必殺、燕返し!
前回のあらすじ!
わたしは、突然現れた『ラウネっち』『ナイルちゃん』と共に森を出ることになった!食べ物に釣られて!
わたしは、歩きながら、ふたりとお話をしていた。
「そういえば、あんたの名前は……いや、こういうのは自分から先に名乗るべきか。あたしは『ナイル』。妖狐一族の~、結構偉い方ではあったかな。故郷から飛び出してきちゃったけど」
「じゃあ私も自己紹介を。私は『ラウネ』って呼ばれてる。アルラウネに名付けの習慣って無いから、皆が呼んでるだけだけど。うちにアルラウネは他に居ないから、アルラウネさん、とか呼ばれてるうちに短縮されて、ラウネになったっていう……。」
あ、やっぱアルラウネで合ってるんだ。ナイルちゃんは、ようこ……って何?聞いたことないから分からないや。故郷がこの辺りじゃないならわたしが知らなくて当然なのかも。
「で、貴女はなんて名前?ハーピィなら名前くらいあるんじゃない?」
「わたしは『ハル』だよ。ママが付けてくれた名前だと思う、かなり昔だから覚えてないけど……。」
「そのママはどこへ行っちゃったの?」
「ちょ、ラウネっち、その質問は踏み入りすぎじゃないの?」
「別にいいよ。もうかなり前になるけど、昔はこの森にもわたしみたいなハーピィがいっぱい居たの。でも段々とどこかへ行っちゃって……。ママは『みんな、森の外に出たんじゃないか』って言って、ちょっと前にそれを探しに行って……それっきり。」
思えば、それからも段々とハーピィの数は減っていって、気付けばわたしの生活範囲内には同族を見つけられなくなってたなぁ。
「……密猟なの?まさかそんな。」
ミツリョウ、とは……?
「人間の街でも厳しく禁止されてるはず。ラウネっち、これはライム君案件だよ。」
わたしの知らないひとの名前がまた出てきた。
「ライム君って誰?」
「あー、ライム君はうちのブレーンだよ。ブレーンっていうのは、参謀……いや分からないか。とにかく、」
「参謀くらいは分かるよ!賢くて、作戦とかを考える役のひとのことでしょ!」
昔にお友達が言ってたもんね!あれ、そういえばあの子も居なくなっちゃったなぁ……。
「まぁ、だいたい合ってる。だからライム君に相談しようって。もしかしたら……」
「ナイルちゃん。余計なことは言わなくていい。」
「……そうね。」
何?なにが?
「ハルちゃんは気にしなくていいよ、こっちの話だから。そろそろ森を出るから、ここからは特急で行こうか。」
「おっけー。ハルっちもあたしに掴まってて?」
言われるがままに、わたしはナイルちゃんの背中に掴まってみた。ラウネちゃんはナイルちゃんに抱き抱えられている。
「じゃ、飛ばすよ!『空蹴』!」
ナイルちゃんは、ものすごいスピードで空を走り始めた!ってことは、さっきわたしの足を掴んでた時も多分浮いてたんだなぁ。
「はやーい!ゴーゴー、いけいけ~!」
「ハルちゃん、よく耐えられるね……。私は何回やっても慣れないよ……。」
ラウネちゃんはこの速さだとちょっと大変みたい。
「まぁハルっちはいつも空飛んでるだろうし、このくらいは余裕でしょ?」
「うん!全然平気。最高速度はもっと速いし。」
「え、マジ?これより速いの?」
そりゃあ飛ぶのが本職のわたしが、翼もないナイルちゃんに負けてたらやってられないでしょ……?
「……ちょっと見直したかも。」
そして、わたし達はすぐに目的地についた……んだけど。
「ラウネちゃん達、こんな所に住んでるの?」
目の前にそびえ立つのは黒くてでっかい、お城?みたいな建物。鐘か何かが、大きな音で1回鳴った。
「ふふ、驚いた?私達はね……魔王軍のメンバーなの。ここは魔王城。」
「で、ラウネっちは事実上のトップなんだよね、魔王軍の。あたしは護衛。」
「ナイルちゃんは魔王軍の中でも最強なんだよね。切り札っていうか?」
え……魔王軍のトップと、切り札……?そりゃあ、わたしなんかが敵うはずもないや……。
魔王軍って言えば、わたし達をはじめとした魔物のリーダー的存在で、魔物のために色々戦ってくれてるって。
「魔王軍のトップってことは、ラウネちゃんは魔王様なの?」
「いや、魔王様は別にいるよ。ただ、リーダーにラウネっちを据えることにしたってだけで。あのひとはまぁ有能だけど、リーダーより向いてる仕事があるっていうか……?」
「ナイルちゃんは、その魔王様よりも強いの?」
「そりゃそうだよ、あんなクソザコ魔王様よりあたしの方が強いし……なんならもうひとり、あたしの次くらいに強いのがいるし。」
「はぇ~、じゃあ魔王様は何をしてるの?リーダーはラウネちゃんで、切り札はナイルちゃんで……?」
「サボってるよ。」
「ええ!?」
魔王様、ぐうたらなの?魔王様って言うくらいだから、もっとかっこいいのを想像してたのに……。
「ま、サボってるけど運営は回ってるし、本当にヤバくなったら動き出すからだいじょーぶ。」
良かった、仕事はちゃんとこなすひとなんだ。危うく、わたしの中の『魔王様』像が崩壊するところだった……!
わたしはその後、ラウネちゃんに連れられて、食堂?みたいな大きい部屋に来て。そこで食べ物を出された。ナイルちゃんはどこかへ行っちゃったけど。
「え、こんなに食べていいの?」
「いや、こんなにって、そんなにかな……?」
「わたしにとっては沢山だよ!寒いせいか、最近は獲物も少なかったし……。」
「そっか。もっと要る?」
「いる!!このふわふわしたのは何?」
「それは、パンって名前の食べ物で、穀物を潰して焼いて……みたいな感じだったはず、作ったの私じゃないから正確には答えられないけど。」
「そうなの?これは誰が作ったの?」
これを作れるひととは是非仲良くなっておきたい……と、わたしの胃袋が言っているっ!!
「これは、ライム君が作ったんだよね。元々は人間の食べ物だったんだけど、ライム君が興味を持って色々研究してたら、美味しいねって事になっていっぱい作るようになった……てな感じで。」
ライム君、さっきも聞いた名前!賢くて、美味しいものを作るひと……機会があったら会いに行かなきゃ!
3つくらいのパンをたいらげた所で、部屋の扉が大きな音を立てて開かれた。
「ナイルちゃん!ドア壊れちゃうよ!」
限界まで開いたドアからナイルちゃんが入ってきた。
「そこの鳥!」
わ、わたしのこと?
「はいっ!」
「あたしが模擬戦の相手を見定めてやった!鐘が2回鳴るまでに、訓練場まで来なさい!」
「分かりましたっ!すぐに行きますっ!」
「え、食べてすぐだけど大丈夫なの?」
ラウネちゃんが心配してくれてるけど、食べてすぐだと何か悪いの?
「大丈夫でしょ、小鳥ちゃんの消化能力は優れてるから。」
何だか分からないけど大丈夫らしい!じゃあ行こう……と、待った。
「質問!訓練場ってどこにありますか!」
「いい質問だ!ついて来なさい!」
「……ナイルちゃん、だいぶノリノリだな……。」
鐘が1回鳴った。
訓練場は、お城の裏側にあって、かなりの広さがあった。今までのわたしの活動範囲の半分くらいはあるんじゃないかな……。
「さぁ小鳥ちゃん!君の相手はこの……ミドリ君だ!」
『ミドリ君』は……でっかい!ナイルちゃんふたり分に近いくらいの身長がある。緑色の肌に、赤く光る目……。装備も結構重そうだし、軽々と持っているハンマーも結構なサイズがある。わたしなんて一瞬で潰されてしまいそう。
「あの、オレはミドリじゃなくて、クロっす。オークの、クロ。」
「どっちでもいいだろうそんなもの!ほらはやく勝負しなさい!」
「よくないっす……。」
クロ君は頭をポリポリ掻いてしょんぼりしている。意外と穏やかなひとなのかも?
「あと、始めるのはいいっすけど、このハンマーは封印っすね~。流石に、これから仲間になるかもしれない子をこれで殴るわけにはいかないっす。」
「だってさ、舐められてるよ、小鳥ちゃん~」
「な、オレはそんなつもりじゃ……。」
うーん、舐められてるのは確かなのかも……。ここは、賭けに出てみようかな?
「そのハンマー、使ってください!わたしは全部かわしてみせます!」
「え。」
何故かナイルちゃんが驚いている。ナイルちゃんがわたしのこと煽ったんじゃなかったっけ。
「……そうっすか。ラウ姉さんが目をかけるだけのことはあるっすね。」
鐘が鳴った。さっきのと合わせて、これが2回目。
「じゃあ、オレも手は抜かないっす。本気で行くっすよ!」
クロ君はいきなり、ハンマーを振りかぶって……
「ぴゃあ!」
こちらに向かって振り下ろしてきた!何とか避けたけど、上に逃げたかったのに、上からハンマーを振られたせいで横に避けるしかなかった!
「まだまだ序の口っすよ!」
序の口って言ってるけど、ちょっと地面が凹んでるよ!すっごいパワー!
そして今度はあまり振りかぶらずに2回目のハンマーが飛んできた。やっぱりこれ、上に逃さないように、わざと上から攻撃してるよね?
そして、着地を少し失敗して、よろけた所に横からハンマーが!慌てて翼を動かして無理やり上に回避、そのままもっと上へ上昇。
「あちゃ、飛ばれたっすね。」
今までの戦い方からして、クロ君は魔法を使ってこない気がする。だからハンマーの射程外に出たら攻撃手段は無い……
と思ってたんだけど、クロ君はおもむろに地面から石ころを拾うと、ハンマーで打ってそれをこちらに飛ばしてきた!
「ふえぇ!?」
「外したっすね。じゃあ、もう1発!」
「ひいぃ!」
ヤバい、さっきからずっと避けるのに精一杯で、一度も攻撃すら出来てないよ!クロ君、強い!
でも……隙はある!石を拾って、投げて、打つまでの動作には少し時間がかかる!その間に近付いてしまえば、その状態からわたしに攻撃するまでには猶予時間があるはず!
「お、何をする気っすか?」
わたしはクロ君から一定の距離の空中を旋回するような形で飛んでみた。その間にも、クロ君はわたしの方に向かって石を打ってくる。ここまで一度も大きく弾道が逸れていない……すごいコントロール!
クロ君が石を投げ上げ、ハンマーをフルスイング……
その瞬間を待っていたぁ!!
わたしは外側に向かって急旋回して石を避け、更に上方向に翻って進行方向を反転させた。そのまま速度を上げて、クロ君に突撃ぃぃぃ!
「とりゃ~~~~!!」
「おわぁっ!?」
近付いた後の事を考えてなかったから、そのまま体当たり!したんだけど……。
「むぎゅっ!」
弾き返されちゃった。
体重差が……ありすぎた……。ほぼ、壁に激突したような感じだった……。
「大丈夫っすか!?」
「ハ、ハルっち……?生きてる?」
「なんとかぁ、生きてるよぉ……。」
わたしはフラフラしながらも立ち上がって、頭を抱える。
「うぅ……ダメだったかぁ、必殺・燕返しでも……。」
不意打ちには自信があったんだけど、完全に決まって、クロ君に反応させなかったのに、逆に弾き返されちゃった。
「ダメだよね、こんなんじゃ……。わたし、帰るね。」
「いやいや、ミドリ君に完璧に一撃入れたのは誇っていい事だよ。だって、物理だけの戦いならあたしより強いんだよ?ミドリ君って。」
「オレはミドリじゃなくてクロっすけど、まぁ確かに、オレは完全に不意を突かれたっすね。魔法もなしで。オレは魔法を使えないっすけど、ハルさんはそうじゃないっすもんね。」
なんか、ふたりともわたしの事を褒めてくれてる?でも……。
「わたし、魔法使えないけど……。」
「は!?ハルっち、魔法もなしで森でひとりで?」
「魔法、使えないんすか?オレと違って、ハルさんには魔力があると思うんすけどね……。」
「魔力、あるよ。君には。ボクには、わかる。」
後ろから知らない声が聞こえてきて、わたしは振り向いた。そこには、ぷるっぷるのスライムが。
「あ、ライム君。ご無沙汰。」
「どうも。ラウ姉、新しい子、連れてきたって、聞いた。ボク、興味あった。見に来た。」
このスライムが、魔王軍のブレーンで、パンを作ってくれたひと?
「あ、ちょっと、ぷにぷにしないで……。」
「はわ、ごめんね!ツルツルスベスベだったからつい……!」
ちょっと突いたら怒られちゃった。ダメだったかぁ……。
「まぁいい。魔法、使いたいなら、ボクの所、来て。3階中央、図書室で、待ってる。」
そう言い残して、ライム君はものすごい勢いで回転して、城の方へ転がっていってしまった。
「魔法を使えれば、その低体重からくる攻撃力の低さもカバー出来るっすね。」
「……でも、わたし、負けちゃったよ。ナイルちゃん。わたしなんて、ダメダメでしょ?」
「いや、合格だよ。ミドリ君相手にあれだけやれたなら。……今のハルっちを完全に認めるわけじゃないけど、伸び代もありそうだし。」
「オレはミドリじゃなくてクロっすけど、そのうちオレを超える強さになってても驚きはないっすね。」
「……本当?いいの?」
明日からは、ひとりじゃない?食べ物ももらえる?
「ようこそ、ハルっち。魔王軍へ。」
ナイルちゃんは、わたしの翼の先を掴んだ。握手ってやつ?
「やったー!これからよろしくね、みんな!!」
こうして、わたしは晴れて魔王軍の仲間入りをしたのであった。
第3話へつづく!
tips:オーク
肉弾戦に特化した種族。強靭で大柄な肉体を持ち、赤く鋭い眼光と緑の肌が特徴。
物理攻撃、物理防御、魔法抵抗はとても高い。また敏捷性もそれなり。
その反面、魔力を一切持たないため魔法を行使できない。
見た目に反して穏やかで仲間想い。ただし敵に回すと恐ろしいでは済まない。




