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飛ぶハーピィを落とす勢い

 あ~、おなかへったなぁ。

 よくよく考えたら、今日まだ何も食べてないや……。

 なんか最近、獲物がなかなか見つからないんだよなぁ。しょうがない、木の実でも探すか……。


 高い木の枝の上にのぼってみたけど、木の実も中々無いなぁ。見える範囲にはほぼない、たまにあっても小さいのばっかり。

 最近妙に寒いし、獲物や木の実が見当たらないのもそのせいかなぁ……?

 うーんむむむ……このままじゃ食いっぱぐれちゃうよ。飢え死に?やだよ、わたしにはまだ早い!

 最悪は、森の外まで……いや、それは最悪も最悪の手段だからやりたくないなぁ。新しい地に向かうってのは危ないんだ。多分、ママも……。


 しばらく周辺を見てたら、いつも狩ってる大きな茶色の虫がいた!貴重な食料!

 わたしは虫を追いかける。まだ、わたしの存在には気付いていないみたい。

 距離を詰めたら、頃合いを見計らって急降下して一撃で仕留める……。いつものやり方(かた)だけど、この辺りは特に木が多くてやりづらいなぁ。射線上に木の枝が入りやすい。

 それにしてもあの虫、どこかに向かってる?いつもはこんなに速く移動することはなかったと思うけど。


「……さむ……こ……」

 しばらくすると、誰かの声が聞こえてきた。今はこの辺だと話せる子はあんまり居なくて、それも大体声は覚えているけど、今の声は聞いたことがない。森の外とか遠くから来た子達なのかな?

「……ここら辺も……咲いてな……れだと……」

 もうひとり居る?さっきのとは違う声。

「……あっ……虫は……におい……来たの……火……」

 突然、わたしが追いかけていた虫が燃え始めた!虫は暴れ出したけど、抵抗むなしく、こんがりと焦げてしまった。

 わたしの獲物が~っ!なんで、なんで燃えたの?まさか、魔法?この辺には魔法が使える魔物は居ないはず……じゃあやっぱり森の外から来たのかな?

 燃えた虫のほうに、なにやらふたり分のひと影が。

「この虫は花を……荒らす……でもこの辺り……」

 近付いたぶん、さっきより声が聞こえやすい。あの虫が花を食べてるのはよくある事だね。わたしもよくそのタイミングを狙って狩ったりしてたけど、今は寒いからか花も咲いてない。

 わたしはもう1つ先の木へ飛び移った。ただ、ここからでも木の葉が邪魔をして、声の主の姿はよく見えない。

「今、何か……ような。気(き)の所為(せい)?」

 木(き)の精(せい)じゃないけど……気付かれちゃったみたいだし、挨拶に行こっと。

 わたしは、枝から飛び降りて、滑空、急降下!

 

「なにか来る!下がって!」

「え?何!?」

「『空壁(くうへき)』!」

 目の前に半透明な壁があらわれた!滑空しているわたしは当然急に止まれるはずもなく、

「ぴぎゃあ!?」

 そのまま激突。落下……しきる前に何かに引っ掛かって止まった。

「はい、確保~。あたしに勝とうなんて1000年早いわって。」

「ナイルちゃん、別に戦いに来たわけじゃないと思うけど……」

 何かに引っ掛かったと思っていたけど、どうやら落下寸前で足を掴まれて逆さ吊りになっていたみたい。

「ちょ、離して!離してよ~!わたしはただ、挨拶しようと思って……」

「嘘つけぇ!ラウネっちを狙ってたのは分かっとるんじゃこの駄鳥(だちょう)!」

 ば、バレてる!挨拶ついでに狩れないか確認しようと思ってたのがバレてる!

「ご、ごめんなさい~~!」

 後ろ向きの逆さ吊り状態では相手の顔は見えない。でもなんだか、わたしの利かない鼻でもいい香りを感じた。花の香り?

「そろそろ降ろしてあげなよ、ナイルちゃん……。」

「本気で言ってる?逃げられたら多分あたしでも捕まえるの苦労するよ?」

「まぁ……逃げられるぶんにはいいでしょ?ナイルちゃんが居れば私が危ないとかは無いだろうし。」

「……そうですか。いいよ分かった、降ろすよ。」

 頭2個分くらい浮いていたわたしの身体は放り出され、頭から地面に落下した。

「ふぎゅ……」

 倒れ込んだわたしに、『ナイルちゃん』と呼ばれた方の声が話し掛けてくる。

「ほら、逃げるなら逃げてよ。うちのボスは許してくれるってさ。」

 わたしは起き上がって、ふたりの方を見た。

 『ナイルちゃん』はわたしより背が低くて、獣(ケモ)耳と、尻尾がいっぱい生えた女の子。その身長でどうやってわたしを掴んでたの……?ちょっと浮いてたとか?

 『ラウネっち』は多分、いい香りの根源。頭の上にでっかい花咲いてるし。見たこと無いけど、アルラウネってやつなのかな?確かこんな感じだって聞いた覚えがあるようなないような。名前的にもそれっぽい?

「……逃げないの?」

「ほら、家族が心配してるんじゃない?私は怒ってないからさ、帰りなよ?」

「いや、わたし、家族いないし……。」

「え。」

 ふたりは顔を見合わせた。なんか不味い事言ったかな、わたし?

 ふたりはそのまま小声で話し始めた。

「……しよう」

「……このまま……寒くなって……しいと……」

 所々しか聞こえない。わたしはふたりの間に顔を突っ込む。

「なになに、何の話?わたしにも聞かせてよ~。」

「あーもう!ちょっと黙ってろ、この鳥頭!」

「と、鳥頭!?」

 わ、わたしがいちばん気にしてるところなのに!!!

「ひ……ひど……」

 震えるわたしの声は、突然の大声に掻き消された。

「決めた!ナイルちゃん、私決めたよ!」

 『ラウネちゃん』はわたしの肩に手を置くと、言った。

「この子、連れて帰る!」

「は!正気!?」

「正気だし本気!!」

 わたしはわけがわからなくなった。連れて行かれちゃうの?やっぱり逃げたほうがよかった?

「さっきも言ったけど、最近の異常な寒さ、たぶん多くの生物が休眠して環境が激変する……そんな中でこの子が生きていけると思う?」

「……無理だと思うけど。」

「でしょ?だから引き取る。」

「いやいや、引き取るって!この小鳥ちゃんにそこまでする必要あるの?」

「……ナイルちゃん。私ね、ひとを見る目には自信あるんだ。この子はたぶん、ナイルちゃんから見ても、役に立つよ……」

『ナイルちゃん』は目を見開き、はっとした表情になると、わたしの方をじっと見てきた。

「……この子が?このアホの子が?」

「アホじゃないもん!!」

「あーわかったわかった、一旦黙って。」

 この『ナイルちゃん』、ずっとわたしのこと馬鹿にしてくるんだけど!!

「まぁ、そういうことならあたしは何も言わないけど。いやでも、あたしが何か言っておかないと誰も反対しないか……?反対しそうなのは、あの駄龍(だりゅう)くらいなもんか、いや、あいつならどっちでも良いって言うか……。」

 『ナイルちゃん』はブツブツと呟いている。ダリュウって誰?

「じゃあ、こうしましょう。ウチの誰かと模擬戦させて、この小鳥ちゃんの実力を見る。それで結果が良かったら、あたしはこの子を認める。それでどうよ?」

「それでいいと思う!いや~、良かったよ、ナイルちゃんは何しても認めないかと思ってたからさ。」

「あたしはそんなに頭固くないから。」

 ……わたしがなにも言うまでもなく話が進んでしまっている。このひと達はいったいどこの誰なんだろう?

「あの、わたしは……」

「ストップ。あなた、おなかすいてるでしょ?うちに来れば食べるのには困らないよ。」

『ナイルちゃん』の口から出た提案は、空腹のわたしの迷いを吹き飛ばすには十分すぎた。

「え!!じゃあ、行きます!!」

「……悪いひとに騙されそうで怖いな、この子。」

『ラウネっち』がボソッと呟いたけど、食べ物をくれるひとに悪いひとはいない!!わたしは行く!!




 こうして、わたしはふたりに連れられて(釣られて)、森の外へと向かうことになったのであった。

 第2話につづく!

tips:「木の精」

ドライアド(またはドリュアス、ドリアード等)と呼ばれる種族。魔物と分類される事もあるが、精霊と言ったほうが正確。

大樹や神木など、格の高い植物に宿るとされている。その姿を見せることは稀だが、実は案外近くに存在するかも?

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