第10話 パウル達との交流と世界の不具合
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例の場所と、名前を伏せられた目的地へと向かいがてら
リヒトたちが質問に答えてくれるというので、
パウルたちは疑問に思ったことを尋ねたのだが、それは驚きの連続となった。
まず一つ目に、収穫物の刈り入れがすべて済んでいたこと。
賦役やらアルドリックの妨害を踏まえると、
まだギリギリ終わっていなくともおかしくない日付だったからだ。
それに関しては一部の内容を伏せた上で、事の顛末がレイラの口から語られると、
20倍速で作業を進められる農具なんて、
やはり、実際に見てみなければ信じられないといった反応になった。
次にパウルが尋ねたのは、
村の通り道の景観を大きく変えている街灯――魔導ランプについてだ。
数が多いのもあり得ないことだが、市場に出回っているダンジョン産と比べても、
デザインや光量の点において高値の物より価値あることが見て取れたからだ。
そんな物をこれだけの本数、一体どこから仕入れられたのかという問いに対し。
それらも〝魔力を多めにして生成することで街灯サイズにしたんすよ〟と、
元のサイズのダイソアー品『ソーラーライト(挿すタイプ)』を目の前で生成され、
どうぞと手渡されると、パウルは今日一番の奇声を上げてぶっ飛んだのだった。
そんなやり取りにはさしものハンナも黙ってはいられなかった。
「導師さまは、元手なしの魔力〝だけ〟で、商品を生み出すことが可能なのですか?」
「そうですね……、答えはイエスですが、
生成できるのは俺が勤めてたダイソアーという店が、
商品として取り扱っていた物に限られる縛りがあるんすよ。
だから、豊富な品揃えとは言え、何から何まで生成できるってわけではないんです」
「ですが魔力〝さえ〟あれば元手なしに、無から有を生み出すことが可能なのですわよね?」
「ええ、それはもう。クレセト様が民のことを思って与えてくださった力ですから」
「…………、と言うことはですわよ?」
「あの、横からすみません。ハンナさまは何か、導師さまにご不満でもあるんですか?」
瞳からハイライトを消したかのような底冷えする声だった。
村を救ってもらった側のレイラからすれば、何かトゲがあるように聞こえたからだ。
ハンナは、自分が失礼な聞き方をしてしまったとその場で気づき滝汗を掻くこととなった。
「めめっ、滅相もございませんわ! もーし訳ございません導師さまにレイラさん!
わたくし商人の妻という立場ゆえ、夢のような仕組みの力がどうしても信じられなくて」
「いやはや! 僕の妻が失礼な物言いをしてすみませんレイラさん。
わたくしども商人はどうしても仕入れ値などが気になってしまうたちでございまして。
かくいう僕も、そんな力があったらと
脳内の羊皮紙に計算を書き込んでたところなんですよ」
「だそうだレイラ。ハンナさんはなにも悪気があって確認を重ねていたわけじゃない」
「わかりました……。こちらこそすみません……。
わたしにはなんだか、リヒトさんが悪く言われているように聞こえてしまったんです」
「そうか……。俺の為に怒ってくれたんだな? ありがとなレイラ」
「そっ、そんなんじゃないんですから……」
という、二人のやり取りを目にしながら、パウルは自分の妻に耳打ちしたのである。
「やっぱさ、女神様から与えてもらった力でボロ儲け――なんて、
導師様はそんなこと考えたりする人じゃないんだよきっと。
そもそも、かのクレセト様がそんな人間を導師に選んだりするわけがない」
「ですわねー……。フォローしてくださいましてありがとうございます。
今後はもう少し旦那さまを見習って、信心深くあろうと努力いたしますわ」
「うん、それがいい。
エルンストとオリヴァーも、導師様たちの前ではガツガツ行かないよう注意しよう」
「承知いたしました」
「生産者さんを怒らせるほど怖いことは無いっすもんね」
マルクト行商隊はそんなやり取り一つを取っても商人としての自戒に結びつけたのだが。
リヒトが、ミルテ村と神託の森を〝へだてる塀〟を
『多用途ペイント塗料のピーコックブルー』と『ペイントローラーセット』でもって、
たったの一塗りで
〝見渡せる限りの塀の全面を瞬時に塗り潰してみせた〟パフォーマンスには、
さすがの慈善冒険者ペアでも、引くほど驚く様子を見せてしまったのだ。
「ウソ、だろ……!? さすがにコレは……」
「女神の奇跡と言ったって……、こんなの、塗装屋が失業しかねない行いでは……?
――って、まさか!? さわってもみてくれテオ! この塗装……、もう乾ききってる!」
「オイオイ、ユリにしては面白い冗談だな? さすがにそんなわけあるハズないだろ。
……本当だ……」
「補足すると、塗料も拡大解釈品なので、風雨なんかで塗装が剥げる心配も無いんすよ。
あと、塗った対象の強度も上がって。経年劣化を防ぐ効果もあって。
中でも一番の目玉は〝とある耐性〟を持たせたことなんです。
なので、この塗料で塗ってしまえば、大体の物が長持ちする寸法なんすよ」
パウルは先ほど自分の部下に注意を促した手前なんとか己を自制できたが、
危うく売ってくださいとリヒトに縋り付くところだった。
仮に商品として扱うのが難しくとも、そんな塗料があったら誰だって欲しいに決まってる。
だが、テオバルトとユリアーネの反応は商人たちとは違うものだった。
「あり得ない……、女神の奇跡とはつまり、自然の摂理に反することなのか……?
ズルいだろこんなの……」
「いくらクレセトさまのお力にしたってインチキにも程がある……。
とは言え……、ちまたの希少な魔導具も、ウソをホントにするような効果を持つと聞く。
物の見方を変えれば、夢のある力――と、言えなくもないのかもしれないが……」
どうにも奇跡の凄さを受け入れられず、腕を組んで考え込んでしまった二人に、
またもや不穏なオーラを発して迫ったのはレイラだった。
「テオバルトさんもユリアーネさんも……、リヒトさんが考えて施してくれた行いを、
どうしてインチキだのズルだのと悪く言うんですか……?
ちょっとわたし……、怒っちゃいそうなんですけど」
拳を強く握りしめユラユラ迫ってくるレイラからは言い知れない恐怖があった。
「待った待った待った待った!」
「済まない済まない済まない!
その――、私たちは少々……、負け犬根性が染みついてしまっていてな……」
「ダンジョンにどれだけ潜ろうとも、
役立つ魔導具を手に入れられない、慈善冒険者特有のひがみっつーか……。
妬ましさもあって、二人でボヤくのが習慣になってしまっているんだ……」
言われてレイラも二人がそうだったと思い出し気まずくなった。
「とは言えだ。リヒト殿がミルテ村のことを思って起こしてくれた奇跡なのに、
やっかんだことを口にしてしまって済まなかった――、申し訳ない」
「私も謝罪する。この通りだ、許してくれ」
二人から頭を下げられて、レイラも頭を下げ返した。
「すみませんわたし……、クレセトさまからお二人のことを聞き及んでいたのに……」
「商品を生成してる俺自身も、いいのかなコレって思うところもあるんで、
3人ともそれくらいにしてくれると有り難い。俺も肩身が狭くなってしまうからな」
「面目ない」
「そうか……。導師さま自身が自覚してるのなら有りか?」
「だな。そこんところは女神様もわかっててリヒト殿を選んだのだろう」
「わたしもその通りだと思います!」
レイラの機嫌が直ってなによりなのだが、リヒトは話を続けた。
「ただ、今のノマル大陸は、こうした奇跡でも起こさなければならない状況にあるんです。
今の情勢というのは元を正せば『次元の歪み』から現れた『ダンジョン』によって
世界の各地に格差が生まれている。
それをクレセト様自身が〝意図せぬ世界の不具合〟だと仰ってるんですよ。
そしてその世界の不具合に、あなた達は知らぬ間に巻き込まれてるんです」
「俺達が……?」
テオバルトと顔を見合わせたユリアーネは、首を傾げてからリヒトに尋ねた。
「具体的には、どんな辺りで?」
「ダンジョンが人を選んで、魔導具をドロップしてるからなんです」
衝撃の雷が、慈善冒険者ペアどころかマルクト行商隊すらも襲った。
「もっと正確に言えば、ダンジョンが粗暴な人間を選んで
魔導具を配っているようなもの――、だそうです」
「そんなっ……!? ウソだろう!?」
「いや……、大いにあり得る話じゃないかテオ!
だから素行の悪い奴らばかりがバンバン出世してるんだ!」
「……それもそうか。考えたくもない可能性だが……、そうなると、俺達はどうなるんだ?」
あの~とパウルが挙手をしてから尋ねた。
「ダンジョンはどうしてそのようなことを? ダンジョンに意思のようなものが?」
「いえ。次元の歪み自体が、争いの火種を絶やさぬようにしているんだとか。
ただそれも、クレセト様からするとそういった絡繰りに見える――という話で。
なぜ次元の歪みが発生して、争いが広まるようになっているのか、
その点はまだよくわかっていないと仰ってました」
「では! 女神様にも計り知れない事態なんですか!?」
「そうなると……、世界を揺るがす一大スキャンダルではありませんか……。
しかし得心しましたわ。今でこそ【魔導商会】が各国に存在しますが、
その昔、世の統治者たちが金に物を言わせて魔導具を買い漁っていたという風聞、
あれは本当だったのですわね……」
「そうなんすよ。
荒くれ者が発掘した魔導具を、善良な人が〝買い取ること自体は〟できるんです。
ただ、その仲介役に問題があるらしくて――」
「あの、それってもしかして、戦争屋だとか噂されてる【裏魔導商会】のことですか?」
「おぉ、さすがはパウルさんだ。よくご存知で」
「いえ……、僕なんかは小耳に挟んだ程度ですよ。
ただ……、自分と同じ商人だとは名乗らせたくない――、くらいには思ってます」
さすがはクレセト様が見込んだ人だと感心していたところ、
リヒトはテオバルトから両肩を掴まれた。
「教えてくれリヒト殿! つまり俺達のような冒険者は――」
「ええ。自力で魔導具を入手するのは実質不可能だとクレセト様が断言してます」
「断……言!?」
「ですが、クレセト様はそんなあなた方を絶望させたりはしません。
だから俺のようなデタラメな力を持つ導師が召喚されたんすよ。
そしてどうか皆さんには、迷える民の救済の為に、俺たちの支持者となってもらいたい。
――と、その前にですね……」
リヒトはそう言って、テオバルトが掴んでいた手をやんわり解くと。
塀の戸のかんぬきを開けに行き、扉を開けて、信託の森の方を指し示した。
「実は、枯れていた公衆露天風呂を掘り直して、
村のみんなで突貫工事して、男湯女湯に分けてなんとか間に合わせたんすよ。
詳しい話は風呂でリラックスして、晩餐を終えた後にでもじっくりしましょう。
大丈夫っすよ。女神様は信心深いあなた方を決して見放したりはしませんから」
笑顔で案内に歩き出したリヒトとレイラに、
それならばと、パウルとテオバルトたちは付いていったのだった。




