本で、題名は『未来視の魔法と魔力』。
「これ、読んで。あのレベルで、風魔法、制御できる、本も、読めるはず。」
ライム君に渡された本に向かって、わたしは1ページだけめくれるよう念じた。……本当に、表紙だけがめくれて、目次が現れた。
わたしはそのまま本を読み進める……。
「失礼しま……って、何してんの?」
本を読みふけっていたら、ナイルちゃんが図書室に入ってきた。もちろん、手前側のドアから。
「本を読んでるんだ。」
「本?ハルっち、鳥頭だから読んでもすぐ忘れちゃうんじゃない?」
「と、鳥頭って言うなぁ!」
「まーそれはいいとして、もうみんな朝ごはん食べちゃったよ。ハルっちが帰ってこないから。」
「えっ!わたしの分残ってる!?」
「それは残してあるから大丈夫。全然帰ってこないから、スライスに何かされてるんじゃないかって思って、見に来た。」
どうやらわたしは結構な時間、本を読んできたらしい。初めての経験だから、ちょっと夢中になりすぎちゃったかも。
「スライスって、呼ぶな。メスガキって、呼ぶよ。」
「あたしはそれでもいいけど?」
「……女狐。」
「それはやめろぉ!」
このふたり、けっこう仲がいいみたい。長く生きてる同士で気が合うのかな?
「スライスって何?」
「ああそれは、あたしが風魔法を使ったら、ライム君がスパーンって切れちゃって……」
「うるさい、女狐。」
ライム君、怒ってる!?というか、スパーンされても生きててよかったよ!
「他にも、あたしが闇魔法を使ったらカチコチに凍った事もあって、スラアイス、なんて言って。」
「えぇ、ライム君、それでも生きてるんだ……すごい。」
「スライムの、生命力を、舐めないで。ボクは、これでも、何万年と、生きてるんだから。」
……万?万!?3000歳を超えるナイルちゃんより年上って言ってたけど、桁が更にもうひとつ……!?
「ま、とりあえずそんな感じだから、ハルっちも早めに朝ごはん食べたほうがいいよ~。あたしに盗られないうちにね!じゃ、失礼しました~。」
「盗らないで!待って!」
ナイルちゃんは図書室から出ていってしまった。わたしも後を追おうと思ったけど、まずは、本を返さなきゃ。
「ライム君、この本ありがとう!とっても興味深かったよ!」
「……読み切った、の?」
「初学者向け、って書いてあるとこだけだけど、だいたい全部読んだよ!だいたいわたしが何してたかは分かったよ!」
「そう。じゃあ、良かった。またそのうち、来てね。」
「わかった!じゃあわたしはもう行くね!失礼しました!」
わたしは図書室を出た。はやく朝ごはんを食べないと、ナイルちゃんに盗られちゃう!
てってれー!こうしてわたしは風魔法を使えるようになった!
第5話へつづく!
tips:「言霊」
遠い国の技術で、魔力とはまた違ったエネルギーを使った魔法のようなもの。
『身体の複数個ある部位』にそれぞれ対応する1文字を設定し、その文字の力を言葉で発する事で行使できる。設定し直すのには膨大なエネルギーを消耗するのでなるべく一度決めたら変えないようにするのが一般的。
設定した文字を複数組み合わせて使うことも可能だが、その場合は文字数に応じてエネルギー消費が増加する。例えば地獄の番犬は、左の頭に『地』、中央に『獄』、右に『炎』を設定して『地獄炎』を繰り出す。
その性質上、『八岐の大蛇』なら8、『九尾の狐』なら9、『大百足』なら正確な数は分からないが多数と、多くの同一の部位を持つ者が有利な技術である。ただし一度に多くの文字を使いすぎるとエネルギーの消費が激しすぎて自身が消滅しかねない。あくまで行使できる力のパターンが増加する程度である。




