隻眼の魔人②
屋根を伝い、建物から建物へ飛び移る。
背後では轟音とともに家屋が崩れ落ち、足がすくむような低い声が聞こえてきた。
「ほらほらほらほら、逃げてばっかじゃつまんねえゾォ?かかってこいよ人間!!!」
「はぁっ...はぁっ...うっさい死ね!!」
目に入った建物に入り、裏口へ。
そのまま細い道を駆け抜けて隣の建物へ滑り込む。
「はぁ、はぁ」
息を殺し、気配を消す。
外からは木材石材関係なしに破壊される音が聞こえてきて、改めて魔人のパワーに背筋が凍る。
幸い、私はこの村の地理に富んでいる。
そういう意味では多少有利ではあるが。
「見つけたぞぉ人間......!!鬼ごっこは終わりだナァ!!」
「......っ、くっ!」
強引に屋根を引き裂き、顔を表す魔人。
私はあらかじめ想定していたルートを辿り、室内をジグザグに走り回る。
天井から降り注ぐ木片の投擲を躱しきると、テーブル下を滑り抜け、壁に掛かっていた瓶を手に取り投げた。
「......がァっ!!てめ、なんてもん投げやがる......ッ!」
狙い通り顔面に直撃した瓶の中身が飛び散り、魔人は苦しそうに顔をこすった。
中身は安酒だ。
この村で作られる酒は濃度が高く、水で割って飲むのが普通であったが、今回は特別。
瞬時に揮発するアルコールで目が染みるだろう。
それに天井はもろい。不安定な足場で無作為に動けば......
「ッ!!!うガァ!!!」
魔人はその体重も相まってか、崩れる足場とともに床へと落下した。
受け身も取れなかったうえに、何本か大きな木片も刺さっている。
なので多少のダメージを期待したが......そうはいかないのが魔人という存在。
魔人はすぐに起き上がると、染みる目を擦って視界を確保しようとしていた。
弱音を吐いている場合じゃない。
目が見えていないこの隙に。
「動けっ、私っ!!!」
痛いほど早く脈打つ心臓を感じながらも、怒りに身を任せて前進した。
狙うは心臓ただ一点。
「っ!!!!」
思い切り体を捻り、自前の剣を胸部に斬りつける。
「ガァッ!!!痛ッ!てめえ、人間のくせに生意気なんだヨォッ!!」
顔を抑えながらも、魔人は乱雑に大剣を振り回した。
私は頭から血の気が引く感覚に襲われながらも、動きをよく見て回避回避回避。
隙を見ては斬りつけ、回避。斬りつけ、回避。
何度も何度も胸部一点にヒットアンドアウェイを繰り返し、踊るように剣戟をぶち込む。
「いい加減二ッ!しロッ!!」
耐え切れなくなった魔人は思い切り床を踏みしめると、飛ぶように空に舞い上がった。
パラパラと木片の落ちる天井を見上げると、天井にぶらさがる魔人は充血した目をギロリと向け。
「遊んでやる予定だったガ、気が変わっタ。楽に死ねると思うなヨ」
「それ、やられる敵役にぴったりの台詞よね。ていうか、ずっと思ってたんだけど......あんた思ったより強くないわね。ビビって損しちゃった」
「殺ス!!」」
「やってみなさいよザーコ!」
私の煽りを皮切りに、たがいに接近。各々の剣が衝突する。
「はあっっ!!」
「ふんッ!」
金属と金属がぶつかり合う音。
右腕にジンジンと痺れる感覚が広がっていく。
でも、ひるまない。思ったよりもパワーに差がない。
「せいっ!」
私は縦横無尽に駆け回ると、地の利を生かして剣戟を浴びせた。
魔人の剣は大きいが、その分室内では自由が利かない。
家屋の柱などに引っかかり、私まで届かない。その隙をついてダメージを与えていく。
「ガァッ!くそガッ!」
痺れを切らした魔人は剣を手放すと、肉薄していた私の胴体目掛けて丸太の様な腕を振り回してきた。
「うラァァッ!!!」
「きゃっ!!」
とっさに剣で受けるも、衝撃は殺しきれない。
勢いのまま吹き飛ばされ、家屋のドアに激突した。
「がっ......」
背中に大きな衝撃が襲い、全身に痺れが襲ってくる。
ゴホゴホとせき込んでいると、魔人がゆっくりと近づいてくるのが見えた。
焦燥感に駆られ、痺れを訴える体を無視して立ちあがる。
醜悪な化け物を前に、深呼吸。
ドアを蹴破って外へ出た。
剣を手放した魔人相手では、狭い室内での戦闘は不利と判断したためだ。
魔人の位置を確認しようと振り向くと、そこには......
天井からジャンプした魔人が肉薄していた。
「ぶっ潰れロ!!」
「ぐっっ!!!!」
反射的に剣を前にするも間に合わない。
暴力的なまでの質量が胸当てに直撃し、
「がっ、ぐぁ.....」
脳が震えるほどの衝撃とともに、後方へ矢のごとく吹き飛ばされる。
何度も地面にバウンドするも、減速しきらず石の城壁に激突。
肺から空気を無理矢理押し出される感覚に見舞われ、意識が一瞬飛びかける。
「.....あ...が......」
「あ~ア、もうおしまいかヨ。ほら、もう一回言ってくレ。俺がなんだっテ?」
上機嫌に鼻を鳴らした魔人が目の前までやってきて、その醜悪な顔を嗜虐的に歪めた。




