立つハーピィ、跡を濁さず
前回のあらすじ!
戦いは終わった。わたしは生き残った。アジトから私の同族を救出した。
わたしは気がつくと、自分の部屋にいた。外は薄暗くて、まだ日が昇る前みたい。ってことは朝かな。
あれ、わたしあの後どうしたんだっけ……?肩はまだちょっと痛いままで、薄緑の包帯が巻かれてる。これはたぶんラウネちゃんかな。
窓を開けて外の空気を浴びてみたけど、今日は窓から降りるのは危ないかな……。昨日墜落しかけたときの二の舞になっちゃいそうだし。でも身体は……左肩以外はふつうに動く。これなら風魔法を使えば飛べなくもない?1回試してもいいかな?いいよね?大丈夫だよね?
じゃ、レッツゴー……
「ちょちょちょっ止まって!ストップ!!!」
窓枠にのぼって飛び降りようとしたら、後ろのドアが開いてラウネちゃんが飛び込んできた。
「あ、おはようラウネちゃん。」
「おはよう……じゃなくて、ダメだよ飛び降りちゃ!しばらくは安静にしてないと!窓を開ける音がしたと思って入ってみたら、窓枠に登ってたからびっくりしちゃったよ。」
「え~?大丈夫だよ、わたし風魔法使えるし。墜落することはたぶんもう無いよ。」
「ダメ!あの後ライム君に見てもらったら、ここからだと完治に3路くらいかかるって。私が出来る限り強めに回復魔法かけたのにだよ。その後ありとあらゆる薬を調合して試したのにだよ!」
ラウネちゃんは回復には自信があるんだっけ。みんなも、ナイルちゃんでさえその点は認めてたし。だいたい60日はこのままなのかぁ。
「えーっと、それってどのくらいヤバいの?」
「どれくらい……うーん、いま変なことしたら二度と飛べなくなるかも!」
「……それは困る」
飛べないハーピィはただのハーピィ……いやそれ未満だよ。
「でしょ!だから大人しくしてて!」
はぁ~、まぁそりゃナイルちゃんでも危ないような攻撃をわたしが喰らったらそうなるかぁ。でも飛べないとしたらわたしのアイデンティティってなに?
「それでさ、わたし全然覚えてないんだけど、あの後……ってどのあと?」
ユウさんが受け止めてくれてなんとか助かった……その後くらいから記憶がない。
「あー……ハルちゃん、脱出したあとすぐに倒れちゃって。慌ててライム君と私でいろいろして……。」
やっぱりか。魔力も体力も使い果たしちゃってたから、むしろ落下中に気絶しなかっただけ偉いと自分を褒めたいくらいだね。
「その後結局どうなったの?ほら、地下室から救出したあの子とかさ……」
ラウネちゃんの話によると……
アオちゃんは結局、溜まっていた魔力を全部水魔法として放出しきって、その後ユウさんが引き取ったらしい。ウチに来ても良かったと思うけど、まぁユウさんなら悪いようには扱わないと思うからひと安心だね。今のところ言葉がほとんど通じないらしいのはちょっと心配だけど。
……そしてあの密猟組織は、まだ氷山の一角だったらしい。悪い人間はそこかしこに居るってことだ。でも魔王様とライム君、ユウさんも調査してくれてるって言うから、根絶やしにできるのも時間の問題じゃないかなぁ?ナイルちゃんを殺しかけるくらいの力がある組織だから油断はできないけど、あのユウさんだしなぁ……。
で結局さ、わたしの家族や友達は……うーん……。
「ハルちゃん?大丈夫?」
「だ……う……?」
大丈夫だよ!って言うつもりだったのに、声が出なかった。喉が……。なんだろう、この感じ。
「……ごめん、ハルちゃん。」
ラウネちゃんに抱きしめられた。
「辛かったよね、みんな居なくなって、ひとりぼっちで……」
頬に雫が伝って、はじめて気付いた。わたし泣いてる?
「私には想像もつかないくらい、ハルちゃんは強いんだと思ってた。でも違う、そりゃあハルちゃんだってさ、弱点があるよね。」
……弱肉強食だ、そういう運命だったんだ、そう割り切ったつもりだったんだけど……心の奥底ではわたしは我慢してたのかもしれない。
「……ごめん、私さ、ちょっと嬉しいと思っちゃった。私の前で、ハルちゃんが弱みを見せてくれたこと。」
「うぁ……だってラウネちゃんやここのみんなは、わたしにとってはもう家族みたいなものだもん。」
かすれる声で言ってみたけど、ちょっと気恥ずかしいかも。でも本当にそう思ってるんだからしょうがないよね。わたしは正直なのだ!
失ったものは大きい、けど得たものも大きかった。
でもまた失うかもしれないことを、わたしは言おうとしている。
…………。
「わたし、魔王軍やめようかなって思う。」
「え?」
ラウネちゃんが手を離した。1歩下がってわたしの顔を直視する。
「な、なんで?」
「わたしがここでやるべきことは終わったかなって。これ以上みんなの手をわずらわせるのはなぁって。あとわたし今飛べないし。役に立たないよ。」
「役に立たないからって……」
「わたしさ、森に帰ろうと思ったんだ。あの森にはわたしの……色々あるから。」
声はまだかすれていて、調子もガタガタで格好はつかないけど。わたしは森に戻りたい、それは自分で決めたこと。
わたしはラウネちゃんの横を通り過ぎて、部屋の出口へ向かった。半開きになっていたドアを開けて、廊下に出る。後ろを振り向くと、ラウネちゃんと目が合った。目を逸らされた。
そのまま廊下を進み、階段を降りる。みんなには会わないように一直線に玄関を目指す。誰かに会ったら引き止められちゃうのはわかってるから。
玄関を出て、飛ぶ……のはダメって言われたから、出来るだけ左翼に負担をかけないように走ってみる。風魔法も使ってみたけど逆にバランスを崩しちゃったから、今は封印。
でもやっぱり左肩のこともあって、すぐに疲れちゃった。……このまま森に戻っても、野垂れ死にするだけかな。まぁやることはやったし、わたしの最期なんてそんなもんでいいんじゃないかな。
ゆっくり歩きながら、居なくなったみんなのことを思い出す。わたしより賢い子、わたしより力強い子、わたしより素早い子……みんな居なくなってわたしだけが残された。
いつの間にか日が陰って、今にも雨が降ってきそうな天気になっていた。今雨が降ってきて濡れたらかなり寒い気がする。
わたしは駆け足にならない程度の早足で先へ進む。わたしの始まりの地へ。
しばらく歩くと森が見えてきた。ちょうど、雨が降ってきた。わたしは足を速める。
……そして足を止めた。
「来たね。」
わたしの前に立ちはだかったのは、ナイルちゃん。まだ朝起きる時の鐘は鳴ってない時間なのに、もう先回りされてたか……。
「ハルっちが森に帰ろうとしてるって、うちの大将から聞いたんだよね。ま、ほっとくわけないのはハルっちも分かってたでしょ?」
……分かってた。遅かれ早かれ引き戻そうとして来るって。それにしても早かったなぁ。
「おっ、あたしを倒して先に進もうってわけ?それなら相手になってもいいけど、手負いでしょ?ハルっち。」
目を合わせて威嚇してみたけど、万全の状態でもスピード以外のスペックは勝ち目がないのに、今のわたしはそのスピードすら失ってる。正直言ってここで何をしても無駄だ。
どうする……どうやって突破する……?
最強の裏ボスと対峙したわたし。運命やいかに!
次回、最終回!第13話へつづく!
tips:「ハーピィ」
半人半鳥の魔物。基本的に女性型しか存在しない。しかし他種族の助けを借りること無く繁殖していると思われるので、単為生殖の種族なのかもしれない。真相は未だ不明。
地域によって羽根や毛の色が大きく違い、得意属性も最多は風のようだが、火や水の属性が強い個体も存在する。
基本的に楽天的な性格で、警戒心も薄く好奇心が強い。
能力値は敏捷性極振り。羽根を硬化出来る能力のおかげで物理防御力は多少あるが、体重の軽さ故に物理攻撃力は低い。魔法抵抗も低い。
魔力はそこそこ持っているが、魔法を使いこなせる者はわずか。




