↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
退職代行”モーヤダ”社員、異世界にて勇者を代行する~最強スキル『退職代行』の前では、誰もが無職となり果てる~  作者: 柳原ミツキ
第0章 ネオシュラーフバッハ村編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
38/39

待っていたもの⑤

「私ね、わかったの」

「なに......が」

愛おしい赤子見るような柔らかな顔つきで、母の片腕を撫でながら言葉を続ける。


「私が鍛えてきた理由がようやくわかったの。私がずっと剣を振り続けたのは、勇者になるためじゃなかった」

「何.......を」

何を、言い出すのだろう。こんなときに。

彼女の言葉を遮りたい衝動に駆られるも、それを防ぐ術はなく。


「私の剣は———魔人を駆逐するためにあったのよ」

「......ぁ」

「私はこれから先の人生。魔人を、魔族を殺し続けるために使う」

「ま、待て。待てって......ラディカール......」

「殺して、殺して殺して殺して......殺して。最後の一匹を屠るまで、私は剣を振り続ける」


その瞳には暗く、そして強い殺意が灯っており、その狂気に吸い込まれそうになった。

だが、それは俺の望む未来と違う。


「待てって言ってんだろ!その......そういう役は、俺がやるべきだ。勇者なんだから。だから、そのラディカールには......」

「戦ってほしくない。平和にぬくぬくと生きてほしいって?そう言いたいの?」

冷え切った表情を向けられひるみそうになるも、俺はその言葉を肯定する。


「そ、そうだ。もうラディカールの復讐は......その......」

「終わった、なんて言わせないわよ。それはあんた自身がよくわかっているはず」

俺の虚勢など、彼女の前ではあっけなく崩壊してしまう。

彼女の覚悟を超えるものなど、今の俺には持ち合わせていない。


「それでも......俺は、俺の大切な人に。女の子に、そんな生き方してほしくない。俺、もっと強くなるから、だから......」

「いい加減気づいてよ!!あなた一人じゃどうにもならないってわかんないの!?この光景を見ても!!まだ!!」

突然、風船が弾けたように、彼女の怒りが爆発した。

抑え込んでいたものが堰を切ったように放出される。


「あなたがいくら強くたって、今回みたいに複数の場所を襲われたら守れないじゃない!!なのに自分が何とかするなんて、無責任なこと言わないでよ!」

「......ぁ」

「勇者に理想を抱いてたのは私も一緒!だから、あなたを責めるようなことはしたくない!だけど......それでも......」

「ラディ......カール」

わなわなと体を震わせた彼女は、その先を口にせず門の先へ歩き出した。


「ま、待てよ。どこいくんだ」

「決まってるでしょ。殺しに行くのよ。手始めに、私のお母さんを殺した魔人をね」

「その体でか!?無茶だ、今行ったって、返り討ちに会うだけだろ!冷静になれよ、今日はとりあえず休.......」

「冷静!?冷静になれですって!?......勝てないから戦わないの!?それが、大切な人を殺した奴を野放しにしていい理由になるの!?」


血走った目を光らせ、肩を掴んだ俺の手を掴み返し、血がにじむほど爪を食い込ませるラディカール。

鋭い痛みが伝わってくるが、それ以上の痛みを、苦しみを彼女は抱えているのだ。


「......あんたはいいわよね。母親を殺されたわけじゃないんだから」

「......っ!」

体の芯まで冷え渡るような、冷たいまなざしが俺を射抜く。

今の彼女の心には殺意以外の感情が存在していないように思えた。


「......それでも、行かせるわけにはいかない。ラディカールを頼むって、言われてるからな」

亡きシュガーからの言伝。せめて、ラディカールだけでも守らなくては。

ピリッとした空気が張り詰め、炎の弾ける音だけが静かに響く。


そして、それは長くは続かなかった。

「......ふっ!」

「......っ!」

その静寂を破ったのは、またしてもラディカールの方だった。

重心を低くし、一瞬にして姿を消す。


そのまま背後に回り、俺の背に渾身の一撃を食らわす———ことはなく。


「がはっ......!」

彼女の拳が届くより早く、俺の肘が彼女の背中を直撃した。

ラディカールは苦しそうにうめきながら地面に横たわると、仰向けになりこちらを睨みつけてくる。


「......なによぉ、なんなのよぉ!こんな時くらい、勝たせてくれたっていいじゃないぃ......!!」

「......すまない。今のお前を、このまま行かせるわけには」

「あんたは!あんたは私から復讐することさえも奪うの!?......私の家族を奪っただけじゃ飽き足らず!!」

「......っ!!」


俺の行動が、シュガーを、村の皆を殺した。

いざ実際に現実を言葉にして突きつけられると、形容しがたい罪悪感に飲み込まれそうになる。

ぐるぐると後悔が巡り、頭が割れそうだ。


「.......ちっ!」

ラディカールは罰が悪そうに舌打ちすると、明後日の方を向く。

先ほどの言葉を後悔しているのかもしれない。


だが、それは事実だ。

俺の選択によりネオシュラーフバッハ村の住人が虐殺された事実は、紛れもない事実。

ラディカールだって、心の底ではそう思ってるに違いない。


「......あ」

そんな心の闇を切り裂くように、目の前に光の粒が出現しだした。

それは始めは数粒。だが、どんどん集まり、数えきれないほどに。


見覚えのある、光だ。

やがてそれらは意味を持つ文字列へと変貌し......


『アルスフェルトへ向かえ』


そのたった一文で、俺の今後の指針は固まってしまった。


「ちょっと、どこ行くのよ」

「たった今光の導きが現れた。俺は導きに従う。もう、こんな思いは御免だ。従っていれば後悔はしない」


最初からこうしておけばよかったのだ。

もう、俺の決断で俺に優しくしてくれた人が死ぬのはごめんだ。


「......そうね。私を見殺しにしててでも、あんたは北へ向かうべきだったわ」


どこまでも俺の心に穴をあけ、チクチクと蝕むラディカール。

それが無性に腹だたしくて、溜まっていた不満がこぼれ出た。


「......それを言うなら、ラディカールが討伐に向かわなければこんなことにはならなかったけどな」

「なっ......!!」


それを捨て台詞に、俺は門の先へ。

今なお燃え盛るネオシュラーフバッハ村を後にする。


頭がごちゃごちゃして何も考えられない。

とにかく、今は導きに従おう。


俺はアルスフェルトへ向けて歩き出した。

......背後から、凍えるような視線を感じるままに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。