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雀の涙ほどの力

 前回のあらすじ!

 わたしは真実を知ってしまった!夜明けに、悪い人間たちに奇襲をかけることが決まった!




 わたしは、真夜中に起きた。

 昨日は夕方にはもう寝たんだよね、朝早く起きたかったから。

 わたしはいつものように、窓から飛び出す……のは、やめた。だってちょっとさ、流石にこれだけ真っ暗だと周りが見えないって。わたしは鳥目(とりめ)ってほど、暗いところで視力が落ちるわけではないけど、くもり空なこともあって窓の外は本当に真っ暗。これじゃ地面までの距離もつかめない気がする。

 しょうがないから、今日は普通に出よう……と思ってドアを開けて外に出たんだけど、目の前の何かにわたしは気付かなくて、ぶつかってしまった。

「ぴゃっ!」

「わ、ごめん。そろそろ出てくると思って待ってたんだ。」

 ドアの目の前のものというか、ドアの目の前に立ってたのはラウネちゃんだった。

「今日は窓からじゃないと思ってた、外暗いし。」

 完全に行動を読まれてて、わたしはちょっと恥ずかしくなった。

「あのさ、私ね、夢を見たんだ。」

「夢?ラウネちゃんは寝ないのに?」

「うーん、時々なんかあるんだよね。ボーッとしてたら頭にいろいろ浮かんでくる事が。それでアドバイスをくれるの。」

「それってほんとに夢?」

「多分違うんだろうけど、私は夢って呼んでる。どっちかと言うとハルちゃんの『直感』に近いかもしれないけど、もっと先の事について。」

 わたしのより強力な未来視……?いや、わたしの『直感』はたぶん、生きるための行動だけを教えてくれる。アドバイスをくれるってことはそれより更に強力ななにか……。ライム君のところで読んだ本にはそんなの書いてなかった。わたしが読まなかったところに書いてあったのかもしれないけど。

「どんな事を言われたの?もしかして、わたしは戦いについて行かないほうがいいとか……?」

 わざわざわたしに言いに来たってことは、何かわたしに言う必要があることなんだと思う。だからわたしは先手を打って質問してみた。

「ううん、そうじゃないけど……ハルちゃんが危険な可能性はある。アドバイスは『角行(かくぎょう)と桂馬(けいま)の頭は弱いから気をつけろ』って。」

「どういう意味?」

「『角行(かくぎょう)』は今までの夢ではナイルちゃんの事を表してた。『桂馬(けいま)』は今まで出てこなかった単語で、おそらく仲間の誰かを指してる。他のみんなは今まで他の単語で表されてたから、ハルちゃんの事だと思う。」

「……それってつまり、わたしの頭が弱いってこと!?」

 ナイルちゃんにはさんざん鳥頭だのなんだの言われたけど、ラウネちゃんにまで言われるとはショックだぁ……。

「ちがうちがう、『頭が弱い』は、正面きっての攻撃とか、単純な力押しに弱いって事だよ。今までも、ナイルちゃんについては結構そう言われたからね。」

「な、なんだ……。でもたしかに、わたしは力押しされたらどうしようもないかも。」

 ここに来てすぐのとき、模擬戦でクロ君に突撃して弾き返されたのを思い出した。うん、わたしにはパワーが無い!それは認めざるを得ない!

「だから、気をつけた方が良いと思うんだ。」

 ラウネちゃんはわたしを心配して伝えに来てくれたんだ。こういうところがみんなから信頼される要因なんだろうなぁ。

「ナイルちゃんにも伝えたの?」

「ううん、まだ。夢を見たのが皆が寝静まってからで、ナイルちゃんよりハルちゃんの方が多分早起きだから、先にこっちへ来たんだよね。」

「そっか、じゃあこれから伝えに行かなきゃね!」

 わたし達はとりあえず食堂へ向かった。いつも通りならみんなそこに集まるから。




 しばらくすると、みんなが食堂に集まった。魔王様も居る。

「作戦は、覚えてるね?」

 ライム君がみんなに確認する。

 たしか、わたしはリュウ君と一緒に先陣を切る役だったはず。クロ君とライム君は出入り口で待機、逃げ出す人間たちに対処する。その後わたし達はナイルちゃん、ラウネちゃんと合流して地下室へ行く。ライム君の調査ではその建物は地上2階と、少なくとも地下1階まであって、先へ続く道もありそうだったけど重いドアで閉ざされてて先は見れなかったって。

 みんなが頷いた。ナイルちゃんは深呼吸して立ち上がると、

「ま、多少ミスってもあたしや邪龍(じゃりゅう)が何とかするから、大丈夫。緊張しすぎないで。」

 そう言って笑った。でも目が笑ってない。

 鐘が小さめの音で鳴った。そういえばこの鐘ってどういう仕組みで鳴ってるんだろうね。

「夜明けより前に奇襲するんだろ?そろそろ行こうぜ。」

 リュウ君はゆっくりと窓の方へ歩いていくと、窓を開けて、そのまま飛び降りた。

 わたしが窓から地面を見下ろすと、そこには巨大なドラゴンが。あれがリュウ君の真の姿かぁ。

 わたし達の中には、移動能力にそんなに長けていないクロ君やライム君が居る。だから、多少目立ってもいいから全員をリュウ君が運んでいくことにしたんだ。

「じゃあ、行こうか。」

「……ラウ姉(ねえ)さん、ほら、行くっすよ。」

 ライム君が跳ねて窓枠を飛び越える。続いてクロ君がラウネちゃんを抱えて飛び降りた。

「はぁ、あたしが転移魔法でも使えれば良かったのにな。」

 そう言いながら、ナイルちゃんも窓の方へ向かう……って、ちょっと待って!

「待って、ナイルちゃん!」

「え、何?」

 そういえばさっきのラウネちゃんの夢の話、ナイルちゃんに伝えてないじゃん!

「わたしやナイルちゃんは、『頭が弱い』から気をつけてって!」

「は!?ハルっちってそういう事言う性格だっけ……?」

 あ、これは勘違いを生んでるやつだ。さっきの私の反応と同じだもん。

「違う違う、これはラウネちゃんが言ってたの!」

「……ああ。夢の話か。一瞬、ラウ姉(ねえ)があたしの悪口言ったのかと思ったじゃん。ま、気をつけてはおくよ。」

 そう言うとナイルちゃんも窓の外へ飛び出した。残されたのはわたしと、魔王様。

「……行ってこい。ケリをつけてくるのだ。」

「うん、行ってきます!」

 わたしも窓から飛び立ち、ゆっくりとリュウ君の上に着地。

「全員揃ったな。最高速で行くから、振り落とされるなよ!」

 リュウ君はゆっくりと翼を羽ばたかせて上昇すると……翼の後方にある突起から火が吹き出して、ものすごい加速を始めた!

「えぇぇぇぇ!?」

「あ、ハルさんはこれ初めてっすね。何回かやったら慣れるっすよ。」

 クロ君はこの風圧の中でも、片手でラウネちゃんを抱えながらもう片手でリュウ君の背中のトゲに掴まってる。腕の中のラウネちゃんは……ナイルちゃんの『空蹴(そらけり)』も慣れないって言ってたから、そりゃダメか。

 ライム君はだいぶ平たくなって張り付いてる。ナイルちゃんは両手でトゲを掴んで、身体と尻尾が旗みたいになびいてる。……あれで大丈夫なのかな?

 わたしも、ひとの事は気にしてられない。咄嗟に風魔法で風圧をやわらげて、それを今も続けてるからなんとか落ちずに済んでるけど……わたしの翼じゃ掴めるところがほとんど無いんだよぉぉ!




 ……そのままなんとか、わたしは振り落とされずに目的地にたどりついた……んだけど。

「悪い、勢い余った!」

「おい!!何してんだ邪龍(じゃりゅう)!!!」

 リュウ君がアジトの建物に突っ込んで、こっぱみじんに壊しちゃったんだよね。絶対これ何人か潰されちゃってるって。まぁ悪い人間だし、自業自得かもしれないけど。

 そして、建物は半分以上こなごななのにリュウ君は無傷。つよい。

「まぁ、地下への、入口、場所は、覚えてる。掘り起こそう。」

 結局、地下へはリュウ君以外の全員で進むことになった。リュウ君が地下で暴れたら地下室まで崩れちゃうよっていう話になったから、リュウ君は地上で待機になっちゃった。わたしはもともとの予定通り、いっしょに行こうと思ってたんだけど。

 クロ君が掘り起こした鉄の蓋の下が……地下室っぽい。蓋を開けたら、はしごが続いてた。

「オレが先行するっす。この中じゃ、一番頑丈っすから。」

 そう言うとクロ君ははしごを使わず、穴の中へ飛び降りた。直後にライム君が続く。

「『空蹴(そらけり)』っ!」

 ナイルちゃんは流石にそのまま飛び降りるんじゃなくて、空中を歩いて降りるみたい。

 残されたのはわたしと、ラウネちゃん。って、わたしが『斥候』なんだし、わたしも早めに降りておくべきだったかなぁ?

「私は流石に梯子を使わないと無理かな……。ハルちゃんも先に行ってて。」

「わかった!」

 わたしは穴の中へ飛び降りて、翼を使って滞空を繰り返してゆっくりと地下へ降りた。上を見ると、ラウネちゃんがはしごを急いで降りてくるのが見えた。

 既にもう、クロ君やナイルちゃんが人間たちと戦っている。左側でクロ君が敵をなぎ倒してるけど、天井がそんなに高くないから窮屈そう。右側ではナイルちゃんが火や雷を使って戦ってる。そして正面、ライム君が大きな鉄のドアの前で何かしてる。

「ダメだ、鍵、かかってる。探さないと。」

 ドアの先に進もうとしてるんだ。あの先には……いや、期待はしない方がいい。だって既に、壁や床のあちこちに赤黒いシミがあるんだもん。

 余計なことを考えてないで、わたしもみんなに加勢しなきゃ。とは言っても、わたしができることってあるのかな……。


 ん……なにこれ?

 世界が超ゆっくりに見える。かと言って、わたしの動きが速くなってるわけでもなくて、まわりと同じ遅さ。

 ……これ、本に書いてあったやつだ!でもなんで今?

 それと、なんだろう、この嫌な感じ。直感は『動くな』、『右に行くな』。でもそれは、直感。たぶん、わたしを守る方法。

 首を動かして右を見る。今やるべきだよね、より先の、より精度の高い、より先の『未来視』。今まで無意識でやってたことなら、たぶんもう一段階先に行ける。

 みぎがわではないるちゃんとすうにんのにんげんたちがたたかっていてないるちゃんはことだまをつかってにんげんたちをおいつめてるけどにんげんのうちひとりがふところからなにかをとりだしたのがみえたそれがなにかはわからないけどたぶんぶきだとおもうしもしかしてとびどうぐなのかもしれないそれをないるちゃんにむけようとしているけどないるちゃんはきづかないいやきづいたけどいっしゅんおくれたぶんたいおうできなさそうないるちゃんのことだまはくちにださないといけないぶんはつどうまでのじゅんびじかんがじゃっかんひつようだよねだからこのままじゃぼうぎょはまにあわないよけることはできるかもしれないけどないるちゃんはあせってことだまをはつどうさせようとしているからよけられないたぶんないるちゃんのあせりかたからしてあれはほんとうにとびどうぐでそれもかなりあぶないなにかだらうねちゃんがいってたあたまがよわいってことばからしておそらくはこのままだとあたまを……。

 わたしはゆっくりな世界の中を出来る限り早く進んだ。

 右に。

 直感は……ダメだと言ってる。一応、羽根を硬化してみた。それでも変わらない。

 「『く』……」

 ナイルちゃんが『空壁(くうへき)』を発動しようとしてるけど、それが間に合わないのは予見済み。

 ああ、こんなわたしだけどさ……ナイルちゃんに比べたら雀の涙ほどの力しか持ってないわたしだけどさ……ちょっとは役に立てたのかな?

 破裂音がした。ゆっくりの世界の中だからか、とても低い音に聴こえる。

 わたしはナイルちゃんを突き飛ばした。

 小さな黒色の塊が飛んでくる。ゆっくりの世界の中なのに、それはゆっくりではない。

 ……短い間だったけど、楽しかったな。

 そして世界が加速する。

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