導きと聖剣②
「なら抜けばいいんじゃないか?別に俺は構わないぞ。ほら、早く抜けよ」
「べ、別に今すぐに抜くなんて言ってないじゃない!私にも私のタイミングってものがあるのよ!」
「........じゃあ、俺が先に抜くぞ?」
「はあ!?そんなの、いいわけ.....!!......こほん。好きにしたらいいじゃない。どうせ抜けずに諦めて帰っていくことになるけどね!......皆そうだったんだから」
最後の言葉は小さくて聞こえなかったが、おそらく彼女は聖剣を抜けないのだろう。
「お前ほどの実力者でも抜けないのか。この世界も世知辛いんだな」
「......!!あなた、今私のことばかにした!?したわよね!?いい度胸してるじゃない。ちょっとこっちに来なさいよ!」
ずんずんと近寄り、胸倉を捕まれる。
苦しいが、手加減してくれてるようで割と呼吸はできる。
ちらと見ると、あちこちにぶら下げられた的には赤い染料でバツ印が書かれており、その中心に吸い込まれるように傷跡が付けられていた。
荒い性格とは似つかないほどの正確さな剣裁。いったいどれだけの研鑽を積んだのだろうか。
「お前、もしかして勇者になるために修行を?」
「だったら何よ。はっ、どうせ私は所詮女。修行したって勇者になんて......笑いたきゃ笑いなさいよ!」
「なんで笑うんだ?」
「え、だって......私、女だから、その....勇者になんてなれな」
「勇者になるのは男しかダメなのか?」
「.......っ!そんなことっ...ないと、思う。......でも、歴代に女の勇者はいないわ。子供でも知ってる常識でしょ。言わせないでよ、そんなこと」
きつく拳を握りしめ、顔を俯かせる少女。
この世界では、男尊女卑の価値観が根付いているのかもしれないな。
俺は胸倉をつかんでいる方の手をほどくと、俯く少女に語りかけた。
「まだ名前を聞いてなかったな。俺はカミシロ・ワタルだ。お前は?」
「......教えない」
「そうか。オシエナイ。お前はなんで勇者にこだわってるんだ?」
「教えないっていったのよ!名前なわけないでしょ!!.....ラディカールよ」
「そうか。ラディカール。お前はなんで勇者にこだわってるんだ?」
「機械みたいに同じこと言わないでくれない?一々勘に触る奴ね」
すっかり顔を上げ、こちらを睨みつけつつ地団駄を踏むラディカール。
先ほどまで森の陰でよく見えなかったが、近くで見ると中々端整な顔立ちをしている。
悪戯したくなる年下の少女、といった印象を受ける赤髪の女の子だ。
俺が無言でじっと待っているのを確認すると、話さない限り帰らないと悟ったのかラディカールは舌打ちして。
「あーもう!めんどくさい男ね!......簡単に言うと、復讐よ」
「復讐か。それと勇者になんの関係が?」
「言わなきゃわかんない?力よ力。勇者の力があれば、できないことなんてそうそうないわ」
ぶっきらぼうに吐き捨てるラディカール。
なるほど、単純明快だ。復讐のために手っ取り早く力を手に入れる。
聖剣を抜き、勇者となると自動で強くなれるのか。
「ゲームらしい要素で大変喜ばしいが、抜けないことには皮算用だな」
「げーむ....?かわざ.....?」
「聖剣が抜けなきゃ意味がないってことだ。というか、そのために鍛えてたのか?」
それはなんとも本末転倒。いや、健全な成長というべきだろうか。
「この剣、本当は抜けないけど抜くために修行させて、強くなった君こそ勇者だーとか、そういうオチじゃないよな?」
「冗談でもそんなこと言わないでよ。あるわけないでしょ?そんなこと。......ないわよね?」
お互いに気まずい沈黙が流れる。なんだか知ってはいけない真実に足を踏み込んだ気分だ。
「はぁ。......あーもう、いい。今日は帰る。どうせ抜けないだろうけど、せいぜい頑張れば~?」
沈黙に耐えられなくなったのか荷物を担ぎ、ひらひらと手を振って村へと帰っていくラディカール。
露出の激しい簡素な服装を纏う彼女の後ろ姿は、汗に濡れたことも相まって非常に煽情的に見えたことは黙っておこう。
「俺もちょっと試したら村へ帰るか」
すっかり日も暮れ、茜色に染まった空が暗闇の訪れを示唆してくる。
俺はほんのり残る彼女の残り香を感じながら大木の元へ移動すると、古びた柄に手を掛けて。
「せい!」
腰を落とし、精一杯両手に力を込めて引っ張ると。
「.......あ?」
スッという軽い音とともに、古びた剣が大地から抜けた。
刀身は古びており、聖剣の聖の字も感じられない。刃こぼれも酷く、ナマクラもいいとこだ。
同時に、さきほどの光の文字列も霧散する。どうやら命令を実行すれば消えていくようだ。
光の文字は指で触ると多少ずらすことができ、視界に入らなくすることはできる。
とはいえずっと表示されるのもうざったるかったので喜ばしい限りだ。
「力は.......別に変わってないよな」
腕をぶんぶんと振ってみたり、ぴょんぴょん跳ねてみるも大差なし。
「あの文字に従ってみたものの、成果はゴミだけか」
これをラディカールが知ったらどう思うだろうか。
俺はこのデマのおかげで鍛え上げられた彼女こそ本当の勇者だぞと声援を送りながら、森を後にしようと振り返ると。
「......!?なんだ!?」
『ハーゼの宿屋で宿泊せよ』
再び目の前に現れた光の文字列に目を奪われると共に、下の方からも光を感じた。
「これ、剣が光って.....!!」
ボロボロだった聖剣が突如として光りはじめ、少しずつ錆が落ちていく。
それと同時に体に暖かい何かが流れ込み、器を満たしていくのを感じた。
数十秒にも満たない時間だったが、眩い光はしだいに強さを弱め、やがて消えていった。
後に残った聖剣は所々錆が残るものの、十分使えそうな鋭さを有している。
対する俺も、なんだか体に力が漲っているような。
筋トレした後に体から溢れ出る謎の自信に似ているだろうか。
「ふんっ!」
試しに、力任せに剣を乱暴に振ってみる。
すると、
「.....まじか」
数メートル先にある大木が激しく靡き、森が悲鳴をあげた。
横に生えていた低めの木は根っこから引き抜かれ、風に攫われ吹っ飛んでいく。
風圧だけでこの威力だ。直接切ったらどうなってしまうのだろうか。
「これが、聖剣の力か」
ラディカールの言っていた力は実在していたらしい。
少し彼女には申し訳なく思うが、元はと言えば。
「あの光の文字だよな。あれは一体...」
首を捻るも、光の文字列は新たな指令を示しており、形を変える様子は見られない。
この文字列を完全に信用したわけではないが、俺をいい方向に導いたことは確かだ。
ヘルトもこれに従って旅をしたのだろうか。
「......あっ、もしかして」
俺がヘルトから勇者権を譲り受けたから抜けたってことだろうか。
「だとしたら、あの娘が不憫すぎるな」
彼女は一生抜けない剣のために、修行していたことになる。
次会ったらなんて説明すればよいのやら。
「ハーゼの宿屋、か。結局どっかには止まらないといけないし」
ラディカールのことは気がかりだが、とりあえず命令に従っておこう。
俺は聖剣を訝しむように見つめると、村にあるだろうハーゼの宿屋へと歩を進めた。
ご愛読ありがとうございます!
大変申し訳ないのですが、より多くの方に読んで頂けるよう、次話から投稿時間を21時10分に変更させていただきます。
毎日投稿は続けますので、これからもどうかよろしくお願いします!




