まったりふたりの後語り
「ラウネっち~、おはよう」
「ナイルちゃん?どうしたの、こんな夜中に?」
「いや、なんか起きちゃってさ。暇だからラウネっちとお喋りでもしようかなって思ったんだけど……。今隠したのは何?」
「え、何のことでしょうか……!」
「あたしの目を誤魔化せると思ってないでしょ。ほら出してよ」
「……はい」
「なにコレ、日記?」
「そう。夜の間だいたい暇だからさ、ここに来てからほぼ毎日つけてたんだよね。今日の分はつけ終わったから今までのを見返してたとこ」
「へぇ~、あたしだったら三日坊主になっちゃいそうだなぁ。ちょっと見せてよ」
「うーん、まぁ見られて恥ずかしいものでもないか……?」
新暦715年 無路 第2光日
今日は『最後の駒を回収せよ』との夢を見た。今日の予定は森の視察だったから、そこで出会いがあるんじゃないかと思ったけど、案の定だった。そこで会ったハーピィのハルちゃんを仲間にした。
彼女の話を聞いていると、誰かがハーピィを密猟しているように思えた。しかも既にほとんど生き残りは居なくて、ハルちゃんはひとりぼっちの状態だと言っていた。私がもっと早く手を打っていれば良かったのかな。謝ろうと思ったけど、これを伝えたら心を壊してしまうかもしれないから、少し様子を見ることにした。
ハルちゃん本人は、攻撃力こそ無いけど戦闘はそこそこ強くて、特に機動力がピカイチ。クロ君を翻弄できるくらいの器用さもあった。今の魔王軍で機動力が高いのはリュウ君とナイルちゃんくらいだけど、小回りの効き方はそのふたりをも凌駕する。ちょうど足りなかった人材かもしれない。
夕方には色々あってナイルちゃんと喧嘩になってたけど、逃げ切ったみたい。あのナイルちゃんから逃げられるのは相当すごい。今回も夢を信じてよかった。
「これ、ハルっちと初めて会った日のやつじゃん。あの時も夢を見てたんだ?あたしに言ってくれても良かったのに」
「言ったらナイルちゃんはなんか間違えそうな気がして……。ごめん」
「……まぁ否定はできないかも」
「あれから、もうそろそろ1年?ちょうど今も無路だもんね」
「懐かしいよねぇ。ハルっちも今ではミドリ君と互角に渡り合えるようになったし、見違えたよね」
「攻撃と防御はクロ君、敏捷性と魔法はハルちゃんって、棲み分けも出来てる。ふたり合わせたら魔王様とも渡り合えるかも……今度試してみる?」
「いいねぇ。でさ、次のページも見せてよ?」
新暦715年 無路 第2火日
ハルちゃんは風魔法が使えるようになったらしい。ライム君いわく、素人とは思えないほど上手いって。その点はナイルちゃんが言ってた未来視の魔法とも関係がありそうだ。一瞬先の未来が予測できるんだとか……。
そしてハルちゃんは魔王様と対面した。トラブルにはならなかったけど、魔王様がお友達のことを話し始めた時は、長くなるかなぁと思った。実際は意外と短く終わったから良かった。
その後はハルちゃんをきれいに洗って、飾り付けしてお披露目……と思ったんだけど、ライム君が言うにはハーピィは薄着かつ動きやすいものを好むんだって、機動力を損なわないから。そもそも元から服とか着る文化もないみたいだから、私とかが着せてあげないと一生野鳥のままだよ。最終的にはライム君作の胸当てと、革のショートパンツを着せることになった。本当は私の作ったものを着せたかったんだけど、私の作品は飾りっ気が多くて向いてなかった。ナイルちゃんは喜んで着てくれるんだけどね……。私もライム君みたいに機能的なものに手を出してみようと決意した。
「たぶんハルっちは、ずっと未来視の魔法を無意識で使ってて鍛えられてたから、魔力の保有量と回復速度がずば抜けて高かったんだよね。それを放出する方法を知らなかっただけで。だから方法さえ覚えちゃったら化けるのも当たり前だったと」
「若葉を、蕾を、私達が開花させられたってことだね」
「うちの大将もあたしが側に居なくても身を守れるくらいには、強くなって欲しいもんだけどね~」
「……ぐうの音も出ないです」
「平和の象徴が壊されたらたまったもんじゃないんだから。ね、四つ葉の聖女様?」
「うっそれ久々に聞いたなぁ。それも『大将』も私にはちょっと荷が重いと思ってるんだけど……」
「まぁあたしの目が黒いうちは大丈夫だけど、万一ってことがあるからさ」
「……うん」
「じゃ、次行こうか」
新暦715年 無路 第2水日
ハルちゃんが襲われかけた。パトロール中に会った人間に毒を盛られた。でもハルちゃんは何故か無事だった、不幸中の幸い。毒を盛った人間は勢い余って殺してしまったらしいけど、私だったら勢い余らなくてもそうしてると思う。
ハルちゃんに全てを伝えることになった。もっとも、ハルちゃん本人は伝える前に気付いちゃったみたいだけど。
(字がぐちゃぐちゃで読めない)
最終的にはハルちゃんの鶴の一声で、大事にはならずに済んだ。それって大将の私の役割だよね。力不足を痛感した。
明日は厄災が訪れるという伝承がある『無路無日』。それは人間たちの伝承であり、私達にとっての厄災にはならないと思うけど、心配要素ではある。もしそれが私達に牙を剥いても、私の力で厄災を跳ね除けられますように。
「あ……なんか読めない部分があるね。この時はちょっと慌ててたのと、気が動転してたのとで上手く字がかけてなかったかも」
「……この時はごめん」
「私も……ごめん」
「結局さ、ハルっちは、森に仕掛けられていた毒餌の毒が効かなかったから生き残れた、っていう結論になったんだよね?」
「そうだね。なんで耐性があったかは定かじゃないけど、原料の毒虫を昔から食べてたみたいだったから、それで段々と耐性がついていったのかも」
「……言っちゃ悪いけどさ、ハルっちってかなり変なハーピィだったんじゃないかな」
「まぁ、それは確かだね。それが生き残った理由でもある」
「……次のページも見せてよ、たぶん一番大事なところだよね?」
「うん、見ようか」
新暦715年 無路 無日 (天元)
今日は時間がないので簡潔に。
朝は密猟者のアジトを強襲。厄災は降り掛かったけど、ハルちゃんと、人間の王様のお陰で誰も欠けずに済んだ。
昼からは森を魔王軍の管轄下に置くための作業で忙しかった。ライム君が森に小屋を建てて、私はワープドアの設置位置を探して結局4階に。人間の王様の提案で、王城へのワープドアも隣に作ることになった。いずれはもっと他の行き先のワープドアを作ろうか、みたいな話をライム君やナイルちゃんとしたけど、それは果たして実現するのかな?
「誰も欠けずに済んだ、という点なら功労者はラウネっちでしょ。他に回復役居なかったから、最悪の場合は……」
「私もこの時ばかりは自分が居て良かったと思ったよ」
「さすが聖女様」
「……この時さ、夜までずっと忙しくて、これ書いた後はハルちゃんの部屋の前で立ってたから、ほとんど書く時間が無くて、最低限しか書いてないんだよね。ここが一番大事なんだけどね……」
「そういえばあの日は天元か。今年は何も起こらないといいけど」
「わざと日付を合わせたんだよ確か、ライム君の策略で。その方が敵の戦意も落とせそう、事後処理も簡単に行きそう、日にちも1日早めるだけで済む、とかで」
「そうだったの?あたしにも言ってよ」
「ナイルちゃんは縁起悪いとか気にしないでしょ?東の国の……えーと確か……真紅の巫女だっけ?」
「神使の巫女!あたしそんな血に塗れたような呼び方されてないから!」
「えー、こんなに血の気が多いのに?まぁそれは置いておいて、異国の伝承をわざわざ信じないでしょ?」
「んー、まぁ確かに。迷信だと思ってるね」
「私は割と信じちゃうタイプだからさ。しかも1年、361日に1回しかない日だし」
「まぁ、何かしらが絡んでいる可能性はあるかな~。まぁとりあえず、もう1ページ見てみようよ?」
新暦715年 無路 第2土日
今日は朝からハルちゃんの部屋の前で待機していたら、あろうことかいつものように窓から飛び出そうとしたから、慌てて止めた。私が処置したとはいえ大怪我してるんだから。
そしたら今度は森へ帰るって言い出した。私は一瞬驚いたけど、途中でハルちゃんにサプライズが出来るなと思ったので一旦泳がせておいた。そしてナイルちゃんを差し向けた。サプライズは成功して、ハルちゃんは魔王軍を抜けることはなかった。
昨日助け出した青い羽のハーピィはハルちゃんによって『アオイ』という名前がつけられた。気に入ってたみたいだし、良かったねハルちゃん。
ハルちゃんは『失ったものは戻らないけど、新しいものを手に入れることは出来る』って言ってた。ハルちゃんは強いよ。
その後、ハルちゃんは魔王様から正式に森の管理を任せられた。ただハルちゃんは万全の状態ではないので、暫くはみんなでサポートする予定。
そして、夜は宴会。ハルちゃんの森大使就任のお祝い。ハルちゃんはパン頬張ってて幸せそうだった。この笑顔はこの先も守らなくちゃね。
「そういえばアオっち、王の直属の騎士団に可愛がられてるらしいね」
「あれさ、アオちゃんは遊んでるつもりだと思うんだけど、多分騎士さん達は訓練だと思ってるよね?」
「だろうね~」
「……まぁ元々人間より強い種族ってのもあるけど、あれだけ動けるのは才能じゃないかな」
「あれはわたしから見ても相当すごいよ~、才能だよ~」
「っ!?」
「……ハルちゃん、いつから居たの?」
「ふふーん、気付かなかったでしょ。ひとつ前のページをめくったくらいから居たよ!ふたりとも~、背中には気を付けたほうがいいよ~、ふふふ……」
「全く気付かなかった。やろうと思えばラウネっちの首を取る事だって可能だったわけでしょ…………ハルっちが敵じゃなくて良かった」
「ナイルちゃん、感知弱いからな~。まぁわたしも『斥候』として結構使えるようになったってことでしょ?」
「そうだね。めざましい成長すぎてむしろ怖いよ……」
「……驚いたせいで気が抜けちゃった。あたしもっかい寝てくる……。ハルっち、あとはよろしく」
「あはは、おやすみ~」
「それにしてもこれ、懐かしいね~。今ではアオちゃんはすくすく育ってるし、森の復興もほぼ完了したし……ハーピィは居ないけど」
「ハルちゃんもすくすくしてるよね~……って、ページめくらないでっ」
「え?」
新暦714年 第3風路 第2土日
今日は特に書くこと無いっ!
ページを埋めるために適当な事を書くけど、私は弟か妹みたいなものが欲しい!私は末っ子だったし、旅の途中でも行く先々で慕ってくれた人や魔物は居たけど……ふとした時に頭を撫でたりしても怒らない弟や妹が欲しいっ!みんな私の事を聖女だのなんだの言って恭しく接するものだから飽きちゃったんだぁっ!
以上っ!今日はおしまい!!!!
「……見なかったことにしていい?」
「……ダメって言ったら?」
「……ナイルちゃんがそういえば言ってたな~って思い出した……本当だったんだ。目が怖いよ……うわっ、蔓!?」
「いくらハルちゃんでも、私のテリトリーからは逃げられないよっ」
「ちょ……うわぁぁぁぁ!?」




