第6話 魔力在庫ゲージとお義母さんにご挨拶
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やがて、村人の殆どに商品が行き渡る頃になると、
リヒト自身も汗ばむくらいには疲労が蓄積してきた。
一方レイラも女神クレセトから言われた通り、
リヒトの『魔力在庫ゲージ』が、微かにだが見えるようにはなってきたのだが……。
(補充にはなってる、みたいだけど……?)
どうやら魔力を分け与えるとは言っても、
それが微々たる量に過ぎないことが可視化されてしまい。
リヒトの商品生成に対し、どう見ても魔力の補充が追いついてないとわかる。
レイラ自身あまり認めたくはなかったが、
今のところは無いよりかマシ程度の補佐だったのである。
(こんなのでわたし、役に立ってるって言えるのかな……?)
自分は魔力持ちで、治癒魔法をかなりの回数こなせることから、
魔力を分け与えられると聞いて、多少の自負はあったのだ。
それなのにこの体たらくでは、添え物程度の価値しかない。
導師の同行者として、これからやっていけるのか?
他に何か、魔力をポンと渡せる方法でもないかと、
後でクレセトに尋ねようと考えていたところ。
最後の村人の番が回ってくると、
妙齢の女性がレイラのそばに歩み寄って、彼女の頭をそっと撫でたのだ。
「頑張ってるのねレイラ、偉いわよ」
「お母さん……!」
養母の【カルラ】である。
その後ろには村長ミゲルの姿もあった。
もとは村長の家で、これからどうするのかリヒトに話を聞く予定だったからだろう。
収穫作業に余裕ができるとわかって、関係者一同が受け渡しの最後まで待っていたのだ。
「初めまして導師様。私はこの子の母親のカルラと申します。
これから長い旅路になるかとは思いますが、
どうかどうか……、娘のことをよろしくお願いいたします」
などと、楽々パワーグローブを手渡した美人のカルラから深々と頭を下げられて、
刈り取りの手伝いをするという申し出が、
商品渡してハイおしまいだと勘違いされていることにリヒトは気づいた。
「それは俺の方こそっすよ。右も左もわからない場所で導師となったばかりなんで、
娘さんには頼りにさせてもらうつもりです。
それと、――ミゲル様? 俺たちは子爵の息子アルドリックの脅威を消し去るまで、
ミルテ村に滞在する予定ですから」
「おおおおなんと……!? それはまことですかな!?」
「導師様……!! 娘どころか私たちの為にまで、そこまで尽くしてくださるのですか?」
「ええ。俺はもちろん、誰あろうクレセト様からの計らいっすから。
それにレイラは本当に異世界へ帰る必要性は無いんです。
悪いのはそもそも、教会法を守らない奴らなんですし。
――つまり、これが切っ掛けで導師の同行者を務めてもらうからには、
いつかレイラが本当に帰るべき故郷が必要なんですよ。
その上でクレセト様からは、ミルテ村を守るようにと仰せつかっております」
言葉と共に仰々しくも一礼してみせると、ミゲルとカルラは歓喜に沸き。
カルラは感動のあまりレイラを抱きしめて、その場でクルクルと回ったのだった。
「わ~も~!? お母さんってば~!」
「だって~~!」
なにせ養母のカルラからすれば、
村の為に自分の娘が自己犠牲の精神で異世界へ帰ることを決意したのである。
しかも収穫の時期とも重なって、村の者たちとのまともな送別会も開けずに。
よく知りもしない着任したばかりの導師に連れられて、
そのまま二度と会えない今生の別れになる予定でもあったのだ。
そんな悲劇的運命を、本来は娘を連れ去るはずの導師がなんとかしてくれると言うのだ。
故に、一人の母親からしてみれば、
我が子を強く抱きしめ、感極まって涙しても仕方のない場面だったのである。
「ありがとうございますっ……、ありがとうございます……!
女神クレセト様に、心からの感謝を……!!」
「お母さん……」
なぜ美人のカルラが独り身で、レイラの養母となったのかは知れないが。
こうして傍から見ていても、互いが互いを支え合ってきた存在なのだとよくわかった。
リヒトはそうして、カルラが涙をぬぐうまで待ってやったのだった。
「っ……、お時間を取らせてすみませんでした、導師様」
「いえ、まったくそんなことないっすよ。
なにせ俺もしばらくは、ミルテ村の一員になるんですから。――と言うわけでレイラ」
リヒトは残りの魔力を振り絞ってのこぎり鎌とパワーグローブを生成すると、
手袋の方をレイラへと差し出した。
「俺たちも収穫作業に参加するとしよう。
まずは俺が刈り手をやってみるから、束ね手はキミが務めてくれないか?」
そうリヒトが声をかけると、なぜかその周囲だけがピタリと、
村人たちの声が鳴り止んだのである。
レイラもカルラもミゲルも、意表を突かれたように固まってしまい反応が無い。
何だ……? とは思ったが、リヒトは言葉を続けた。
「いやまあ、こんな疲れ知らずの道具を出しておいて、
手伝いもなにもあったもんじゃないかもしれないが……。
それでも、人手が多いに越したことはないだろう?」
と、そうまで言っても彼女が固まっているので。
リヒトはもう一度「だろう?」とグローブをレイラに手渡した。
そこでようやくハッと我に返ったレイラは頬を紅潮させて、
片手で自分の頬をパタパタとあおぎながら、
グローブをきゅっと握りしめ、忙しなく目を泳がせたのである。
「そっ……! そうですよね! 導師さまが村の風習を知ってるわけありませんものね!」
「は……? 風習?」
「いいいい、いえ! なななな、なんでもないんです……!!」
まさか意図せず、ミルテ村式のプロポーズをしてしまったなどと気づくわけもなく。
レイラの様子にリヒトは、
あまり気乗りしなくて断りにくそうにしているよう見えてしまったのだ。
「そうか……。なら、カルラさんが俺の束ね手をやってくれませんか?」
周囲にどよめきが走った。
「まあ……!!」
今度はカルラが頬を染めて口元を手で押さえ。
レイラは白目をむいて一瞬で真っ白になり、一転して怒りで顔が真っ赤になった。
「わたしは一言も嫌だなんて断ってないじゃないですか!!
どうしてそこでお母さんを指名するんですかそこで!?」
「どど、どうした!?」
リヒトに詰め寄り、片足で地団駄まで踏んで、ムスーと頬を膨らませたレイラの姿は、
村人たちからしても初めて見る姿だった。
普段が優等生で澄ましているからこそ、
かつて見たことのない色恋沙汰に対するビギナーな部分が初めて現れたのである。
しかもレイラは幼い頃から異常なくらい異性に惹かれる様子を見せたことがなかったので、
誰から求婚されても断るのは仕方ないよねと、村の暗黙の了解にさえなっていたのだ。
故に、彼女を見守ってきた村人たちからすると、
おやおやおや? と思わざるを得ない展開だったりする。
そしてそれはレイラ自身も同じだ。
何で自分はこんなにもムカムカしてるんだろうと頭の片隅では思えても、
先走る感情はどうにも抑えられない。
「導師さまの同行者となるのはわたしなんですよ!?」
「そ、それはわかってる……」
「だったら! 束ね手もわたしがやるに決まってるじゃないですか!」
「ふふふ、レイラ? おかあさんは別にやぶさかじゃないのよ?」
「お母さん……!?」
衝撃のあまり目が飛び出たレイラは、振り返ってみると母親がニコニコとしているので、
あ、コレは微笑ましく見られているのだなとわかり。
恥ずかしげにキュッと唇を噛むと、リヒトの手を掴んでズカズカと歩き出した。
「さあ! わたし達もとっとと始めますよ、ど・う・し・さ・ま!!」
「ま、待ってくれ。一体なんで怒らせてしまったのかわからないが、謝罪するよ」
「怒ってませんから! なんなら経験者のわたしが刈り手をやりますから!
導師さまは束ね手をやってください!」
「でも……怒ってるじゃないか」
「怒ってませんよ!!」
「わかったすまない!」
ギロリと、戸惑っているリヒトの顔を振りあおいだところ、
彼の『魔力在庫ゲージ』がチラリと見えて、レイラは(あれ?)と思った。
つい先程の生成で、残り魔力はゼロのエンプティに近かったはずなのだが。
なぜか現在進行形で、魔力残量がじりじりと上昇している。
これでは、自分が手をかざしていたときよりも遥かに回復速度が早い。
同行者としてはまだ駆け出しのレイラから見ても、
導師のサポート役としては相応しい回復量に見える。
刈り手の空いてる畑の持ち場までズンズンとリヒトを引っ張っていきながら、
(なんでだろ?)と疑問に思うも、
不思議と気持ちが安らぐくらいには、悪い気はしなかったのだった。
「さあ、わたし達はここを担当するとしましょう。
麦束の束ね方はもうわかってますよね?
初めはうまくできなくてもいいので、頑張ってみてください」
「ああ、任せてくれ。理由はわからないがせっかく機嫌を直してくれたんだ。
それを損ねない為にも足を引っ張らぬよう頑張るよ。
すまない、今のは失言だった……」
再びムスッとしたレイラからグーでポコポコと叩かれて、地味に痛い思いはしたが。
そんなこんなで二人も収穫作業に移ったのだった。




