導きと聖剣①
「.......?」
気が付くと、俺は別世界にいた。
「ここは......」
目の前に広がるのは日本ではない『どこか』であることを象徴するものばかりだ。
あたり一面に広がる麦畑が風になびき、牛らしき家畜の鳴き声が聞こえる。
村の中央には大きな広間があり、それを囲むように家屋が建っていた。
「昔のヨーロッパみたいな街並みだな......ええっと、確か俺は」
歴史の資料で見たような風景に不安を煽られながらも、俺はなんとか記憶を手繰り寄せようとする。
「......っ!そうだ。俺は、この世界に転移して、それで......」
ヘルトと名乗る青年に人類の未来を託されたこと。
この世界でやるべきことを思い出した。
「笛惑の魔女、か」
名前からして性悪そうなこいつが原因で人類は負けたんだったな。
俺の役目は、この魔女を退職させること。
「とりあえず、この村で情報収集といくか」
別にこの世界に思い入れがあるわけじゃないが、せっかく異世界に来たのだ。
ゲーム感覚で楽しんでみるとしよう。
俺は湧き上がる高揚感のままに、あてもなく歩こうとすると。
「......?なんだ、これ」
突如として、目の前に淡い光の粒が浮かび上がってきた。
それらは徐々に列を成すと、意味ある形へと変貌していく。
『村の奥の森へ行き、聖剣を引き抜け』
「これ、日本語......か。いや、問題はそこじゃない」
淡い光が文字列を作り、意味のあるメッセージを訴えてくる。
聖剣を引き抜け、か。強そうな武器を入手するチャンスと捉えていいんだろうか。
「ゲームのチュートリアルみたいだが、安易に信じるのは危険だな」
俺は手ごろな位置にある家屋へと身を潜めると、周りを観察し始めた。
見たところ、こちらに向けられる視線は感じない。
この文字を見せ、行動を誘発させようとしている者がいるかと思ったのだが杞憂だったか。
「......警戒しすぎ、か?こんな平和そうな村で、しかも今やってきた人間を罠にかけようとするやつなんていないか」
俺の記憶が正しければ、過去に飛ばされた俺はこの世界に急に現れたことになる。
そんな俺をターゲットに悪意を向ける者などゼロに等しいだろう。
「俺も混乱してるな......はぁ。これも勇者の能力的なものかもしれないし、従ってみるか」
依然、光の文字が消える気配はない。
頭をポリポリと搔きながら、俺は村の奥に見える森へと歩を進めた。
村を歩く中で、少しわかったことがある。
ここはネオシュラーフバッハ村というらしい。村の門の前に割と新し目な看板が立っており、そう書いてあった。
ネオシュラーフバッハ村は、木と藁でできた家屋が数十軒立ち並ぶのどかな田舎村だ。
ざっと見た感じ、人口100人はいっていないだろう。
冒険者ギルドのような建物は見当たらない。
目を引く建造物と言ったら、十字架のシンボルがついた教会ぐらいだろうか。
村の外にある麦畑や牧場にちらほらと人影が見えるが、村の中ではあまり人影はない。
道行く人がほとんど女性だったので男子禁制の村かと肝を冷やしたが、小さい男児たちが遊んでいる光景が目に入り安堵する。
どうやら男たちは村の外で働いているようだ。
「ま、そのせいで視線が痛いわけだが。俺は別にニートじゃないぞ......っと。お、着いたな」
この時間帯に若い男が歩いてるのが珍しいのかいくつも視線を向けられながらも、なんとか森の入口へたどり着く。
さほど大きな村でもないので、十数分とかからなかった。
「......あれか」
数分森を彷徨い歩くと、すぐに目的の物が見えてきた。
いかにもな見た目をした錆びれた剣が、堂々と大木の元に埋まっている。
しかし、その剣以上に目を惹かれる存在があって。
「.....ほう」
剣が刺さっている大木の真横で、一つの影が舞っていた。
大木にぶらさげられた木製の的に向かって、華麗な剣戟を叩き込んでいる。
見る者を魅了する、水の様に流れる洗練された剣技。
カンカンっという小気味良い音と流麗な剣技に見とれ、しばしの間静観に徹した。
しばらくすると動きが遅くなっていき、やがて完全に止まった。
俺は機を見計らい、足音を立てて近づいていく。
「........!!誰!」
「待て、敵じゃない。ちょっと聞きたいことがあるだけだ」
振り返り、警戒するように剣をこちらへ向ける少女。
両手を上げて無害をアピールすると、少女は剣を降ろさないままに顎をしゃくってみせた。
とりあえず、話を聞いてはくれるようだ。
「そこに刺さってる剣って『聖剣』ってことでいいのか?」
「......それがなに?あなたには関係ないと思うけど」
「実はこの剣を抜いてくれって言われてな」
「......ああ、なるほどね」
少女は納得が言ったように頷くと、ゆっくりと剣を降ろした。
「あなたも聖剣を抜きに来た人......勇者候補ね。でも、残念。あなたが聖剣を抜くことはないわ」
「それはどうしてだ?」
「それはね......私がっ!!抜くからよ!!」
少女は森の小枝に止まっていた鳥が羽ばたくほどの声量で、大きな胸を逸らし決意表明をして見せた。




