退職代行③
一週間後。
「おっす兄弟!調子はどうだ?この部屋、気に入ってくれたか?」
「ああ、想像以上にいい所だ。家具も色々そろっているし、何より広い」
そりゃよかったと鼻をこするジョーンを尻目に、俺は台所へ。
棚の奥からコーヒー豆を取り出すと、やかんに水を入れて火にかけた。
ジョーンをソファに座らせると、俺も正面に座る。
「あれからどうだ?仕事は見つかったか?」
「ああ!それなんだが、親父の仕事を継ぐことになってよぉ、最近大忙しでな!」
声のトーンからもわかるが、ジョーンはとても上機嫌だ。再就職がうまくいったようで何よりである。
その後もたわいもない雑談をしていると、チャイムが鳴った。
「すみませーん!退職代行さんであってますか~!」
扉の外から女性の声が聞こえる。
ジョーンは俺の顔を見つめると、ニヤリと顔を歪ませた。
「ずいぶん繁盛してんじゃねえか。まっ、兄弟のスキルがあれば当然っちゃ当然なのかもしれねえが」
「......すまない。見ての通り来客だ。なんなら、少し待っててくれれば」
「いいっていいって!商売の邪魔する気はねーよ。元気な顔が見れただけでも十分ってもんだ。じゃあな兄弟!また会おうぜ!」
そういうと、ジョーンはソファを立ち部屋から出ていった。
入れ替わるように、眼鏡をかけた女性が入ってくる。
「あ、あのぉ......お邪魔します。すみません、今大丈夫でしたか?」
「もちろん問題ないです。退職代行”モーヤダ”が依頼を承ります」
俺は湧いたお湯でコーヒーを入れると、いつものように仕事を開始した。
そう。俺は異世界に来て尚、退職代行の仕事を始めたのだ。
せっかくのファンタジー世界で何やってんだと怒られそうだが、スキルがニッチすぎるためやむを得なかった。
お金がたまれば装備を固めてダンジョンを探索などしてみたいが、しばらく先になりそうだな。
俺は依頼を聞き届けると、いつものように。
「リザイン」
「......あ。......!!ほ、ほんとだ!消えてる!!噂は本当だったんですね!本当にありがとうございます!!」
「いえいえ、無事に退職できたようで何よりです。料金は3万ゴールドとなります」
「はいっ!いや~こんなに安く退職できるなんて.....!!あなたは神様です!」
女性は笑顔でぴったり三万ゴールド支払うと、軽い足取りで帰っていった。
「ふぅ......」
俺は深く息を吐くと、ソファに身をあずけた。
ここ数日ひっきりなしに客が訪れたため、さすがに疲れが出てきた。
スキルの使用回数に上限はなさそうだが、何度も使うと流石に疲れるな。
「でも、店が繁盛するのは良いことだ」
俺はすでに慣れ親しんだオフィスを見渡し、思わず顔をほころばせた。
ジョーンに依頼した内容。それは、穴場の物件を借りられないかという相談だった。
不動産で働いていた彼のツテにより、ビルの一室を格安で借りることに成功。
そして店を開くことに。住所兼職場である。
幸いジョーンが噂を広めてくれたのか、ここ一週間はひっきりなしに客が訪れた。
おかげで生活には困っておらず、この世界では若干高いコーヒーなどの嗜好品を買う余裕もある。
「......今更だが、この街の住民は大丈夫なのか?いくらなんでも退職希望者が多すぎる気が」
だがまぁ、異世界だしそんなものなのかもしれない。
とりあえず生計は立てられてるわけだし、彼には感謝してもしきれないな。
ジョーンに感謝しつつ時計を見ると、いつの間にか午後7時をまわっていた。
閉店時間だ。
そろそろ店をしまわなければと席を立つと、再びチャイムが鳴り響く。
「すみまーん、まだやってますか?」
そう言ってドアから半身を乗り出したのは白髪の青年。
慎重のわりに幼い顔をしており、腰には立派な剣を携えていた。
俺は若干言いにくさを感じつつも、残酷な事実を述べる。
「今日はもう終わったよ」
「ええ!?オープンって書いてあるのに!?」
悲痛な青年の叫び声が、部屋に木霊した。




