聖騎士襲来②
大きな十字架のシンボルが天辺についた建物を視界にとらえる。
ケーニッヒ教徒の巣食うこの教会に、俺は足を運んでいた。
「ようこそいらっしゃいました勇者様。入信ですか?相談ですか?悩める子羊を導くことがもまた使命。どうぞ私の胸で泣いてください!わかっていますよ?勇者となったばかりだというのに、いきなり聖騎士と。しかも序列7位のお方と決闘だなんて、怖くて怖くて仕方ないのですね?さぁ、私の胸にいらっしゃい。お姉さんがギュッとハグしてあげますから!」
大きな扉を開いた瞬間、金髪のケーニッヒ教徒が開口一番よくわからないことを言い出してきた。
ブルーの瞳を妖しく光らせて、両手を広げて待っている。
俺はここに来たことを軽く後悔しそうになりながら、なんとか気を取り直すと。
「別に怖くも泣きたくもなっていないんだが......って、フランさんじゃないか。何やってるんだこんなところで」
「強がっちゃってまぁ。遠慮しなくていいのですよ?......というか、その質問はどういう意味でしょうか。ここの教会の司祭、つまりはトップである私がいるのは当然なのですが。私の献身的な働きにより、この村が回っているといっても過言ではないのですよ?」
腰に手を当て、不満そうに口を尖らせるフラン。
村人の話によると普段は遊び惚けて仕事など碌にしない自由人と聞いていたのだが、本人曰く真面目に働いているらしい。
「そうか。先ほど宿屋の窓に張り付いて聞き耳を立てていたのはフランさんかと思ってたが、人違いだったか」
「!?」
「まさか仕事をさぼって散歩してたら珍しい客が見えたので後を追って盗聴していた、とか。そんなこと司祭がするわけないもんな」
「.....!?!?そ、そうですよ~?人違い、人違いです。人違いに違いないのですが......えっと。ちょっと用事を思い出したので失礼しますね?ご用件ならユングにお話しくださいませ。それでは勇者様に神のご加護があらんことを~」
俺の指摘にビクりと体を震わせると、そそくさと奥の部屋へ消えていった。
なんてわかりやすい人なのだろう。
カマをかけてみただけなのだが俺の予想は当たっていたらしい。
というか、俺達が決闘することを知ってる時点でその場にいたのは確定なわけだが。
フランに司祭を任せて大丈夫なのかと心配していると、右手の方から声がかかった。
「あっ、勇者様!おはようございます。今日はどういったご用件で?」
栗色の髪に大きく丸い瞳。
人懐っこい印象を受けるこの少年は、助祭のユングだ。
「おはようユング。フランから聞いてるかもしれないが、シェンと決闘することになった。そこで少し教えてほしいんだが.....シュトゥーア正教会について何か知らないか?」
「あはは、フランさんの言っていたことは本当だったんですね。......シュトゥーア正教会、ですか。シェンさんは悪い人ではないんですが......実は正教会は最近黒い噂が絶えず、評判はいいとは言えません。正直、腫れもの扱いです」
......ほう?
「なるほど。じゃあ村人たちは、シェンのことは」
「あまりよくは思ってないと思います。特にここの人たちはシュトゥーア正教会と因縁がありますからね」
因縁か。
これは使えそうな要素だ。宿での異様な視線と言い、調べてみる価値はありそうだな。
「ありがとう。ついでに聞くが、シェンの職業は聖騎士でいいのか?」
「厳密には違いますね。アルトパラディンという、世界で10人しかいない特別な職業です。成るのは難しいですが、その恩恵は絶大。身体能力や魔力量、その他もろもろのステータスが大幅に上昇します。勇者様も記憶に新しいのではないですか?」
確かに、聖剣を抜いてからの身体能力の向上は異常だ。
シェンも同様に職業による恩恵を受けているということか。
俺はあらためて礼を言うと、教会を後にした。
「あっ、そういえば笛惑の魔女について聞きそびれたな......まぁ、後でもいいか」
俺は若干の後悔を残しつつ再び宿に戻ると、遅めの朝食を取っている数人の客、バイト、シュガーに聞き込みを開始した。
ある程度情報がまとまったところで外に出ると、偶然目の前を2人の子供が通りかかった。
彼らは俺の姿を目に映すと。
「あれ勇者様じゃね!?」
「す、すげえ!」
俺に尊敬の念を向け、目を輝かせる少年たち。
「こんにちは。元気そうでよろしい......ん?怪我してるのか?」
見ると、ひとりの子供は膝を擦りむいていた。
血は止まっているが、痛々しい跡が残っている。
「さっき転んじゃって......でも、シェンお姉ちゃんが助けてくれたんだ!」
「シェンが?」
聞けば、転んで泣いていた少年をシェンが優しく手当してくれたらしい。
シェンの人柄の良さが伺えるな。
「それはよかったな。じゃあ、君たちはシェンが嫌いじゃないのか?」
「うん!」
「......」
一人は元気よく答えるが、もう一人は口を閉ざしたまま瞳に怒りを灯している。
なるほど。
さっき宿屋で聞いた例の子か。
俺は彼らの傍に行きしゃがみこむと、ある”お願い”をした。
不思議そうに首を傾げる彼らに軽く説得すると。
「まぁ、勇者様が言うなら」
「ま、任せて!シェン姉ちゃんのために頑張るよ!」
「じゃあ、頼んだぞ」
子供たちは「はーい」と素直に手をあげると、民家の方に向かって走り出した。
よし、これでだいたい準備は終わったな。
そろそろ広場へ向かうか。




