表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダイソアー店員は異世界で導師となる  作者: 毒味係りの直岡
ミルテ村の救済編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/11

第8話 女神の声は信仰心と共に

 × × ×




 翌朝レイラは、リヒトを泊めた部屋で、

 椅子に座った状態で毛布を掛けられ、すっかり眠りこけていたところを、

 母親のカルラから揺り起こされ目を覚ました。



「レイラ? レイラ? 朝よ、起きてちょうだい」

「お母さん……? ふわぁああ……、……あれ?」



 昨晩、ベッドに入った途端3秒でスヤァと爆睡し始めたリヒトの姿が、

 いつの間にやらもぬけの殻となっている。

 乙女の気も知らないで、病人の看病でもさせるようにレイラに魔力の補充を任せ、

 すぴーすぴーと寝始めた神経の図太い導師にヤキモキさせられながらも、

 ついついその寝顔を見入ってしまったりした夜だったのだ。



「えっと……お母さん、導師さまは?」

「日が昇らない内から出かけられたのよ。私が朝ご飯を用意しますって声をかけたんだけど、

 逆に、起こしてしまってすみません、お構いなくって。

 それと、椅子で眠ってるレイラのことをベッドで寝かせたかったのだけど、

 起こしても悪いからそのままにしてますって」



 母親から微笑ましそうな笑みを向けられて、

 レイラは自分に掛けられている毛布の存在に気がつくと、

 無性に気恥ずかしくなってそれを取っ払ったのだった。



「もおっ……! 導師さまったら、デリカシーが有るんだか無いんだかわからないんだから!

 普通、自分が使った毛布を人に掛けてくなんてことする!?」

「でも、魔力の補充が終わったら部屋に戻る予定だったんでしょ?

 椅子に座ったまま寝落ちしちゃったのはレイラの方じゃない。

 その割にはよく眠れてたようだし。

 逆に、先に目を覚ました導師様の方が、

 頼み事をして悪かったなって思ったんじゃないかしら?

 だから毛布を掛けていってくれたんでしょう?」

「そっ……! それはそうなんだけど……。お母さん、分かっててからかってない?」

「あらあらどうかしらね」



 娘が異性を意識しながらもムスーと膨れてみせたので、

 カルラは笑いをこらえるのが大変だった。



「さあさ、朝食にしちゃいましょう。今日は大麦を刈りに行くんでしょ?

 肌を守る麻のシャツと、マスク用の三角巾を用意してかないとね」

「それなんだけど、実は――」



 リヒトがそもそも何をするのか話さなかったので、

 昨日と同じ準備を済ませ、昨日よりも3時間遅れで現地に着けるよう支度せよと、

 女神様から授かったダイソアー品を忘れるな、くらいしか通達しようがなかったことから。


 娘から事情を聞いたカルラもそうだが、村の広場に集められた村人たちもまさか、

 昨日、刈り取りを終えた小麦畑に今日も向かうのだと村長から聞かされれば、

 一体何をしに行くのやらと首を傾げたくなるものだった。




 × × ×




 皆で、ぞろぞろとゆっくり歩いて15分弱。

 道中の視界を閉ざしていた森を抜け。

 開けた小高い丘へ出るとそこには――――。


 ずっしりと頭を垂れ、たわわに実る麦の穂がキラキラと陽光を照り返し。

 風に吹かれると黄金色の絨毯が波打つかのように揺れ、

 さながら今が刈りどきであることを知らせるかのように、

 麦の穂が風に吹かれて擦れるサワサワとしたさざめきが辺りを支配していた。



「へ……?」



 一陣の風が吹き抜けてレイラの髪を揺らした。


 こんなのは近づかなくったって一目でわかる。

 幼いとき、レイラが村に来たばかりの頃と同じ光景だったからだ。

 それはミルテ村にとって、かつてないほどの大豊作の年だったのだ。


 そんな光景を前にしたら、一番に黙ってられないパン屋の店主が声を漏らした。



「ウソみてえだ……。

 ゆうべ導師様が言ってたんだよ、なんとかなるかもしれないって。

 オラは、んなわきゃねえだろって思っちまってたんだが……。

 まさか本当になんとかしてくれるなんてよお……!!

 こんなのもうっ……、女神様はオラたちのこともちゃんと見てくれてるって、

 導師様が証明してくれたようなもんだろ!!」



 その言葉にワッと爆発したかのような大歓声と感動で涙する声が上がった。

 目の前の光景が夢だと信じて疑わない声も、

 それでもこれが現実であってくれたらと望む声も、

 村の皆が叫び出す衝動を抑えきれない、奇跡的な光景がそこには広がっていたのだ。


 それは言葉を失っていたレイラだってそうだ。

 自分という存在のせいで、払いようのない額が税金として村にのしかかっている。

 こちらにどれだけ正当性があろうとも、自分が身売りすれば村の負担にならずに済む。

 あるいは導師に連れられて逃げ出してしまう選択肢もあった。


 考えれば考えるほど自分はどうしたらいいのかわからなくなる。

 だからリヒトのノンデリにかこつけて、考え過ぎないようにしていた節があった。

 しかしそのリヒトが、なんとかなるかもしれないと言った昨日の今日でコレなのだ。


 こんな奇跡を起こす方法を知っていたなら、すぐに教えてくれたら良かったのにと。

 レイラはあまりの安堵感に心が震えて、涙で視界が滲んだ。


 リヒトのことだ、確約できないのに期待させる物言いはしたくなかったのだろう。

 レイラは涙をぬぐうと、彼の姿を求めて名前を呼びながら小高い丘から駆け下り出した。

 この小麦畑を〝豊作にし治した〟からには、彼が居るはずなのだが姿が見えない。


 そうしてレイラが駆け出したのを見て、

 村人たちも、麦畑の功労者が見えないことに気がつき探し始めたところ。

 そのタイミングを見計らったように天から声が降り注いだ。



『導師リヒトなら、商品の生成に魔力を使い果たして、

 畑の端っこに隠れるようにして倒れてるわよ』

「クレセトさま!」



 レイラ以外、聞き慣れぬ声に〝皆が一様に〟空を仰いだ。



『できればレイラちゃんが助け起こしてやってちょうだい?

 それだけでも魔力が回復して目を覚ますハズから。

 っていうか私はちゃんと忠告したんだけどね。

 それでも、村のみんなが小麦を運ぶのに苦労しないよう、

 徴税官から不当に搾取されないようにって、

 リヒトったら折りたたみキャリーカートまで生成して回ったのよ』

「何かあぜ道に転がってると思ったら、この黒いカバンってキャリーカートなんですか!?」

『そうよ? 折りたたみ式のね。商品ステータスオープン!』



 女神クレセトがコマンドを唱えると、

 あぜ道のそこかしこから半透明のウィンドウがポップアップした。


■――――――――――――――――――――――――――――――■

 軽々収納キャリーカート


 固有効果は『重量激減』『空間収納』

 荷物を入れると重量が激減し、転がして運べる程度の重さまで収納可能。

■――――――――――――――――――――――――――――――■


「この空間収納って……!?」

『気づいた? 昨日話した魔導バッグと同じよ。

 刈り取った小麦を詰め込んで軽々と運ぶも良し。

 ネズミや虫も入れないから、脱穀した小麦の保管場所として使うのも良し。

 キャリーカートの状態から折りたたんでしまえば鞄サイズになるから、

 こんな物の中に良質な小麦が仕舞われてるなんて、徴税官にだってわからないでしょ?

 だからね、ミルテ村のみんな――、

 あなた達の好きなように使うことを、女神クレセトはここに許します』



 天から降り注いだ柔らかな光を浴びて、村人すべてが敬虔にもひざまずき、

 口々に感謝の祈りを捧げ出したのを見て、レイラは気づかされた。



「村のみんな……!? クレセトさまのお声が聞こえるようになったんですか!?」

『ええ。これこそ、目に見える奇跡が民の心に信仰心を芽生えさせた結果よ。

 私に対する信心が一定量を超えたから声が届くようになったわけ。

 まあ、それはそれとして、小麦の収納場所にも困るだろうからって、

 先回りしてアイディアを出したのは導師リヒトだから、

 そこのところはちゃんとねぎらってあげてちょうだいね』



 そうだったそれどころではなかったと、

 畑の端っこまで『韋駄天インソール』で駆け抜けたレイラは、

 うつ伏せに倒れているリヒトの姿を目にして、想定していた以上に心臓がバクバクした。



「導師さま……!! 導師さましっかり!」



 うつ伏せの状態からひっくり返すように仰向けにして上半身を抱き起こすと、

 顔がゾッとするほど土気色をしていて、

 魔力在庫ゲージが一ミリも残っていない、赤い点滅を繰り返すエンプティを示していて、

 なぜか呼吸すらしていないように見えて、

 そんなわけがないのに、レイラには死にかけているように見えてしまったのだ。



「導師さま? 導師さま!? 何してるんですか……?

 起きてください導師さま? 目を覚ましてください導師さま!

 なんで……? どうして……? 導師さま!! 導師さま!?


 ――――目を覚ましてください!! リヒトさん!!」

「ぷはっ……!?」



 苦悶の表情を浮かべていたリヒトが目をカッと見開いた。

 それはさながら名前を呼びかけられたことで、

 死の淵から息を吹き返したかのような光景だった。


 魔力在庫ゲージも今になってようやく緩やかにだが回復を始め。

 土気色をしていた顔も徐々にだが元の色を取り戻し始める。



「レイラ……? あれ? どうしてキミが? 俺は……? 何をしてたんだっけかな?」



 遅れてその場にたどり着いた村人たちからすれば、

 リヒトの倒れた姿を見て慌てたレイラが普通に呼び起こしただけに見えたことだろう。


 レイラ自身も、何か危うい直前に見えたのは自分の早とちりだったのだと思い直した。

 震える息を吐き出して、まだバクバク言ってる心臓を落ち着けるように気を取り直した。



「まったく人騒がせな! 導師さまは魔力を使い果たして倒れてたんですよ?

 呼びかけても目を覚まさないから、要らぬ心配をしてしまったじゃないですか」



 そう言う割には彼女が怒ってなくて不安げな顔を見せているので、

 リヒトは自分が心配を掛けてしまったことを理解した。



「そうか、すまない……。どうにも自分の疲労感だけじゃ、

 魔力の在庫がどれだけ残っているのかわからなくてな。

 もう少しくらいは行けるかと思ったんだが……。

 最後の畑を前にして、コイツの生成で力を使い果たしてしまったわけか」



 リヒトが右手に握りしめていた『クリアグリーンのボトル』を持ち上げてみせると、

 それが何なのかサッパリわからずレイラが首を傾げた。



「それは?」

「もとは『シャワータイプ植物活力剤』っていう商品なんだ。

 せっかくの機会だからレイラが使ってみるといい。

 そこにひと区画、昨日収穫したままになってる畑が残ってるだろ?

 ボトルの蓋を開けたら、その畑めがけて大きく腕を振って中身の溶液を振りまくんだ。

 それもたったの一回、たったの一振りで事足りる。やってみてくれ」



 ボトルを手渡され、立ち上がったレイラが言われた通りにやってみたところ。

 その結果自体は、村人たちも含めた皆の予想通りではあったのだが。


 レイラが腕を大きく一振りすると、

 ボトルからは緑色に透き通ったしずくがシャワーの如く噴き出し、

 天高く弧を描いて広範囲に散らばり、空には虹を架け、

 にわか雨のように畑の一画すべてに降り注ぐと、

 茎の断面から一斉ににょきりと再生した芽が、刹那とも言える超倍速で成長を果たし、

 わずか10秒たらずでそこは、豊かに実った小麦畑へと姿を変えたのである。


 そこにリヒトの「商品ステータスオープン!」も合わされば。


■――――――――――――――――――――――――――――――■

 シャワータイプ作物即効成長剤


 固有効果は『作物即効成長』『品質保証』『連作障害回避』『広域シャワー散布』

 収穫直後だろうとどんな状態でも、

 そこにあった作物を収穫可能な品質の良い状態まで急成長させる。

 連作障害も起こさない。

■――――――――――――――――――――――――――――――■


 内容を読み取った村人たちが、導師をたたえる大・大・大喝采を沸き起こした。


 それに応えるべく立ち上がろうとしたときだ。

 疲れが残っているせいかフラついてしまったところ、

 レイラから、柔らかな身体でぎゅっと密着するようにして支えられ、リヒトは驚いた。



「おぉ、平気だぞレイラ? ちょっとフラついただけだ」

「でもわたし……心配したんですから……。

 倒れてたとき、魔力在庫ゲージが空になって、真っ赤になってたんですよ?

 導師さまのお仕事はまだ始まったばかりなのに、

 リヒトさんの身に何かあったらどうするんですか。

 村の為に頑張ってくれたのは嬉しいです、ありがとうございます。

 でも、魔力在庫の把握はわたしの務めでもあるんですから。

 さっきみたいに自分の在庫を空にしてまで、

 あんな苦しそうな顔をしてまで、無茶をするのは二度としないでください。

 わかりましたか?」

「おぉ……わかった、わかったから、約束する。だから、空になったボトルの底で、

 俺の腹をグリグリと圧迫するのはやめてくれ。

 もし照れ隠しでやってるんだったら、笑ってしまいそうだ」

「もお……、そんなんじゃないんですから」



 村の皆の前で抱きつくようにして支えているのが恥ずかしくなったのだろう。

 空になったボトルをリヒトに押しつけると、

 レイラ自身は澄ました顔のつもりで、それでいて頬を赤くしたまま離れたのだった。



『は~いごちそうさま。レイラちゃんのムスデレも堪能できたところで――』

(むすでれ?)

『――村のみんなはいざ収穫! って行きたいところなんだろうけど、

 私が想定していたよりも早く、皆が私を信頼してくれるようになったから、

 一つ策を思いついちゃったのよ。

 この私が本当に実在するのだとクレセト教の信仰を広める為にも、

 どうせやるなら、徹底的にやった方がいいじゃない?』



 何故だろうか? リヒトには不思議と、あの女神クレセトの美しい顔立ちが、

 声では平静を保っていながら、その実ニヤついている様が思い浮かんだのだ。



『そこで私、女神クレセトは、

 このミルテ村が、クレセト教信徒にとって聖地と目されるように、

 村のあらゆる日用雑貨をダイソアー品に置き換え、

 建物の補修や改装できる範囲で取り組むことを、導師リヒトと同行者レイラに命じます』



 何か無茶振りされそうな予感はしていたのだが、まさかここまでとは思わなかった。

 その女神の発言には、リヒトとレイラも含めてそこに居る全員に当惑が広がった。


 ミルテ村を信徒から聖地と目されるようにせよ?

 あらゆる日用雑貨をダイソアー品に置き換えよ?


 建物の補修や改装にまでなると、さすがに『拡大解釈品』も必要となることだろう。

 村人たちの生活は断然快適になるだろうが、それはもはや一変すると言って等しい。


 だが、女神クレセトは言葉を続けた。ここからが本題なのだと言わんばかりに。



『いい? ミルテ村は商人ギルドに小麦の融資を求めに行く必要が無くなったわけでしょ?

 子爵の嫡男アルドリックから増税を課されていることも、

 小麦を融通しないよう嫌がらせを受けていることも通達で広まってる。

 それでいて一週間以上が過ぎても、ミルテ村から使いの一人もやって来なかったら、

 通達を出したヤツの面目が潰れるわけじゃない。

 だとしたら、次は何をしてくると思う?』



 クレセトの問いに、村長のミゲルが挙手をしてから答えた。



「恐らくですが、冒険者を数人雇うか……あるいは、この近辺を担当している行商人に、

 商いにかこつけさせて、村の様子を見に行かせるでしょうな」


『正解。地方都市ベクタールからミルテ村までの道中には魔獣が出没することもあるし、

 行商が出向くとしたら3両編成くらいの幌馬車隊を動かさざるを得ないでしょ?

 だったら、それがチャンスじゃない。

 クレセト教の信仰を広める為にも、あの馬ゎ鹿をおびき寄せる為にも、

 この私がアレコレする為にもね。くふふふふ……!』



 何かスゲー悪巧みしてそうな女神の声音に、皆は戸惑いを隠せなかったのだが。

 その後、どういう目論見があって、どういう流れが起きるであろうかを説明されると、

 それならバチクソ派手にやって煽り散らかした方がいいとの合意に至ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ