笛惑の魔女
ぽつぽつと光が灯る村に聳え立つ、一番大きな建物の屋根の上。
お尻に硬い感触を味わいながら、私は遠くを見ていた。
だだっ広い草原を暗闇の中、ゆっくりと進む小さな影が二つ。
どうやら上手くいったようだ。
「無事アルスフェルトへ向かったようですね。勇者と......あれはあの時の娘か」
隣から渋い男の声が聞こえた。
深くフードを被り、無造作に生やした髭がちらちらと見える。
手には双眼鏡を持ち、しっかりと本人確認しているようだ。
「少し酷なことをしたとは思いますが、それもまた世界の均衡のため。今度あったらよしよししてあげましょう」
「よしよしって、あなたは甘すぎます。時には残酷な決断も必要......」
「ラート」
ぴしゃりと、男の名を呼んで口を閉ざさせる。
「いいですか?この世の誰一人、傷ついて当然の生物など存在しません。どんな悪人だろうと、どんな聖人だろうと、元をたどればただの赤子。彼彼女らを渦巻く環境が、彼らの善悪を決めるのです」
「お言葉ですが、環境によらない部分もあるかと。スラム街にも聖人は生まれるときは生まれますし。それに、一概に善悪を語るのは少々早計では......」
「ラート」
再び、無理矢理口を閉ざさせる。
いつからこんなひねくれた子に育ったのかしら。
「私が言いたいのは、どんな子だろうと無下に扱っていい子はいないということです。常日頃から言っているでしょう?経験が人を形作るのです。だからこそ、私たちが子供達を導かなくては。......もちろん、ラート。あなたもですよ?」
「私まで子供扱いですか.....あなたが悠久の時を生きているのは存じていますが、一体どれほど生きてらっしゃるので?」
「あら、女性に年を訪ねるのは失礼ですよ?これはお仕置きが必要のようですね」
「勘弁してください......」
冗談ですと肩を優しく叩くと、お尻についた土ぼこりを払って立ち上がった。
「おーい!そんなとこにいたら危ないですよ~!」
下から、聖職者の装いをした女性に声をかけられる。
確かに、いつまでもここにいたら目立ってしまいますね。
「ラート、降りますよ。ここの酒場のワインは絶品なんです」
「おおっ、そりゃあいい。奢りですか?」
「ふふっ、あなたも言うようになりましたね」
もう40を超えているというのに、たまに見せる無邪気な子供のような笑顔が愛おしい。
私はラートの手をとると、お姫様だっこの姿勢を取り、飛び降りた。
「え、飛び降りるんですか!?まじですかって、うおわあああああああ!!!」
小気味良い叫び声とともに夜の街を落下する。
この浮遊感がたまらなく、口元をゆるませながら呟いた。
「百年早いですよ。———この私、『笛惑の魔女』に奢られようだなんて、ね」
ここまで読んでくださりありがとうございます!0章は完結です。
ここからが面白いこの作品を、どうかこれからもよろしくお願い致します!
一章はまだ書ききっていないので投稿は不定期になるかもです。ブクマしてくださるとすぐ続きが読めると思うのでぜひ!
い~っぱいの星をつけてください!
一人でも多くの人に面白いと思ってもらえるように、これからも書き続けていく所存です!
ここまで読んでくれた皆!愛してるぞ!




