消えたラディカール②
「......さてと、どうするかな」
もらった装備に着替えながら、今後のことを考える。
俺が取れる選択肢は二つに一つだ。
光の文字に従ってアルスフェルトへ向かうか、ラディカールの様子を見に旧シュラーフバッハ村へ行くか。
非常に難しい問題だ。
決断にあたっては、この光の文字による影響を考慮する必要がある。
この光の文字は、今のところメリットしか与えていない。
しかし、シュガーにも言った通り文字に逆らうとペナルティが発生する可能性がある。
極論ラディカールが死ぬ以上の不幸が襲うかもしれない。
だが、これは憶測の域をでない。結局のところ今ある情報で後悔のない選択を取るしかないのだ。
顎に手を当てて考える。もっとも、後悔しない選択肢を。
———これから先光の文字に従い続けるとしたら、それは俺の第二の人生と言えるのだろうか?
俺はこの世界に連れてこられた以上、この世界で生きていくしかない。
だが、光の文字に行動を制限、強制されるなど俺に自由がないではないか。
それに、きっとこの先文字に逆らうことがあれば、ラディカールを見捨てたことを後悔する時がきっとくる。
魔人の強さはよくわからないが、魔王軍幹部とかじゃないんだし、負けることはないだろう。
俺の中で、揺らいでいた天秤が完全に片方に傾いた。
勢いよく扉を開く。驚きを露わにする群衆。俺の口から発されるであろう言葉に身を硬くするシュガー。
大勢の村人に囲まれながら、俺は深呼吸をすると。
「俺は、今から皆の故郷旧シュラーフバッハ村へ向かい、ラディカールを連れてくる。勇者として...いや、大切な仲間のため!俺は魔人を討伐し、勇者にふさわしい人間になるための第一歩を踏み出そうと思う。皆、安心して待っていてくれ!」
俺の宣言の後に訪れる静寂。しかし、それは長くは続かなかった。
「おおおおおおおおお!!!」
「信じてたぜ勇者様!」
「お願いします!勇者様!どうか、どうかご武運を!!」
熱い声援が、熱波のように吹き付けられる。
現世で退職代行をしていたころでは考えられないほどの期待を、俺は今一心に受けている。
一人の男が前に出てきて、俺の背に回ると強い衝撃が襲ってきた。
「ラディカールは俺たちの家族みてえな子なんだ!少しあぶなっかしいとこもあるが、それもひっくるめて大切に思ってる!期待してるぜ、勇者様!」
遅れて、背中を叩かれたのだと理解する。
その男に続くように、わらわらと村人が寄ってきた。
「魔人を倒したとなれば、現勇者様の名にも箔が付きます。世界を救う希望の象徴として、頑張ってきてください」
ユングが優しく背中を押してきた。
「できたらでいいんだけどね?できたらでいいんだけど~、魔人の角とか持って帰ってきてくれなぁい?それ、売ったらとんでもない額になるから。家でもなんでも買えちゃうわ」
ミレーがひっそり耳打ちし、くすぐるように背をなぞってきた。
「どうか、生きて帰ってきてください。あなたの安全が、我々にとっては最優先ですので。......あとであの銭ゲバ女は始末しておきますので、お気になさらず。ご自身の安全を第一に戦ってきてください」
トンっと、フランが肩に手を乗せてきた。
その後も、何人も何人も元気づけるように背を叩いてきた。
中には打算的なものが混じっていたが、ほとんどは激励の言葉を述べてきた。
今までに感じたことのない感情に襲われるが、不思議と悪い気はしない。
むしろ、心地よかった。自分の選択が肯定されている気がして。
皆に応援されるまま門の前まで歩くと、俺の一歩後ろを歩く最後の一人はシュガーだった。
「脅すような真似をしたもの。嫌われていて当然。それは理解しているわぁ。でもね、これだけは嘘でも策略でもない。本心からの言葉よ。......ラーちゃんを、よろしくお願いします」
シュガーは背を叩くことはなく、深々と頭を下げた。
俺は顔を上げるように言うと、軽く頷いて見せる。
これで、十分彼女には伝わっただろう。
俺は皆の目を見ると、一言述べた。
「皆の願いは聞き届けた。勇者の名にかけて皆の願いは、復讐は、俺が叶える」
翻り、西門の先を見据える。ラディカールも魔人も、そこにいる。
皆の声援を背に受け、俺は大地を思い切り蹴った。




