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青い鳥

「ハルっち!」

 ……何、うるさいなぁ。

「起きてよ、起きて!!」

 あのさぁ……ひとが寝てる時にそばでそんな大声だしていいの?ナイルちゃんが寝てる時に横で叫んでもいいの?コケコッコー!!って……。

「戻ってきて!!!」

 もど……なんて?あれ、わたしどうしたんだっけ、なんで寝て……?

「……うるさい」

「ハルっち!良かった、良かったよぉ……」

 左の翼の付け根、肩の辺りが痛い。あとそもそも身体に力が入らない。うーんなんでだ……さっき……確か……。

「ごめんね、一応回復魔法をかけたけど……治るのにはしばらく時間がかかると思う。」

 ラウネちゃんの回復魔法……を受けた上で、この痛みかぁ。どうしてそんな怪我をしたんだっけ、えーと……。

「ハルっち……あたしなんかの為にハルっちが危ない目に遭って良い訳がないじゃん。」

 えーと……?

「その顔、覚えてない?ハルは、銃弾を受けた。ナイルを、庇って。」

 ジュウダン……あぁ、思い出した。さっきの黒い塊か。

「密猟者程度が、あれを、持っているとは……ボクも、想定外だった。」

 ライム君が驚くほどのものなんだ。じゃあやっぱりナイルちゃんでも危なかったんだろうな、それは最悪の未来だから予見から外しちゃってたけど。まぁ、一番いい未来に持っていけたんじゃないかな、わたしは。

 あの時、ナイルちゃんを突き飛ばした後、直感が『前へ』『上へ』と言ってたから、わたしは最後の1歩でより強く地面を蹴ったんだ。そのおかげでたぶん、頭への直撃を避けられたんだと思う。その前に予見した未来ではわたしは……うん、まぁ結果的にそうならなかったなら良かった。

「いてて……ちょっとなんか疲れちゃったかも。」

「そりゃあ、そうだよ。魔力が、ほぼ尽きてる。竜巻数発、起こしても、無くならないであろう、魔力総量だったのに。」

 なるほど、未来視を使いすぎたってことかぁ。本にも書いてあったね、より先の未来を見ようとするといっぱいエネルギーを使うって。そういえば最後の方は世界が徐々にゆっくりじゃなくなってた気がする。ってことは、わたしは怪我をしたからじゃなくて、魔力が切れたから意識が飛んだのかぁ。

「しばらく安静にしてて、この先はみんなが何とかしてくれるから。」

 ラウネちゃんはそう言ってるけど……ここまで来たのにそりゃあないよね。

「わたしも……行く。」

 わたしはなんとか立ち上がって、肩を抑えながら、既に開いている大きいドアの方へ向かった。

「おっと、危ないっすよ。」

 わたしはふらついて転びかけたけど、クロ君が支えてくれた。

「おぶって行くっすか?このまま行かせる訳にはいかないっす、流石に。」

「そうした、方が、いい。ハルの魔力、まだ、ほとんど、回復してない。」

 ……わたしは拒否できなかった。それほどに身体が動かない。

 そうして、ドアの先に進もうとすると、ドンッという音がして、後ろから知らない声が聞こえた。

「すまん、遅れた!」

 わたしは振り向いてみると、鎧に身を包み、剣を持った人間がいた。体格はわたしよりひとまわり大きいくらいで、まだ若いと思う。

「ゆ……じゃなかった、王!?なんでここに?」

 ナイルちゃんが驚いて……王ってまさか。

「お、お前が例の新入りか。俺は……王だ!」

「いや、まず名前を名乗れよアホ王!」

 ナイルちゃんがツッコミを入れた。

「そうか!俺の名前はユウ!」

 ナイルちゃんに対してこの親しさ、『王』の呼び名、もしかして。

「人間の国の、王様?」

「そうだ!尤(もっと)も、王に成り上がったのはつい最近だがな!」

 えぇ~。

「で、なんで王がここにいるの?」

「マオから報告を受けてな。仲間達が処理すると言っていたが、俺も協力し見届けるべきだと思ってな!ダッシュで来た!」

「王がそんな軽いノリで来たらあかんでしょ……。」

「む、大丈夫だぞ!仕事は全て大臣に任せている故、俺は暇なのだ!」

「脳筋王め……。あぁハルっち、ちなみにこいつタイマンならあたし並に強いから。」

 ナイルちゃん並……ってことは、リュウ君より強いってこと?とんでもなく強いじゃん!

「だが、もう終わっているようだな。出来れば生け捕りにしたかった所だが……。仕方がなかったのであろうな。」

 わたしが寝ている間に、戦いは終わっていた。まぁ見れば分かる、クロ君が全員なぎ倒して押しつぶしたんだ。ナイルちゃんの言霊を使ったような跡はほとんど残ってない。

「……そういえば、ナイルちゃん、なんか背伸びた?」

「……今更?」

「ああ、お前は見たことが無かったのか?これはこいつの第2形態、『空狐化(くうこか)』の姿だ。」

 んん……よく見たら、ナイルちゃんの尻尾が3本光ってる!今までは言霊(ことだま)を使ったときも1回で2本しか光ってなかったのに。

「さっきハルっちに庇われた瞬間に使ってたんだよね……間に合わなかったけど。」

 ……本気出してなかったの?それで死にかけたの?な……何してるの?本当に。

「……ごめん。ずっとこれだと消耗が激しいから、普段は使ってないんだ。」

 わたしの言いたいことを察したのか、ナイルちゃんに謝られた。

「ま、まぁなんとかなったから、結果オーライだよ。」

 こういうおっちょこちょいなところも含めてのナイルちゃんだからね。許してあげよう。

「俺が来たからには、もう危険な目に遭うことは無いだろう。安心しろ!」

 ……この人もこの人でちょっと危なっかしい気もするけども。




 ドアの先には、さらに下へ降りる階段があった。地上と地下の境目ははしごだったけど、ここは階段。

 階段を降りると、牢獄みたいなところにたどり着いた。……やっぱりあちこちに血のシミが。さっきの部屋より多い。

「……ひどい臭いだな。」

 わたしは鼻が利かないけど、ナイルちゃんは鼻をつまんでるし、ユウさんやクロ君も険しい顔。けっこうな臭いがしてるんだろうな。

 薄暗い中だけど、左側の檻の中で何かが動いたような気がした。わたしは立ち止まる。後ろにいたラウネちゃんとぶつかった。

「どうしたの?」

「何か、居るかも。」

「……『狐火(きつねび)』。」

 ナイルちゃんが明かりを用意してくれた。うん、やっぱり何か居るよ、この場に不相応な明るい青色が見えるもん。

「生き残りか。ハルっち、知り合い?」

「いや、この辺の子じゃないと思う、森にいた子達はだいたいわたしみたいな毛色だもん。」

 そこに居たのは私の同族(ハーピィ)。薄汚れているけど、綺麗な青い羽根の子。わたしよりもかなり幼いと思う。

「異国から連れてこられたのかもしれん。少なくとも、俺の管轄内では見たことがない色だ。」

「あたしの故郷に居たかもな、こんな感じのハーピィ。昔過ぎて忘れちゃったけど。」

 ナイルちゃんの故郷ってことは相当遠くだよね?そんな子がここに……。

「……他に、気配は、無い。ここには、この子しか、居ない。」

 ライム君がそう言うならそうなんだろうな。…………まぁ、そうだろうなぁ。

「待ってろ、今そこから出してやる。」

 ユウさんはそう言うと、鉄格子を両側にぐいっとひん曲げた。すごい、その体格でパワーはクロ君並み!

 青い小鳥ちゃん……アオちゃんとでも呼ぼうか。アオちゃんは、怯えてる。

「安心するっす、オレ達は貴女を助けに来たっすから。」

 アオちゃんはクロ君とユウさんを交互に見て、何度か瞬(まばた)きをした。クロ君を見上げた時に気付いたけど、首輪がはまってる。

「それ、取るっすか?」

「そうだな、こんな邪魔なものは要らないだろう。」

 ユウさんは首輪を破壊するつもりみたい。アオちゃんの首が傷つかないか心配だけど、ユウさんなら上手くやってくれるか。

「少し痛いかもしれないが、我慢するんだぞ。」

 そう言ってユウさんは首輪を千切ろうと引っ張った……

「あ、ちょっと、待って!」

 首輪が変形して伸びたところでライム君が制止した。しかし、首輪はそのまま引き千切られた。

「不味い、みんな、外へ!」

「えっ何!?どういうこと?」

「魔力が、溢れ……とにかく、その子も連れて、はやく!」

 わたしが状況を理解できず戸惑っていると、アオちゃんを中心に、水が流れ出した!この勢いだと地下室が水没しちゃう!?

「やばっ……『青狐火(あおきつねび)』っ!」

 ナイルちゃんが言霊で時間を稼いでくれてる。けど焼け石に水……今の状況は真逆だけど!

 ユウさんがアオちゃんを抱え上げ、クロ君にパス。クロ君はそのまま階段を駆け上がる。とっさにクロ君から離れていたわたしは、後を追う。

「すまん、どこにも繋がれていない首輪が不自然だと言うことに気付くべきだったっ!」

 わたしは、後ろから聞こえてくるユウさんの声を聞いて振り向く。もう下は水、水源はクロ君が抱えてるアオちゃんだから、上からも水!

「ユウさんが溺れちゃう!」

「王はどうせ大丈夫、それよりあたしらがヤバいよ!」

 ナイルちゃんはラウネちゃんを抱えて階段を駆け上がってる、ライム君は……たぶん水の中でも大丈夫か、スライムだし。わたしは階段を3段飛ばしで駆け上がる。でもそれよりもナイルちゃんの方が速い!やっぱり最初から本気出してよ!

 なんとか必死で地下1階まで上がった。でもこの先ってたしか長いはしごだよね?

「どうやって上がる?」

 ナイルちゃんがクロ君に言った。わたしもそれが気になってた。ひとりずつはしごを登ってたら間に合わないだろうし。

「そんなの、1つしか、無い。ハルの、風魔法。」

 後ろからふっ飛んできたライム君が壁や床でバウンドしながらそう言った。たしかに今もわたしは走れてたし、さっきより辛さも無い!魔力がちょっと回復したんだ。

「そっか確かに。ハルっち、行ける?」

「いける!みんな、行くよ!」

 ユウさん以外の全員がはしごの近くに集まった。水はもう地下2階を完全に沈めて、ナイルちゃんの膝くらいまで水位が上がってる。

 わたしは集中してイメージを固める……!

「吹け、上昇気流っ!!」

 

 次の瞬間、わたし達ははるか上空に打ち上げられていた……。や、やりすぎたぁ!?

 風とともに吹き上がる水柱(みずばしら)。綺麗だなぁ……なんて言ってる場合じゃない!

 けっこう高い位置だけど、ナイルちゃんは『空蹴(そらけり)』があるから大丈夫、クロ君は……リュウ君が落下地点に向かってるから何とかなりそう!

 じゃあみんな一安心、あとはユウさんが無事なら……痛っ。

 やば……さっきの傷が痛むせいで、バランスがおかしい……そ、そうだ風魔法……。

「ハルっち、大丈夫!?」

「大丈夫じゃないかも~~っ!」

 さっき魔力をほとんど使い果たしちゃったから、魔法がぜんぜん弱いし、そもそも身体がぜんぜん動いてくれなくて飛べない!

 風魔法でちょっと軌道は変わったけど、このままだと頭から墜落……今度こそ死ぬ?

 そう思った時、建物のがれきがガタガタと揺れ始めて、大きな音とともに、地面に大穴が開いた!

「俺、復活ッ!!」

 ユウさんだ!生きてたんだ、良かった。ナイルちゃんは大丈夫って言ってたけど、わたしは心配してたんだよね。

「王っ!ハルっちをなんとかして!」

「ん?よく分からんが、承知した!」

 一瞬でわたしの真下まで移動したユウさんは、風魔法を使ってわたしの身体を受け止めた。

「これでいいか?」

「あ……ありがとうございます!」

 ユウさんのおかげで九死に一生を得た。わたしは一気に脱力した。

 



 いつの間にか空は晴れ模様で、朝日が昇ってきた。水が吹き上がったから、小さな虹がかかっている。ユウさんが開けた大穴は、池のようになっている。

「お疲れ様。」

 ナイルちゃんの一言でわたしは実感した。ああ、戦いは終わったんだ、と。




 戦いは一件落着。

 第11話へつづく……あれ?今のが11話目?

 じゃあ、第12話につづく!

tips:「妖狐」

はるか遠方の国に生きる魔物。

格が高くなるほど尾の数が増えていき、最大で9本(九尾の狐)にまでなるため、そのアドバンテージを活かして言霊を使って戦う場合が多い。

魔法を使う文化はないが、魔力は大量に保有している為、使い方を知れば強力な武器となり得る。

一部は神の使いとして崇められ、最高位クラスの者は自身が神にも届きうるほどの力を持つこともある。

能力値は格が上がるにつれ大幅に伸びるが、物理防御力だけはほとんど伸びないため、そこが明確な弱点と言えるだろう。

尾が3本の時点から『◯狐化』の言霊で形態変化が可能になる。例えば『白狐化』『管狐化』など。ただし尾が少ないうちはそれに3枠を割いてしまうとほとんど攻撃手段が無いため、現実的なのは五尾あたりからであろう。もとに戻る場合は『化狐』の言霊を使う。

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