隻眼の魔人⑦
「うりゃああああああ!!」
パキッという子気味いい音とともに、胸部の傷から破片が弾ける。
何本もヒビの走ったその場所は、自らが弱点だと言わんばかりの存在感を放っていた。
「ちょこまかト......!!!いい加減うぜえんだヨ、くたばれヤ!!」
魔人に肉薄したラディカールを襲うように、丸太の様な腕が伸びる。
彼女はそれをすれすれに潜り抜け、距離を確保。
再度接近せんとする彼女の先に、無数の煙の槍が襲いかかり......
「.....っ!!」
「がァ...っ、てめエ......ッ!」
降りかかる火の粉を払うように、黒煙を聖剣で切り裂き、軌道を逸らし、叩き折る。
「はぁ、はぁ......安心しろ。道は作る......!もう一回行くぞ!」
「し、指示すんな...っ!はぁっ...はぁっ...あ、あと......お礼は.....言わないから!」
背後から威勢のいい声が聞こえてきて、自然と口角が持ち上がる。
戦闘開始から、すでに三十分経過していた。
俺が隙を作り、ラディカールがヒビに剣撃を叩き込む作戦。
今のところ大きな被弾もなく、順調に戦いを進めることができている。
彼女の、小さなヒビに何度も正確に打ち込める技量と、俺の作った隙を逃さない洞察力。
そして長時間におよぶ戦闘に耐えうるスタミナが、作戦の実行を可能としていた。
「はぁ、はぁ......!!来るわよ!!」
「......しっ!!」
容赦なく迫りくる煙の槍をいなし、前進。魔人の元への道を切り開く。
汗が滴り落ちて視界が霞むも、それを拭う時間はない。
毎秒のように迫りくる変黒煙を打ち漏らすことなく叩き斬り.....
「.....っぁ!!ラディカール!」
「せあああああああ!!」
「やらせねェヨ!!」
胸部へ無傷でラディカールを送り届けるも、魔人は両腕で隠すように傷を覆ってしまう。
だが......
「ふっ!!!」
両腕の脇、肘裏などの関節に剣を滑らせ、筋を絶つ。
「ガァぁぁ!!!」
無理矢理腕を下がらせ、魔人の胸部がガラ空きに。
その一瞬を、彼女は逃さない。
「やああああああああああ!!!」
寸分違わぬ赤い剣筋が、小さなヒビ割れに叩き込まれた。
「......っ!このやろウ!!まいどまいど同じところヲ......」
さすがにまずいと思ったのか、魔人の表情に焦りが見えた。
胸部に広がるヒビはすでに耐久値の限界だ。
このまま攻撃を続ければ勝利は確実だろう。
「.....はぁ、はぁ。ラディカール、まだいけるか?あと......一回......だ。根性見せろよ」
「だ、誰にいっ......てん......の。はぁ、はぁ......こんくらい余裕......っ!」
ちらと視線を送り発破をかけると、疲労に顔を歪めたラディカールが鼻をならす。
鉛の様に足が重く、肺が痛い。
喉が張り付き、口内は血の味が滲んでいた。
おそらく俺と同等、いや、それ以上にラディカ―ルは疲れている。
それを見せまいとする気概は流石としか言いようがないな。
このまま長引けば敗色が濃厚となるが、限界なのはあちらも同じ。
俺の見立てではあと一回だ。
あと一回叩き込めば、勝てる。
呼吸を整え、再び攻撃の姿勢を作る。
「......ふぅ。よし、行くぞ。これで最後だ。.......ラディカール?」
合図を送るも、背後から足音が聞こえない。
違和感を感じ、背後に視線を送ると......
「っ!?」
がくっと、彼女は膝をついていた。
「なん...で、こんなときに......!!」
驚愕する彼女の膝は、小刻みに震えていた。
原因は、疲労。
当然だ。勇者の動きに食らいつきながら、スキル持ちの魔人を相手に戦い続けていたのだ。
一度もミスの許せない戦闘に、予想より早く限界がきた。
「くそっ......!あと一回くらいなら俺でもいけるか......?」
予想外の状況に陥り、嫌な汗が頬を伝う。
焦燥感に追い込まれるように、食い入るように魔人の傷に視線を向けた。
傷は深くなっているとはいえ、ヒビは時間経過で少しずつ修復される。
こちらの攻撃が上回っているだけだ。
俺が一人で戦闘を行った場合、一度でもミスれば勝利は一手ずつ遠のいてくだろう。
「おいおいおイ!随分辛そうだなァ!?」
「っ!!!」
こちらの状況を知り優勢と見たか、魔人は変黒煙をこれまで以上に出現させ。
「こいつっ......!!」
膝をつくラディカール目掛けて、執拗なまでの攻撃を繰り出してきた。
背後に彼女を庇いながら、硬い黒煙を弾く、弾く。
剣を振るという慣れない動作の連続による身体的消耗。
そして、彼女の方に煙がいかないよう気配ることによる精神的消耗。
———限界が来たのは、こちらの方だった。
「がは......っ!!!」
「ワタル......っ!!」
さばき洩らした一本が腹部に突き刺さり、耐えがたい苦痛が全身を駆け巡る。
勇者になったことで耐久力は上がっているものの、あまりの衝撃に頭が真っ白に染まった。




