待っていたもの②
「......ぁ。ラディ......カール」
どれだけ放心していたのだろう。
すでに彼女は燃え盛る村の門前にいた。
「ま...て」
頭が状況においてついていないが、何か異常なことが起こったことは確かだ。
彼女を一人で行かせるわけにはいかない。
「......っ!」
なんとか村の前まで足を進めるも、すさまじい熱気に思わず顔をしかめた。
肺を焼き焦がすほどの熱だ。
呼吸すら苦しく、肌はひりひりと焼け付いている。
熱気だけじゃない。
生臭さと酸っぱさの入り混じった、死んだトカゲのような臭いが鼻の奥にこびりつく。
俺はそれらから逃げるように袖で顔を覆った。
そのまま火の海をなんとか進む。
勇者の力があるとはいえ、あまり熱に耐性はないようだ。
「だれか!だれかいないか!!」
ラディカールの姿を探しつつ、村人がいないか周囲を見渡す。
返ってくるのは木材の崩れ落ちる音と、村を焼き焦がす火の音だけだ。
しかし、まだ希望はある。
どこか......地下のような避難できる場所にいるのかもしれない。
事実、死体をまだ一度も見ていない。
「だれかー!!......ラデイカール!」
しばらく進むと、村の広場だったところにラデイカールの姿を発見した。
何か黒い塊の前で座り込み、微動だにしないでいる。
「ラディカール!おいラデイカール!......返事しろよ。一体そこでなにやってんだ」
近づき、彼女の肩に手を置く。
ラデイカールの瞳を覗き込むも、焦点があっておらず、虚空を見つめていた。
その視線の先に俺も目を向ける。
黒い塊は山の様に積み重なった何かの集合体の様だ。
その一部をなんとなしに手にとると......
「......ひっ、うああああ!!」
嫌悪感から反射的に手を振り、黒塊を地面に落としてしまった。
ぱすっという軽い音とともに塵となって消えていく黒塊。
それはとても軽く、細長い形状をしていた。
「う......おぇ」
あまりに残酷な光景と、死臭によりこみ上げた胃液をぶちまける。
ズキズキと痛む頭を押さえ、黒塊の山を凝視した。
確認...しなくては。誰が、死んで、生きて、死んで、死んで死んで死んで死んで。
「......なんだ」
山積みになった死体には、首から上がない。
恐る恐る触れるも、軽い音とともに空に散って行ってしまう。
「誰......なんだよぉ」
何か識別する物はないかと乱暴に漁る。
崩れて、落ちて、散って、燃えて、挟まって、吸って、握って、ちぎって.....
「......!」
どれだけ探しただろうか。
山の奥の方で光るものを見つけた。
死体の山に片腕を突っ込んで、硬い感触を確かめ引っこ抜く。
確かめるのが怖いような、見たいような。
相反する気持ちの狭間で揺れながら『それ』を目に映す。
『それ』は道端に落とせば見失いそうになるほど小さく、黒焦げになった片腕の薬指に通されていて。
「......ぁぁ」
紅色に輝く宝石が、はめられていた。
ぽっかりと胸に穴が空いたような喪失感に見舞われていると、真横で一つの影が立ち上がった。
我に返る。そうだ、これを、彼女が見たらどうなって......
「ラディ......ぁ」
彼女は一言も漏らすことなく、ある場所を目指して歩き始めた。
足取りはふらついているものの、目的地ははっきりとわかっているようだ。
......どこへ向かうかなど、愚問だろう。
「俺、は......」
地下だ。地下にきっと、生き残りがいるはずだ。
シュガーだって言ってたじゃないか。前回はそうやって生き延びたって。
身体を焼き焦がしそうな熱など、今は不思議と感じなかった。
ただひたすらにアラートを鳴らす脳みそを黙らせながら、村の地下室を探す。
目星はついている。
たいてい、重要な地下室というのは。
「村長の家か、教会だ」




