帰り道①
風に草木が揺れ、夕日が差し込む夕暮れ時。
「もうちょっとゆっくり歩いてよ。あんまり揺らすと気分が悪くなるわ」
背中と両腕に重みを感じながら、背後からの苦情を聞き流す。
風に靡く赤髪が頬をなで、くすぐったさから顔を振った。
視界に紅色の空が映りこみ、思わず目を細める。
いい景色だな。
ふと、甘い香りが鼻腔を刺激した。
女性の体からはラクトンという成分が出るらしいのだが、それが女性からいい匂いがする原因の一つだと言われている。
あとは柔軟剤や香水の香り、シャンプーの香りなどが混ざっているそうな。
この世界に香水の類があるかはわからないが、ラディカールは使っているのだろうか。
ラディカールが早朝に香水を振りかけ外出する絵面を想像するも、思わず苦笑してしまう。
失礼だが、シュールな光景だと言わざるを得ない。
いや、それはそれでありなのか?奥深いな。
「ねえ、今あんたすごく失礼なこと考えてない?」
「全く。ラディカールは良い匂いだなと思っただけだ」
「はぁ!?ちょっ、ばか!嗅ぐな......!!」
俺におんぶされているラディカールは、俺の後頭部を押さえつけて距離を放そうとする。
「おい、いいのか?ラディカールが動けないっていうからおんぶしてやってるんだぞ?俺としては別にここで置いて帰ってもいいんだからな?」
「うぐっ......そ、そうね......すごく嫌だけど、我慢するわ。でもなるべく呼吸は最小限にして」
消え入るような声で、恥ずかし気に体臭を気にするラディカール。
きっと今振り向けば、赤面した彼女のご尊顔が拝めることだろう。
......まぁ振り返ったら、そのまま首を180度回されそうなのでやめておくが。
そんな他愛もない話をしながら、草原を一歩一歩ゆっくり歩く。
背中から伝わる体温がどこか心地よく感じ、暖かな気持ちに包まれる。
隻眼の魔人との戦いの後、俺達はネオシュラーフバッハ村へと帰り始めていた。
「......で?」
「で、とは?」
「さっきの戦いのことに決まってるでしょ。どこまでが作戦なわけ?」
どこまで、か。
「正直ラディカールと共闘するとこまでだよ。最後のアレは完全に予定外だ」
「ちょっと。共闘じゃなくて1対1が重なっただけよ。でも......そう、だったのね」
そこはどうしても譲れないらしい。
そんなに俺の味方をしたくないのだろうか。
「......ごめん」
「何がだ?」
「えっと...その...途中でバテちゃったから」
申し訳なさそうな声色で、俺の毛をいじりながら謝罪をしてきた。
「気にするな。むしろ、よく戦ってくれたよ。最後だってラディカールが俺の名前を呼んでくれて、存在を主張してくれたからポーションの存在を思い出したんだ。十分よくやってくれたよ」
「そう、かしら」
「そうだ。前も言ったが、もっと自分に自信を持て。お前の努力は、無駄なんかじゃなかったぞ」
「.......」
トドメの一撃は俺が食らわせたが、総合的なダメージで言えばラディカールの方が与えている。
実質隻眼の魔人を倒したのはラディカールと言っていいだろう。
「親父さんの仇、取れてよかったな。改めてお疲れ様」
「......っ!!......うん」
くぐもった声が返ってきた。
彼女の胸中は察することしかできないが、きっと色んな感情が渦巻いていることだろう。
髪の毛を引っ張る力が強まり少し痛いが、今日くらいは許してやろうじゃないか。




