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退職代行”モーヤダ”社員、異世界にて勇者を代行する~最強スキル『退職代行』の前では、誰もが無職となり果てる~  作者: 柳原ミツキ
第0章 ネオシュラーフバッハ村編

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聖騎士襲来①

「.....朝か」

カーテンから差し込む光により、俺の意識は覚醒した。


薄っすら目を開けると、そこは見慣れない木製の天井が広がっている。

ゆっくりと上体を起こすとギシリとベッドが音を立てた。


「そういえば、異世界に来たんだったな」

窓の外から聞いたことのない鳥の声が聞こえる。

少し心細いような、頭が少し締め付けられる感覚がした。


俺は雑念を振り払うように頭を振ると、サイドテーブルに置かれたカードを手に取った。

そこにはきちんと俺の個人情報が書かれていて...

「あ......」


いつの間にか、職業の欄が勇者になっていた。

そしてその下にはスキル<退職代行>の文字。


「こいつも上手いこと使っていかないとな」

一見、退職代行サービス以外での使い道はないように思えるが、ここは異世界だ。

戦闘中に少しは役立てれたらいいのだが。


スキルの活用法を頭の中でシュミレートしていると、目の前に光の粒が集まってきた。

今回で三度目になる、光の導きという奴だ。

今回はどんな内容なのかと文字が形成されるのを待っていると、数秒ほどで列を成した。


『聖騎士シェン・フォン・バルバトスを退職させよ』


「聖騎士......?」

この村にそんな人物いたのだろうか。

少なくとも昨日の宴には参加していなかったようだが。


退職という文字に胸がざわめくのを感じていると、ドアの外から声が響いた。

「勇者さぁん、起きてますかぁ?朝食の用意ができましたよ~」

「ああ、ありがとうございます。今行きます」


確かに、少し下が騒がしい。

皆朝食を取り始めているのだろうな。


導きのことは気になるが、とりあえずは飯だ。

俺は手早くスーツに着替えると、楽しい食事の時間を堪能するため部屋の扉を開き......


「ああ、そうそう。勇者様にお客さんですよぉ」

シュガーの示す先で、さらさらの金髪をなびかせた女性が丁寧にお辞儀をしてきた。


「初めまして!シュトゥーア正教会所属、聖騎士序列7位のシェン・フォン・バルバトスと申します!以後お見知りおきを!」

あまりにも早い邂逅に、軽く眩暈を覚える。

というか、シュトゥーア正教会......?また知らない宗派が出てきたな。


彼女は口角を上げ、見えない尻尾をぶんぶんと振っているかのように嬉しそうな表情をしている。

人懐っこい印象を受ける女性だ。


......いい人そうだが、退職させなければだめなのか。


俺は気が重くなりながらも、軽く挨拶を済ませて共に一階へ降りた。


ハーゼの宿屋、一階にて。

「あらためまして、私はシェン。よろしくね!」

にこりと微笑み、こちらに握手を求めてきた。


彼女の第一印象は、コミュ強女騎士であった。

店主であるシュガーにも礼儀正しく、初対面の俺にも緊張しないよう親しみやすい雰囲気を作るよう努めている。


できた人間だ。

身にまとう鎧には控えめな装飾がほどこされており、強い自己顕示欲も感じられない。


声色はこちらを包み込むような柔らかさを含みつつ、安心感を与える強さも兼ね備えていた。

大抵の人間は彼女を好意的に思うだろうな。


「こちらこそよろしく。俺はカミシロ・ワタルだ」

俺も名乗りつつ、握手に応じる。


「ワタル君ね!勇者様でもいいんだけど、名前で呼んでもいいかな」

「別に構わない。お前の好きなように呼んでくれ」


会っていきなり名前呼びか。

距離の詰め方が尋常じゃないが、断られたことなどないのだろう。

分かってはいたことだが彼女は明らかに陽の者だ。


そんな彼女なら俺の返答に快く微笑むと踏んでいたが、予想と違う結果を見せた。

俺の質問を受けた彼女の表情が笑顔のまま固まる。


「ええっと、ごめん......私のことはシェンって呼んでいいよ。その、お前呼びは好きじゃないかな」

「ああ......わかった。気分を悪くしたなら悪い」

「いやいやそんな......ごめんね?私のわがままで。......あっ、ご飯来たみたいだよ!」


気まずさから逃げるように、話題を逸らして料理に目を輝かせるシェン。

シュガーに変な誤解をさせぬよう振舞っている。


しまったな。陽キャのノリがわからず変な空気にさせてしまった。

次からはちゃんと名前で呼ぶようにしよう。


「おかわりもあるからねぇ。遠慮せずたくさん食べて~?」

シュガーは違和感に気づくことなく、テーブルに食事を並べてくれる。


しかし、気のせいだろうか。

シェンの食事の方が明らかに少ない気がする。それに周囲からの視線も異常に集まってないか?

食べづらいな.....


俺は違和感から逃げるように視線を落とし、メニューを確認する。

今日の朝食はパンにスープだ。

少し質素な気がしなくもないが、異世界といえばこのメニューなイメージがあるため抵抗はない。


「美味しいね~これ。特にこのパン!うちではめったに食べられない柔らかさだよ~」

気まずい空気が続くと思われたが、シェンは特段気にした素振りも見せずに料理に舌鼓を打つ。


そのご好意に甘えさせてもらおうと、俺も抱いた感想を素直に述べた。

「この村は小麦の栽培が盛んらしいからな.....確かにうまい」


ちぎるとふわっと蒸気が立ち昇り、ふっくらとした内部が露わになる。

口に入れた瞬間小麦の甘味が広がり、空腹を満たしていく。


しばらく会話も忘れて食事をとると、いつの間にか完食していた。

ちらと正面に目を配ると、シェンの皿も空になっている。

ふと、目が合った。微笑を浮かべる彼女の姿はまるで子を見守る母を彷彿とさせた。


「コホン。ご馳走様でした。......ワタル君、そろそろ本題に入ってもいいかな?」

どうやら俺が食べ終わるのを待ってくれていたらしい。


「ああ、待たせてすまなかったな。聞かせていただこう」

俺に用があるとのことだったが、初対面の俺に何の話があるのだろうか。


......もしかして、勇者のファンか?

しまった。勇者になった時点で最初に考えておくべきだった。俺、まだサインなんて書けない———


「実はね、君を迎えに来たんだ。シュトゥーア正教会では勇者を鍛えることが至上命題とされててね。......どう?私の元で鍛える気はない?」

.......ん?


「......ちょっと待ってくれ。勇者を鍛える?シェンは俺を鍛えるためにここに来たのか?」

何がファンだ。勘違いも甚だしい。

大丈夫か?顔赤くなってないか?


「こほん......言っちゃ悪いが、勇者の力はかなり強いぞ?わざわざ鍛えてもらう必要はないと思うんだが」

「ふふっ、まぁそう思うよね。実際私も勇者に会うの初めてだし、あなたが強いのも一目見て分かった。だけど今のままだと......間違いなく私の方が強いと思うよ?」

不敵な笑みを浮かべ、こちらをまっすぐと見つめるシェン。


見ただけでなんで言い切れるのか疑問だが......俺も自分の強さが正確にわかるわけでもないので言い返すことはしない。

そういえば序列7位とか言ってたし、結構強いのかもしれないな。


しかし、修行か。ファンかと身構えたがこれはこれで面倒なことになった。

正直異世界に来たのに訓練漬けになるのは御免被りたい。

光の導きのこともあるし、少々面倒だがここは割り切って白黒つけるべきだな。


「そこまで言うなら手合わせしないか?シェンが勝ったら好きにしてくれて構わない。ただ、俺が勝ったら俺のことは放っておいてくれ」

「いいね、乗った!君の正確な実力も知りたいところだったしちょうどよかったよ。ワタル君の今後を懸けて勝負しよっか!」


断られることはないとは思っていたが、やけにあっさり承諾したな。普通勇者が相手となると躊躇うものだと思っていたが......

まぁ強制的に連行されるパターンだけは避けることができたし、良しとするか。


「じゃあ10時に村の広間に集合ね。ちゃんとウォーミングアップはしとくんだよ?あと、装備の手入れもね!」

彼女はいたずらな笑みを浮かべてそう言うと、食器を下げて宿屋を後にした。


敵に塩を送ることを厭わないサービス精神。

自分が負けるなど微塵も思ってないのか、単なる良心か。


「俺も少し動いておくか」

同様に食器を下げると、俺も村を散策することにした。

今は9時過ぎ。十分に時間はある。

作戦を練らないとな。


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