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ダイソアー店員は異世界で導師となる  作者: 毒味係りの直岡
ミルテ村の救済編

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5/12

第5話前編 ミルテ村の人たちと拡大解釈品の実演

 × × × 03




 ミルテ村の小麦畑は細長い帯状の形で、

 緩やかな丘から下部の方へと果てしなく広がっていた。


 ここに来るまでの道中、リヒトがどのくらいの広さがあるのか聞いた際、

 ウチの耕作地は近隣の農村に比べて、

 四分の一にも満たないとミゲルから教えてもらっていたのだが。


 これだけの規模があって不作と言われると、

 リヒトは自分の認識が甘かったことを理解した。



『今、この様子を見れば、どうしてミルテ村に救済が必要なのかわかったでしょ?』

「ええ……。ザっと数えても、お年寄りから子どもまで、120人いるか居ないかっすね」



 どう見積もっても、この畑の広さに作業人数が釣り合っていない。



『ちなみにだけど、25mプールの何個分の広さがあると思う?』

「えっと…………、何個分なんすか?」



 実際に自分の目で見ても想像のつかない広さなのだ。

 よって、クレセトから眩暈がするような個数を聞かされて、リヒトはぶったまげた。



「この広さを? 4日以内には刈り取らないとならないんすか? コンバイン無しで?」

『あなたねえ? それを言ったら、本来なら大麦を刈ってからなのよ?

 ライ麦だって残ってるんだし』


「じゃあそもそも……、収穫作業の時点でギリギリじゃないっすか」



 こうして丘の上から見下ろしていると、

 これからが朝食なのか、煮炊きを始めている食事班と。

 よほど切れ味が落ちているのか、手鎌を研ぎ直している鍛冶師班に列ができ始めている。


 一方、いくつかの木陰ではタープを張って日陰を拡張し、

 何をするでもなく人の作業を見守っている何組かの家族らしき姿も見える。



『アレはね、農具の数が足りてないから、鎌や手袋の交代を待ってる世帯なのよ』

「そんなことあるんすか!?」


『もっとよく見てちょうだいな。だからあの辺の駐在冒険者たちなんかは、

 ナイフだの剣だの斧だのを使って、やりづらそうに手伝ってるでしょ?』


「いや……? ミルテ村は、鎌や手袋も揃えられないほど困窮してるんすか?」



 女神クレセトは反吐を吐くように言った。



『まさか……!

 例の子爵の息子アルドリックが嫌がらせで奪ったから、こんな事態になってるのよ』

「それじゃあもう村を潰す気じゃないっすか!」



 レイラとミゲルが声をかけて回り、刈り取り作業中であった村人たちが手を止めて、

 煮炊きと鍛冶師の広場に集まりつつある。


 そこの下方へと向かって、リヒトは緩やかな丘を勢いよく駆け下りて行った。




 × × ×




「お忙しいところお時間いただきありがとうございます!

 本日付けでミルテ村に着任いたしました、導師リヒトと申します。

 異世界ではダイソアー――、という名の雑貨屋に勤めておりました!

 その経験を活かし、一刻も早く皆さまのお役に立てるよう精進いたします。

 至らぬ点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします!」



 折り目正しくリヒトが頭を下げてみせると、意外なことに、

 100人を超える村人たちが、自分たちの忙しさや焦る気持ちを抑えながらも、

 温かな拍手で迎えてくれた。


 恐らくは健康老人となったミゲルが、自分の走り回れる状態を証拠として、

 皆に呼びかけて回った際に、リヒトに失礼のないよう言い含めてくれたのだろう。


 しかしそれ以上に、ミルテ村の人たちの感じの良さが、

 接客業をしていたリヒトには肌感覚でわかるものがあった。


 もちろん賦役の関係で、働き盛りの年齢層が、

 領主の耕作地へ駆り出されている点もあるかもしれないが。


 〝どうやら奇跡的にも〟良い人たちだけで構成されているのがミルテ村である――、

 という空気が窺えたのだ。


 ならば、レイラのことを抜きにしても放っておくわけにはいかない。

 だが、前もって断っておかなければならないこともあった。



「それでですね、さっそく取り掛かりたいんですけど、

 これから俺が、刈り手の皆さん全員に鎌を用意いたします」



 そんなリヒトの言に、

 は? え? ウソだろ!? という驚きとざわめきの声が村人たちの間に広がった。



「その上で、鍛冶屋を営んでいる鍛冶師の方々に許可を頂きたいんです。

 何故なら、これから俺が行うことは、あなた方の仕事を奪うことになるからなんです。

 もちろん、後々では――」

「いいぞ」



 後々ではフォローいたしますので、

 どうか今だけはお許しくださいと、最後まで言い切ることもなく。

 ドワーフのような厳ついこわもての男が、リヒトの前へと進み出てきてくれた。



「ワシはゲンという者だ。鍛冶屋で親方をやってる。

 今はただでさえ刈り手も道具も足らん状況だ。

 よって後のことは後、今のことは今。

 手鎌が足りるならワシら家族だって収穫に参加する。

 導師様の好きにしてくれていい」



 やはりリヒトの見立てに間違いはなかった。

 その気っ風の良さに、最大限の礼を込めて頭を下げる。



「ありがとうございます親方!」

「うむ」


「それでだ、レイラ」

「なんでしょう?」


「無学な俺に教えてくれ。小麦を刈り取る際、みんなはどんなところに苦労してる?」


「え? えっと、そうですね……。わたしも結構刈り取りしてるのでわかるんですけど、

 腰を屈める作業がずっと続くので、腰痛とか関節痛にもなりやすいです」


「おお、そうなのか……わかった。他には?」

「後はやっぱり……、集中力が落ちてくると、鎌で指を切っちゃうことが結構ありますね」


「レイラ嬢ちゃんの魔法に、村のみんながどれだけ世話になったかわからないくらいにはな」

「そうなんすか……! いや、確かに……、これだけの規模ともなると、

 どれだけ注意してても防ぎようがないっすよね……、わかりました」



 ゲン親方の補足もあって、

 これから生成する商品にどんな拡大解釈を持たせるべきか、案が定まった。


 しかし今回の場合も、

 女神クレセトの許可が下りるものか不安に思ったところ、天から声が降ってきた。



『それでいいのよ導師リヒト。中途半端な商品じゃ誰一人として救われないわ。

 その調子で大それた発想を続けなさい』

「マジすか……! 感謝いたします、女神クレセト様」



 女神と交信していることが村人たちにもわかるように、

 リヒトはひざまずいて祈りを捧げるように手を組んだ。



『ただし、何十個も一気に生成しようとしないこと。

 あなたの魔力だって無限じゃないんだから。

 手鎌と別商品の生成で、今日一日分の魔力は尽きてしまうはずだわ』


「そうなんすか……!?」


『そこでよ、レイラちゃん?』

「は、はい……!」


『魔力持ちのあなたなら、

 消耗したリヒトに手をかざして魔力を分け与えることができるの。

 彼のそばにいるだけで消耗の度合いがわかるようにしてあるから、

 よく観察するようにして。

 商品管理ならぬ〝魔力の在庫〟を感じ取れるように、

 あなた自身も修練を積んでってちょうだい』


「はい……! 精進いたします!」



 リヒトの意を察して、レイラも同じポーズを取って答えた。

 すると村人たちの間から、村長のミゲルが心配したのか前へと出てきた。



「導師殿、レイラよ、何か不都合がございましたかな?」

「いえ」



 リヒトは首を振ってから立ち上がり、こう答えた。



「クレセト様が仰るには、駆け出しの導師である俺でも魔力持ちのレイラから、

 魔力を分け与えてもらうことで、使命を全うすることができるだろう、とのことでした」



 その言葉に、村人たち全員から「おおっ……!」と感嘆の声が上がった。

 そして当然のこと、魔力持ちの自分が居ることでなんとかなりそうだと、

 リヒトが強調してくれたことにレイラは気づいた。



(導師さま……! わざわざわたしの為に)


「それじゃレイラ。手鎌を生成する前に、今度は小麦の束ね手さん達について教えてくれ。

 女性の方々はどんな点に苦労されている?」

「そうですね、えっと……」

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