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ダイソアー店員は異世界で導師となる  作者: 毒味係りの直岡
ミルテ村の救済編

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第7話 村人達との収穫作業と情報共有

 × × ×




 リヒトはなにぶん初めてなので、ほんの最初こそ手間取ったが、

 楽々のこぎり鎌とパワーグローブの御蔭で、作業はスイスイと進み。


 3時間後の朝9時に、リヒトも朝食を分けてもらった時点では、

 特に大した出来事もなかったのだが。


 そこから正午の昼頃にかけては、周りの村人たちも徐々に気づき始めたのである。

 二人の作業ペースがじわじわ上がっていると。


 ただでさえ20倍速なのだから、劇的に速くなっているわけじゃないが。

 それが1時間2時間も経つと、同じ道具を使っているハズなのに、

 二人の若さだけでは説明のつかない、収穫量の差として表れたのである。


 そうしてレイラも含め、皆が思った。

 この導師と一緒に居ると、妙に仕事がはかどると。


 それは当然と言えばそうだったのだ。

 当の本人は別に率先して声かけしてるつもりはなかったのだが。



「お疲れ様っす! え? 道具の御蔭で疲れてない? それは良かった!」

「今後ともクレセト様とダイソアー商品をよろしく頼みます!」

「もう少しで昼休みっすよね? もうひと踏ん張りです、お互い頑張りましょう!」



 などと快活に笑顔を振りまいて、どのペアよりも早く収穫を進めてくれるともなれば、

 村人たちの士気が高まらないハズなかったのだ。

 しかもその調子は、日没が近づく頃になっても続いたのである。


 それも単なる接客の営業スマイルに留まらず。

 もともと単純作業が苦でないのもあり。


 加えてリヒトにとってミルテ村の人たちは、

 商品のお客様であり、仕事仲間でもある二重の立ち位置となっていたことから、

 営業スマイルと本心からの笑顔が重なり、二重の効力を伴って影響を及ぼしたのだ。


 要は、いらっしゃいませーと、ありがとうございます、

 またお越しくださいませーを、自動で口にしてしまうような職業病に、

 リヒトのポジティブさが掛け合わさった結果が、労働鼓舞の支援となったのだ。


 そこに一日中、美少女のレイラが付きっきりともなれば笑顔が絶えるはずもなし。

 レイラの方だってまさか、

 リヒトが(可愛い女の子と働けて嬉しいな!)などと思っているとは知る由もなく。


 疲労激減効果を持つパワーグローブだって、殆どレイラが使っていたので、

 リヒトの方が疲れているはずなのに、目が合うと微笑んだり笑ってみせるものだから、

 導師さまってやっぱり凄いんだと、レイラは勘違いながらも見直したのだった。




 × × ×




 そんな意図せぬ相乗効果が乗りに乗った結果。



「皆の者、よくぞ頑張ってくれた……、小麦の収穫、完了である!!」



 村長ミゲルの言葉に、村人たち全員が沸いた。

 理由は以下の通りである。


 そもそも、村の働き盛りの人手が足りないのは、賦役という強制労働で、

 グレイヴ子爵の畑へ人員が駆り出されている為。


 どころか、子爵の嫡男アルドリックが、

 レイラを差し出すようミルテ村にプレッシャーをかけるために、

 嫌がらせで道具の鎌や手袋までもを奪っていたからだ。


 数が少なくなったそれを交代制で使っていては、

 どうやったって刈り入れ時のスケジュールが成り立たない。


 収穫前の小麦は雨に濡れると品質が落ちてしまう懸念もあり。

 雨に降られるか降られないかは運だが、

 とりあえず今は目の前のやれることをするしかない絶望的な状況だったのである。


 それが、本来であれば4日はオーバーしそうであったところを、

 たった1日で終わらせることができたのだ。


 しかも村人たちは、刈り入れに役立つ女神の奇跡ダイソアー品を与えられている。

 これなら、他の作物も品質を落とすことなく、無理せず収穫しきることができる。


 日が落ち、星明りに照らされた皆の顔は希望に満ちていて一様に明るかった。

 村へ帰る前には牧師から促され、今一度女神クレセトに感謝と祈りを捧げた程だった。




 × × × 05




 しかし夕食後――、村長の邸宅に集められた、商店を営む家長たちの顔は暗かった。

 蝋燭を使ったランタンの光量が乏しいからではない。


 リヒトが生成して吊るし替えた『2WAYキャンピングライト』の明かりで、

 応接室は昼間以上に明るかった程だ。


 問題はテーブルの上に広げられた小麦粒である。


 刈り取り時にあらかじめ目星を付けていた麦束を幾つか持ってきて、

 既に乾いていた分を少量だけテストで脱穀してみたのだ。


 それを精査して、この場に集った内の一人、パン屋の店主は言った。



「全部搔き集めたとしても良質と呼べる分はやっぱ足りねえわなあ……。

 それを例年の二割増しで納めろだなんて無理だよ村長。

 近辺の村だって不作だってのに、こんなの逆立ちしたって用意できねえよ」


「やはりそうか……。ではもう、

 隣街の商人ギルドに、備蓄分の小麦を売ってもらうしか手はないな……」



 しかし、村の共有資金でまかなうにしても余裕があるハズもなく。

 ミルテ根菜や治癒イモの余りを売るにも限度がある。

 資金の為に多くを売ってしまっては、

 隣街の地方都市ベクタールに野菜もポーションも卸せなくなってしまう。


 であれば商人ギルドに借金を頼み込むしかないと話し合っていたところ。

 村人たちの様子を見守っていたリヒトとレイラの頭上に、

 女神クレセトからとんでもない報告がもたらされたのだ。



「そんな……!? 村長さま大変です! クレセトさまが仰るには――」



 青ざめたレイラを手でさえぎって、彼女に言わせるのは酷だと、

 リヒトが続きを告げることにした。



「地方都市ベクタールの商人ギルドに、アルドリックが圧力をかけて、

 ミルテ村には小麦を売らぬよう通達を出しているとのことです」


「なっ!? なんたることを……!」

「おいおい!? いくら商人ギルドでもそんなの黙っちゃいねえだろ!」


「はい。この件に関して商人ギルドから異議申し立てがなされたそうなのですが、

 アルドリックが直々に商人ギルドを訪れ、

 神は民など見ていない――、教会法など有って無いものだと、

 我ら地方の勢力が魔力持ちのレイラを囲い込むことに協力しろと、

 目をつむれと押し切られてしまったそうです」



 鍛冶屋の親方ゲンが「なんて罰当たりな物言いを……!」と片手で顔を覆った。


 村人たちは今日、女神の奇跡に救われたばかりか、

 この報告自体がミルテ村の為に女神本人からなされているのだ。

 そのやり取りを天から見下ろしていたクレセトがブチギレてないわけがない。



「その後、商人ギルドではあまりにも非道ではないかと協議されてるようですが……、

 女神に対する信仰心が失われた今、頼みに行ったところで断られるのが関の山であろう。

 今はミルテ村の人員を一人でも割いてはならないときだと、クレセト様は仰ってます」



 リヒトづてに女神からの知らせを受けた村人たちは、皆が席を立って床にひざまずくと、

 ありがとうございますありがとうございますと口々に感謝の祈りを捧げた。

 そうして立ち上がると、村長のミゲルは言ったのである。



「導師殿、レイラよ……、あなた様方はもう、明日には村を発ちなさい」

「村長さま……!?」


「ミゲル様、俺たちはアルドリックの脅威を消し去るまで、

 村に滞在すると宣言したではありませんか」

「しかし……、村が税金を払えぬことを盾に、あの性悪嫡男が何をしでかしてくるものか」


「村長の言う通りだ。

 ちまたの噂じゃアルドリックはギャンブルで得た大金で希少な魔導具を手に入れてる。

 それで相手を脅して、言うことを聞かなければ火であぶるもんだから、

 三十金貨の火悪魔だなんて呼ばれてやがるんだ。それでここんとこ気が大きくなってて、

 そのうち人を殺しちまうんじゃないかって恐れられてんだよ」


「うむ。だからその矛先がそちらに向かってもたまらんだろ、ということだ。

 後のことはワシらでなんとかする。

 レイラ嬢ちゃんのことは任せたぞ導師様よ。どうか幸せな旅路にしてやってくれ」

「ゲンさん……!?」



 そんな村人たちの健気な態度に、天井から柔らかな光が降り注いだ。

 女神からの啓示を受けて、リヒトが告げる。



「クレセト様は、その悪しき魔導具さえも破壊するようにと俺に命じました。

 悪徳貴族の傍若無人を村に押しつけて、俺たちだけで逃げ出すわけにはいきません。

 それでなんですけどクレセト様?」



 リヒトは天井を見上げて女神に尋ねた。



「一晩眠れば、俺の魔力は全回復するのでしょうか?」

『いいえ、一晩では難しいわね。今日、数多くの商品生成で鍛えられた分、

 あなたの扱える魔力総量が増えてるのよ。

 仮眠で全回復したらおかしいように、熟睡できたとしても回復量は100として、

 増えた空き容量分も回復したかったら、そこはレイラちゃんを頼りなさい。

 レイラちゃんも、リヒトの魔力在庫ゲージが増えているのは見てわかるでしょ?』


「え……? あ、ホントですね! 一本の下に3割分くらいかな? ゲージが増えてます」

「そんなにもか!? だったら、魔力を全回復できればなんとかなるかもしれない……」



 話が見えず、村長のミゲルが首を傾げた。



「導師殿? 何か策があるのですかな?」

「はい! 明日、今日と同じように、同じ場所に、2時間……、いや3時間か?

 遅れて集まるように、村の皆さんに指示を出しておいてください。

 なんだったら、朝食を終えた後にでも、全員でいらしてください」


「それは……、今日刈り取りを終えた畑に? ですかな?」

「はい。ただし、差し上げた道具は必ず持参してくださいっすよ?」



 刈り終えた小麦畑に、ダイソアー商品を持参させてまで何をさせようというのか。

 村人たちどころかレイラにも見当がつかなかったのだが。



「と言うわけだからレイラ。夜通しとは言わない、今晩俺に付き添ってくれ」



 聞く者が聞いたら誤解を招かない発言に、

 レイラはボッと真っ赤になって、慌てて村長たちに釈明したのだった。

 それでもリヒトがわかってなさそうな顔をしていたので、

 彼女が怒ったのは当然の流れであろう。



「クレセトさまのお言葉はわたし達にしか聞こえないんですから!

 言い方ってものを考えてくださいよ~~!! もお~~!!」

「いだだだ!? そんなつもりじゃなかったんだ~!! 許してくれって~~!!」



 同行者のレイラが、敬うべき導師の背中をボカボカ叩いている様を見て、

 存外、尻に敷かれる関係も悪くないんじゃないかと、村長たちはほのぼの思ったのだった。

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