花鳥風月
前回のあらすじ!
わたしは森に帰ろうとした!目の前に裏ボスが現れた!
「……まずはお互いさ、この天気は困るよね。」
ナイルちゃんは上を指さした。確かに、わたしは寒くて動きが悪くなっちゃうし、ナイルちゃんは尻尾が水を含んじゃったら相当動きづらくなると思う。
「ってことで、『青空』。」
言霊だ。ナイルちゃんの尻尾のうち2本が光って、天に向かって光の柱が伸びていった。光の柱を中心として雲が吹き飛ばされていって、辺り一帯は青空になっちゃった。
……天候まで操っちゃうのかぁ、ナイルちゃんは。防御力以外は神様レベルなんじゃないのかなもう。
「ふぁぁ、まだちょっと眠いや、無理やり叩き起こされたからなぁ。でもこれでちょっとスッキリしたね。」
ナイルちゃんはにやりと笑った。
「まぁ、あたしは引き止めに来たってわけでもないんだよね。ハルっちに見せたいものがあってさ。」
「……何?」
「とりあえずこの先に行ってみたら分かるよ。ほら、こっち来てよ。」
わたしを止めに来たわけじゃない……?とりあえず、裏ボスと戦う羽目にならなくてよかった!
ナイルちゃんに手(翼)を引かれて森へ入ったわたしは、見たことのない建物を見つけた。レンガで出来た頑丈そうな壁の小屋……かな。
「あれは何?」
「なんだと思う?まぁとりあえず入ってみなよ。」
言われるがままに建物の正面にあった木のドアを開けてみた。建物の中には棚や机、お城のわたしの部屋にあったようなベッドと生活に使えそうなものが置いてあった。そして上へ続くはしごと、緑色のドアがあった。
「あのドアを開けてみて。」
……あれ?さっき外から見た時にはあのドアは無かった。でもその緑のドアはたぶん外壁についてる。どういうこと?
「ナイルちゃん、あのドアなんか変だよね?」
「うん知ってる。だから開けてみてよ。」
わたしは恐る恐るドアを開けてみた。その先には……なんか見たことのある気がする廊下が。
「ここって……」
「やっほー、ハルちゃん!」
ドアの裏から出てきた何かに驚いたわたしは、バランスを崩してしりもちをついてしまった。
「ぴゃぁっ!?」
飛び出してきたものをよく見たら、それはラウネちゃんだった。ってことは……
「これ、もしかしてワープゾーン?」
たぶん、この扉の先は魔王城。ってことはこの扉はワープゾーンだと考えるのが普通だよね。
「正解。実はさ、ハルっちと会った時に森に行ったのは、これを作るための調査っていう理由もあったんだよね。ほら、森を管理下に置くって計画があったのは知ってるでしょ?」
それは思考が止まってた時だけど聞いた気がする。
「昨日あの後、ライム君が完成させてくれたんだよね。その小屋と、ワープドアを。ちなみにナイルちゃんはそれを通って先回りしてたんだよ。」
え、だから後ろからじゃなくて前から現れたってこと?確かに、いくらナイルちゃんが素早いからって真正面から来るのはちょっと変だとは思ったけど!
「ってことでさぁハルっち、森に帰るのは別にいいけどさ、ウチを抜けるんじゃなくて、森の管理担当になってくれないかなって。」
「なるなる!なりますっ!!!」
わたしはかなり食い気味に肯定してしまった。だっていつでも森とお城を行き来出来るなら、みんなとお別れする必要なんて無いじゃん!
「ふふ、ハルちゃんならそう言うと思って、敢えて止めないで森まで行かせちゃった。ごめんね。」
「ラウネっちがありえないくらい笑顔で叩き起こしてきた時はほんと怖かったけどね。おかげでまだ眠いんだけど。」
あの時ラウネちゃんが目を逸らしたのは表情を隠すため!?わたしをハメたってこと!?
「あ、怒ってる?ごめんごめん、ちょっとサプライズしようと思ってさ。」
「……怒ってはないけど。ラウネちゃんって普段まじめだから、こういうことするんだってちょっとびっくりしたかな。」
と、言ってみたらラウネちゃんがわたしの頬をぐりぐりしてきた。
「実はもうひとつサプライズがあるんだけど、聞きたい?」
「え、にゃに?ききゅ!ききましゅ!」
「じゃあ、そっちのドアを開けてみて。」
ラウネちゃんが手を離して、隣にある青色のドアを指さした。もしかしてあれもワープドア?どこに繋がってるんだろう……。
わたしはドアノブに手(翼)をかけ、回してみる。ドアが開いた。その先は……魔王城とは違う廊下?
「んでそっちのドアだよ。」
ナイルちゃんが向かい側のキラキラしたドアを指さした。わたしはドアの真ん中に貼られた張り紙を読む。
「え、『関係者以外立入禁止』って書いてあるけど?」
「大丈夫大丈夫、ハルっちは関係者だから。」
ん?どういうこと……?
戸惑うわたしを見かねたのか、ナイルちゃんが前に出てドアを開けた。
「こんにちは~っ。お邪魔しまーす。」
ドアの先に居たのは……仰向けに倒れたユウさん(らしき人)と、その上に馬乗りになっているアオちゃん。ユウさんの周りは水浸しになってる。
「……何やってんの王……」
ナイルちゃんはお腹と口を抑えて笑いをこらえてる。
アオちゃんはわたしの顔を見ると、ぴょんと跳ねてユウさんから飛び降り、もう2回跳ねてわたしの胸へ飛び込んできた。
「おっと、っと……!?」
「はりゅ!!」
え、アオちゃん、それもしかしてわたしのこと……!?
「ふぅ~、助かったぜ。危うく溺死するところだった。」
ユウさんが起き上がって顔についた水を拭った。昨日は鎧を着てて分からなかったけど、ユウさんは細身に見えるけど結構鍛えた身体をしてる。
「首輪で無理やり魔力を抑え込んでいたから、まだ魔力のコントロールが上手く行ってないのだろう。だから溢れた魔力が水として放出される。」
それはいいけど、わたしはアオちゃんに名前を呼ばれたことに気を取られて話が頭に入ってこない。
「わ、わたしの名前……」
「ああ、それは教えたら勝手に発声するようになったぞ。恐らくほぼ初めて見た同族だろう、記憶に焼き付いたのではないか?」
「そっか……。ずっとあそこに居たんだね?」
アオちゃんはゆっくりと2回頷いた。ずっと地下で……日の光も浴びず。わたしだったら気が狂っちゃうよ、アオちゃん、頑張ったね。
「んで王、名前の件は結局どうなったの?名無しじゃやっぱ呼びにくいよね?」
「ああ、それに関してはハルに名付けを任せようと思っていたのだ。ちょうどいい、引き受けてくれるか?」
あ、もしかしてアオちゃんの名前をわたしが付けるの?まぁ確かに、わたしの同族だしわたしが付けてあげるのがいちばん丸い収まりどころなのかも。アオちゃんがどこから来たか分からないけど、ここのハーピィ的ネーミングをしてあげるとしたらわたしが適任だからね。故郷が見つかったら、そっちの人に新しく名付けしてもらったほうが良いかもしれないけど。
「引き受ける!というか、もう心の中では呼び名を決めてあったんだ!」
アオちゃん……それは渾名のようなもので、わたしの中では真名も決まっていたんだ。
「あなたの名前は、アオイ!略してアオちゃん!どう?」
それまでわたしの腕(翼)の中で丸まってモゾモゾしていたアオちゃんが動きを止めて、わたしの目をじっと見てきた。
「……アオイ?」
「うん。……気に入らなかった?」
わたしはちょっと心配になったけど、アオちゃんは首を横にぶんぶん振った。
「アオイ!ハリュ!」
わたしの方へ翼を降るアオちゃん……勢い余ってわたしの顎にアッパーカット!
「ぴゃぁっ!?」
わたしはしりもちをついてしまった。それに対してアオちゃんは翻って華麗に着地!あれ、わたしの『燕返し』みたい!
そのままわたしに向かって突撃してくるアオちゃんを、ユウさんがつまみ上げて止めた。
「よせ、彼女は怪我をしている。」
アオちゃんはバタバタと手足を動かしてたけど、そのひとことですぐに大人しくなった。うん、今突っ込まれてたら結構ヤバかったよ。
「触れるなら、優しくだ。彼らがしてくれたのと同じようにな。」
それを聞いたアオちゃんはゆっくりとわたしの方へ歩み寄って、わたしの頭を翼で撫でた。
一応、何を言われてるかは理解してるってことか。そのうちもっと喋れるようになるのかな?だとしたら楽しみだなぁ。
……その後帰ろうとしたけど、アオちゃんがわたしから離れてくれなかったので、しばらく連れて行くことにした。
わたしは背中にアオちゃんの重みを感じながら、今通ってきた4つのドアを順に戻った。つまり小屋の外、森に戻ってきた。
「アオちゃんがせっかく居るからさ、ここの景色を見せたくって。」
「なるほど、良いんじゃない?アオっちにとっては森なんて何年ぶりか……いや、初めての可能性もあるかもしれないし。まー、この森とアオっちの故郷であったはずのどこかの森は、全然違うとは思うけど。」
「私も良いと思う、自然に触れるのは自然に生きる魔物にとってはいい影響があると思うから。」
「『自然』そのもののラウネっちが言うなら間違いないね~。」
ふたりの声を聞きながら、わたしは背中からアオちゃんを下ろした。背中がちょっと濡れてる気がするのは、たぶんアオちゃんの魔力がどうたらの影響だよね。
アオちゃんはぎこちなくパタパタと飛んで、木の上に登ってみせた。たぶん相当な期間飛んでなかったと思うんだけど、それでもアオちゃんは立派に羽撃いてみせた。
あの調子ならほっといても大丈夫だと思うけど、わたし達はしばらく様子を見守ることにした。
「ねー、『花鳥風月』って言葉知ってる?」
「うーん?知らないけど、綺麗な響きの言葉だね。」
「昔はあたしの言霊もこれだったんだよね。四尾から五尾くらいの間は。今では変えちゃったけど……この言葉って、あたし達にそっくりだと思わない?」
「どういうこと?」
「『花』はラウネっち、『鳥』はハルっち、余った『風月』はあたしが貰えば、ほら、丁度良くない?」
「ナイルちゃんは、『風月』より『歳月』の方が似合ってるよ。」
「なっ……言うようになったねラウネっち!?」
ラウネちゃんはクスクスと笑った。
「まぁ確かにちょうどいいけど、なんで急に?」
「いやー……小鳥が飛び回ってるし、風も心地よくて、空は快晴。なんか風情あるなーと思ったから、それに合わせて。」
アオちゃんはさっきより安定して木と木の間を飛び回ってる。空は快晴……っていうか、ナイルちゃんが無理やり晴れにしたんだよね?風情あるのかなぁ?
「若いっていいよね。あんなに活気があってさ……おっと。」
ナイルちゃんの腕の中にアオちゃんがダイブしてきた。自分のことを話してるって気付いたのかな。
「ちょ、何して……」
アオちゃんはナイルちゃんの尻尾の隙間に潜り込んじゃった。わかるよその気持ちは、わたしだってあと5歳くらい幼かったら同じことをしてたと思うもん。
「く、擽ったいよ!?」
その時後ろのドアが開いて、出てきたのは……魔王様!?
「……楽しそうだな?」
「そんな事言ってないで助けてよ、クソザコ魔王様!!」
「……暫くそのままでいいだろう。」
あちゃー。わざわざクソザコとか付けるから見捨てられちゃった。
「森はオレは初めて来たっすけど、中々いい所っすね~。」
魔王様の後ろからクロ君、リュウ君、ライム君も出てきた。
「この森は今後、魔王軍の管轄下に置くこととなった。ならば全員で一度見ておいた方が良いと思ってな。」
「んでハルがここの管理者になるんだっけか?まぁ元々ここ出身なら適任だよな。」
「気温も、少し上昇傾向。異常な寒さ、異常な環境変化、収まった。生態系は、復活するまで、時間かかるけど。」
……。
「ま、失ったものはもう仕方がないから、前を向いてた方がいいでしょ?」
わたしはみんなに向かって笑いかけた。アオちゃんが飛び出してきて、わたしの懐に潜り込む。そう、アオちゃんもだ。ユウさんも。クロ君、ライム君、リュウ君、魔王様、ナイルちゃん、そしてラウネちゃん。
「未来に向かって明るく進むよ!わたしには、仲間がついてるからね!」




