聖騎士襲来④
俺はもう一度剣を振りかざすと、今度は剣を鞘にしまった。
すると、後方から弱弱しい声が聞こえてきた。
「お、お姉ちゃんをいじめないで!」
「.......え」
瞬間、観衆の声が静まり返った。
大きく目を見開き、その声の主を探すシェン。
それは年端も行かない少年であり、体を震わせながらもこの場の空気に意を唱えていた。
「なんで皆お姉ちゃんをいじめるの!お姉ちゃんは何にも悪いことしてないのに!!」
小さく異を唱える少年に、一気に視線が集まっていく。
「いや、それはだなぁ.....お前さんだって知ってるだろう?シュトゥーア正教会は俺達にとって仇みたいなもんなんだ。だから......」
「でもお姉ちゃんはお姉ちゃんでしょ!悪いのはそのシュトゥーアとかいう奴らだよ!僕知ってるもん!お姉ちゃんはとっても優しいんだって。今日の朝だって、転んで怪我した僕を優しく手当してくれたんだから!」
小さき少年の主張に、狼狽える大人たち。
怒りの矛先を向けるべきは誰なのか、少しづつ疑問が広がっていく。
「で、でもよぉ......シュトゥーア教徒のせいで俺の親父は......」
「だけど、あの人自身は悪くない......のよね?」
「た、確かに......シェンの姉ちゃんは儂の落とし物届けてくれたしのぉ......」
「美人だし優しいシェンさんを悪くいうのは俺が許さねえぞ!美人だし!」
観衆の意思が統合されていき、いつの間にかシェンに対する悪意は息を潜め始めていた。
「み、みんな.....!で、でも私がシュトゥーア正教徒なのは事実だし、私の仲間がみんなにひどいことしたのも事実だから.....それに!」
「シェン」
「......!!」
俯きながら一人自責の念に駆られる彼女の肩にそっと手を置き、周りを見渡すよう促す。
「見てみろよ。今この場に、シェンを嫌う奴が一人でもいるようにみえるか?」
「え........」
恐る恐る顔を上げ、周囲を囲む民衆の顔を確認すると、両の目から水滴を流し始めた。
「シェンは悪くない。全ての元凶はシュトゥーア正教会だ。心優しいシェンが勘違いされるのは......俺もつらい。そうだよな、皆!」
「おおおおおお!!」
俺の一言により、周囲がシェンを歓迎するかのように手を挙げる。
シュトゥーアこそが悪なのだと、妄信させる。
「み、みんな......!!」
「ってわけだ。皆の誤解も解けたわけだし、そろそろ再戦といくか?それとも......もう戦える気力は残ってないか?」
「......ぐすっ......そ、そんなわけないでしょ.....!うん!もう大丈夫。シュトゥーア正教会とか、もうどうでもいい。一人の騎士として、人類を守るために君を連れていくよ。覚悟してね!」
吹っ切れたように笑い、ごしごしと瞼をこする。
「お手柔らかに頼むよ。......ん」
「......!そうだね。しとこっか、握手」
互いを認め合い、一人の戦士として仕切り直すための儀式。けじめのようなものだと受け取ったのだろう。
差し出した俺の右手を迷いなく握りこんできた。
「さぁ、決着をつけようか。———リザイン」
「ええ、決着、を......!?」
彼女は突如体をぐらつかせたかと思うと、ふらふらと地面にへたりこんでしまった。
「どうした?具合でも悪くなったか?」
「.....だい、じょうぶ。なんだか腰が抜けちゃって。......ははっ、情けないとこ見せちゃったね。もう、大丈夫。うん、大丈夫だから」
両足を震わせ、なんとか立ち上がるシェン。
その顔に映る動揺は隠せておらず、額にはあぶら汗が滲んでいる。
「どうする?体調が悪いのならまた後でもいいが」
「ぜんぜん、平気だよ。それに、今じゃないとだめなんだ。私を認めてくれた、みんなの前でかっこ悪いとこ見せられないから、ね!」
よろよろと距離を取り、向き合って剣を構えるシェン。
「そうだな。悪いが俺も本気でいく。あとで文句言うなよ?」
「.....っ、もち、ろん!あなたを鍛えてこの世界を救うことが、私の.....!!」
剣と剣がぶつかり合い、火花を散らす。
......この先の結果など、語るまでもないだろう。




