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ダイソアー店員は異世界で導師となる  作者: 毒味係りの直岡
ミルテ村の救済編

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第9話 ようこそマルクト行商隊と慈善冒険者の皆様

 × × × 06




 12日後。ミルテ村へ向かう道中。

 【マルクト行商隊】の主人【パウル】は、

 幌馬車の座席で揺られながら憂鬱なため息をついていた。



「はぁ~~……、何が『ミルテ村から使いが来ないのはどうしてなんだよ!?』だ!

 あのボンボンの火悪魔め……、自分で使いを出せばいいだろうにっ」



 女神クレセトとミゲル村長の読み通り、案の定アルドリックの命により、

 行商隊の主人パウルが、極小の隊商を率いて様子を見に行くこととなったのだ。

 そんな愚痴の止まらぬ夫に、隣で御者をも務める妻の【ハンナ】は言ってやった。



「出立してから同じことをコレで何度目ですか旦那さま。

 商人ギルドを炎の杖で燃やされなくて良かったではありませんか」

「だが、冒険者たちでも雇って使いに出せば済む話だろう? 貴族のくせしてケチ臭い」


「それを言ったらわたくし達も同じではありませんか。

 冒険者の方々を使いに出せば良かったのです」

「それはそれで子爵の命に背いただなんだのと難癖をつけられるに決まってる」


「なら、これで良かったではありませんか。ミルテ村との商売も随分とご無沙汰してますし。

 駆け出しのころ懇意にしてくださった恩に報いる為、とでも思えば良いではありませんか」


「でも、だからこそ心苦しいんじゃないか……!

 ミルテ村は辺境ゆえに、不作もあってすっかり貧しくなってるって話だ。

 余った根菜や治癒イモを買い取るのだって限度がある。

 商いに行ったところで向こうが貧しいからなにも買っちゃもらえない。

 道中護衛の冒険者を雇って、行って帰ってくるだけで赤字だ。

 どころかドラ息子の脅しに屈して、村がどうしてるのか様子を見に行くだなんて、

 村長様にどんな顔して会えばいいんだよ……」


「ですがそれならどうして、幌馬車3台も出してまで寄付品を載せてきたんです?」

「そんなのっ……、どうしていいかわからなかったからだよ……。

 こんなところで身銭を切るだなんて馬鹿げてることはわかってる。

 けどもこんな事態は、どう考えたって教会の教えに背く行為なんだ……。

 女神様が見てるか見てないかなんてわからないけれど、

 義理人情からまで目を背けてしまったら、

 いつか商いが成り立たなくなってしまう気がするんだよ……」


「商人として生きるべきか、人として生きるべきか、ですか。

 いよいよ日も暮れてきてミルテ村はもう目と鼻の先ですよ?

 こんなところに来てまで踏ん切りがつかないだなんてホント優柔不断ですね。

 今からでも引き返しますか?」


「いや……、護衛の【テオバルト】さんと【ユリアーネ】さんに申し訳ない。

 慈善冒険者で通ってる彼らに悪くしてしまっては商売人としておしまいだよ。

 今回だって格安で護衛を引き受けてもらったんだ、ここまで来た以上行くしかない」

「ふふ。初めからそのつもりだったくせに」

「そんなんじゃないって……」



 慈善冒険者とは、少ない賃金で依頼を請け負ってくれるお人好し達だ。

 駆け出しがEランクとして、一般冒険者に位置づけられるDランクに多く。

 ダンジョン探索の宝箱ドロップで、何故か貴重な魔導具に有り付けない特徴を持つ。


 貴重な魔導具とはそれすなわち戦力や補助力であり、冒険者ランクの昇格に響くもの。

 仮に魔導具なんぞ無くとも鍛え抜かれた肉体と知識で大型魔獣を倒せたとしても、

 戦闘特化の魔導具が無いよりかは有った方がいいとギルドから見なされているからだ。


 よって、いくら討伐に貢献できても魔導具なしには昇格なしのシステムとなっている。

 実力があるなら役立つ魔導具を手に入れられて当然の構図となっている故に。


 そうして、貧しい依頼主の味方である慈善冒険者たちは、

 便利な魔導具が手に入らないからこそ実力を身につける者が多い反面、

 世間では負け犬扱いされる風潮があり、ギルドでも場所によっては待遇が悪かったりする。


 そういった経緯から、

 長らくDランクでくすぶっているテオバルトとユリアーネに少しでも金が回るよう、

 パウルはよくよく気を回しているのだ。


 そんな商人としては微妙なパウルのことをハンナは気に入っている。

 どうしても決断が下せないなら、売り上げではなく少しでも雇用に繋がるよう動く。

 金は天下の回りものであり、見捨てなかった人脈が何に繋がるかわからない。


 もうここまで来てしまったからには慈善冒険者たちの為に行くしかないという判断は、

 その実わかっていて言い訳できるようにやっているのだ。


 商人のくせして中々判断を下しきれない煮え切らない態度はどうかと思うが、

 それが今回のようなこじつけがましい消去法であったとしても、

 自分が正しいと思った方向に舵を切ってきて、

 今までなんとかなってきた実績もある。


 パウル本人は、また貧乏くじを引かされてしまったよと嘆く傾向にあるが、

 この、義理人情を捨てきれない優柔不断でうだつの上がらない主人こそが、

 なにかとんでもない拍子に、大いなる導きに祝福される人だとハンナは見込んでおり、

 今回の騒動もなんとかなると楽観視して、どう転がるものかを楽しみにしていたのだ。


 そしてその予感と兆候は、ミルテ村の出入り口が見えてきた時点で現れた。

 先行して護衛の任に当たっていたユリアーネが、

 しんがりを務めていたテオバルトに向かって声を上げたのである。



「テオ~!」

「どうしたユリ~?」

「村の門の様子がおかしい! 私だけでは判断しかねる状況だ! 交代してほしい!」

「わかった! 皆さ~ん、馬車を止めてしばしお待ちくださ~い!」

「了解で~す!」

「承知しました~!」

「あいよ~」



 手代の使用人エルンストと、徒弟の見習いオリヴァーの2台が馬車を止めた脇を抜けて、

 先行するように一番前へと出てからハンナは馬車を止めた。



「ハンナ? キミってやつは……」

「いいではありませんか。どのみち旦那さまが判断を下すことになるんですから」

「それはそうだろうけど」

「それにしても、アレは何でしょうかね?」

「うん……。門のアーチゲートに煌々と明かりが灯されてるように見えるけど」

「ロウソクのランタンでも、街灯に使われてる魔導ランプでもないですよね」

「前者はともかく後者は無いさ。しかし、先触れも出してないのに何の明かりなんだ?」



 ユリアーネと持ち場を交代し、

 伸縮式の単眼望遠鏡を出して門の様子を確認したテオバルトが戻ってくると二人に告げた。



「パウル主人、ハンナ奥方様、信じがたい光景ですがご報告いたします」

「聞きましょう」

「数多の魔導ランプに照らされているアーチゲートの看板には次のように書かれていました。

 おいでませ信徒よ。女神クレセトが降臨せし聖地、ミルテ村へようこそ――と」



 意味がわからな過ぎてパウルの脳には宇宙が漂った。

 ミルテ村には女神クレセトが降臨した史実も無ければ、

 魔導ランプを数多く買い取る金銭的余裕も無いからである。



「いかがいたしましょうか? 警戒するに越したことはありませんが」

「これは……ある種の異常事態だよね?」

「はい。とは言え、人のいいミルテ村ですから、様子を窺いつつ注意して向かってみれば」

「あは……! あはははははは!」



 ハンナが狂ったように笑い出し、一体何事かと思えば、

 手綱を引いて、徐行速度で馬車を走らせ始めたので皆は驚いた。



「お待ちください奥方様……! 我々が偵察してきますゆえ!」

「ご心配なく~~!」

「ハ、ハンナ!?」

「ほらほら、テオバルトさんの報告通り見えてきましたよ?」



 徐々に近づき、目で視認できるところまで来ると、確かに歓迎の文言が書かれている。



「おいでませ信徒よって、ちゃんと書かれているではありませんか。

 なら心配は無用です。旦那さまとテオバルトさんにユリアーネさん。

 少なくともわたくし達には3人もの敬虔な信徒が居るんですから、だったら――ほらね」



 アーチゲートの5メートルほど手前で手綱を引き馬車を止めれば、

 門の向こうの脇から、ランタンを手に提げた村人たちがぞろぞろと現れ横並びとなった。


 その村人たちはパウル達の馬車めがけてダイソアー品の、

 『キラキラテープが散らからないクラッカー』をパパンッと派手に打ち鳴らすと、

 せ~のと声を潜ませたリヒトの音頭に合わせ、

 マルクト行商隊の皆様! ようこそいらっしゃいました! と声を揃え、

 歓迎の挨拶でもってパウル達を出迎えたのである。


 その肝心のパウルはと言えば、クラッカー特有の破裂音に思わず腰を浮かせてしまい、

 座席から滑り落ちそうになりながら、一体何事かと目を白黒とさせ。


 ハンナの方はと言えば、

 クラッカーから放たれたキラキラテープのきらめきぶりに目を奪われながらも、

 サッと手を横に伸ばすことで、護衛二人の突撃をピタリと制止させていたのだった。



「わたくしは心配せぬよう言ったハズですよ? 武器をお収めになってくださいな」

「すみません……。派手な音に気を取られてしまってつい」

「ご指示に感謝します奥方さま。危うく矢を射かけるところだった……」

「いえ、わたくしの方こそ勝手をしてすみませんでした。以後気をつけます故お許しを」



 真面目な二人の性格を考えたら軽率な行動であったとハンナは自省した。

 そこへ、村人たちの中から村長のミゲルが出てきて声をかけてきたのである。



「これはこれは……、驚かせてしまったようですみませんでしたな。申し訳ない。

 しかし、よくぞおいでくださいましたな。ミルテ村一同、歓迎いたしますぞパウル殿」

「ご、ご無沙汰しておりますミゲル村長様……。お元気そうで何よりです。

 馬車の上から失礼をば。アポなしでこんな収穫期の訪問をどうかお許しください。

 また、皆様の手厚い歓迎に対し、我がマルクト行商隊は心からの感謝を申し上げま――、

 どぅええええええええ~~!?」



 ミゲルへと頭を下げ、顔を上げ直したパウルはそのときになってようやく、

 ミルテ村の様子が一変していることに気がついたのである。



「村がっ……!? あのいつも土埃まみれで粗雑に感じる田舎特有の村がっ……!?」

「旦那さま?」

「教会を思わせる青緑色の村なみに……!! 生まれ変わっているじゃないか~~~~!?

 ――一体何が? ――何があったんです!?

 何をどうしたらこんなにも小綺麗な――ごほお!?」



 仕方なくハンナは、パウルの鳩尾に裏拳をめり込ませることで黙らせたのだった。



「申し訳ございませんミルテ村の皆様。失礼な主人に代わり、深くお詫び申し上げます」

「良い良い、良いのですぞハンナ殿。我々はパウル殿のような反応を期待していた故。

 大袈裟に驚いてもらった方が、今日という日の為に頑張ってきた我々や、

 一番の功労者である導師殿や同行者にとっても喜ばしいことですわい」



 ミゲルの言葉に合わせてリヒトとレイラが前に出てくるとマルクト行商隊に衝撃が走った。

 女神によって導師が召喚されること自体いつぶりかのことだったからだ。


 しかもそれが辺境の村からともなれば、自国では触れ役のメッセンジャーや、

 隣国なら新聞屋に持って行けば高値で売れる一大ニュースとなる。


 なにせ導師が召喚されたということは即ち、女神が存在する確たる証拠となるからだ。

 それは、クレセト教の教えなんて意味ねーよとないがしろにしてきた一派も。

 寄付や献金を募るのに長年苦労してきた教会も。


 ましてや、クレセト教会の総本山である【セレナード聖王国】に至っては、

 一部の王族や貴族が、自分たちの一族を〝魔力持ちにしてしまった〟経緯がある為、

 今さら女神が存在するなんて証明されても困るよと、

 導師の性格や女神から与えられた恩恵によっては、

 蜂の巣をつつく騒ぎになることは容易に想像がつくからだ。


 つまり、リヒトの一挙手一投足の次第では、如何様にも商売に転がる可能性がある。

 パウルとハンナは1行商人として、ここで導師の動向を掴まないわけにはいかなくなった。

 子爵嫡男からの脅しに屈した体の赤字直行慈善事業がまさかのまさか、

 儲け話に繋がるかもしれないと来たら、誰だって必死になるのは当然である。



「では導師リヒト殿とレイラよ、マルクト行商隊の皆様を例の場所までご案内してくだされ」

「わかりました」

「任せてください」



 ならばとテオバルトが気を利かせる。



「でしたら、護衛の我々が馬車の世話を引き受けましょう。

 すまないがオリヴァー、キミだけは残ってもらえないか?」

「見習いのつらいところっすが、もちろんっすよ~」

「オリヴァー? キミのそういう図々しいところは買っているけれど、

 取引先の方々の前なんだから、そういった態度は控えてもらえると嬉しいな」

「あちゃぁすいやせん、失礼しました~」



 馬車から降り立ったパウルはリヒト達に向かって揉み手をしながらペコペコと頭を下げた。



「どうもすみませんね導師様がた、うちの徒弟がお見苦しいところを」

「いえ、そんなことはないっすよ。それよりも。

 馬車の方は村の方々に任せて、皆さんは全員俺たちに付いてきてください。

 オリヴァーくんもそうなんですが、テオバルトさんとユリアーネさん達も、

 お客様として案内するよう仰せつかっているんですよ」

「おぉ! それはまた……まことでございますか?」

「もちろん。なにせあなた方は、誰あろう女神クレセト様からのご指名なんですから」



 ピタッと、マルクト行商隊一行の時間が止まった。

 何か今、とんでもないことをサラリと言われたからである。

 その反応にレイラがくすくすと笑った。



「クレセトさまったら大はしゃぎだったんですよ?

 〝私1推しの行商人一行と冒険者ペアがコンビで来ることになった〟って。

 そんなだから村の改装やアレやコレやで、わたし達みんなてんてこ舞いだったんですから」



 パウルのみならずハンナ、エルンスト、テオバルト、ユリアーネの順に、

 頭の中で点と点が線になって結びついていく。

 ミルテ村の者たちがどうして自分たちが来ることを知っていたのか合点がいったからだ。


 しかしその理由が、天におわす女神クレセトであって、

 自分たちが1推しされている行商人で冒険者? ともなると、はなはだ腑に落ちず。

 ただその内の一人ハンナだけが、

 信心深い旦那や慈善冒険者たちを女神は見放さなかったのだと納得したのだった。



「レイラの説明通り、だいぶ急ピッチではあったんすけどなんとか間に合ったんで、

 今日は皆さんをたっぷりお持てなしさせていただきますよ。

 というわけで、例の場所へ向かいがてら、様変わりした村の様子を楽しんでってください。

 晩餐までの間、何か質問があればお気軽にどうぞ。俺とレイラが答えますよ」



 そんなこんなでリヒト達はマルクト行商隊一行を連れて、村の中を歩き出したのだった。

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