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ダイソアー店員は異世界で導師となる  作者: 毒味係りの直岡
ミルテ村の救済編

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第4話 ミゲル村長へのご挨拶と商品の提供

 × × × 02




 神託の森とミルテ村の境目。

 森と村を仕切る塀の、開け放した門の前で。


 口元に白髭を豊かに蓄えた禿頭の村長ミゲルは、

 ちょうど良い高さの石に腰かけて、古びた杖を突いた状態で、

 レイラと導師の到着を待っていた。


 レイラが聞いた女神クレセトのお告げによると、

 着いてすぐに旅立つわけではないとのことで。

 一旦村長の家まで案内し、今後どうするのか流れを聞いてから、

 レイラと皆で別れを済ませようという話になっていたのだ。


 とは言え、今は刈り入れの時期。増税の件もある。

 隣街の地方都市かどこかで借り入れる算段もつけなければならない。


 どこかでタイミングを見計らえたらいいのだが、正直、時期が悪いとしか言えなかった。

 幼いころからアレだけ村に尽くしてくれた少女に対して、

 なんの計らいもできず、碌なお別れもできずに送り出すしかない。


 せめて、今日呼ばれた導師がレイラを思いやってくれることを祈るばかりであると。

 そんなことを考えていたミゲルの前を、森の方から門をくぐって、

 二つの人影が猛スピードで駆け抜けてゆき。


 すぐさま引き返してきて急ブレーキをかけると、

 それがようやくレイラであることにミゲルは気づいた。



「村長さま!」

「おおっ……!? レイラよ、随分と早かったではないか。

 ――とすると、そちらの方が?」



 門の戸を閉めに行って、かんぬきをかけて二人のもとまで戻ってくると、

 リヒトはミゲルの前で『ダイソアー店員のエプロン』を生成し、

 羽織って腰のところで紐を結んでから自己紹介した。



「初めまして、俺はダイソアー導師のリヒトと申します。

 道中レイラから聞きました、村長のミゲル様っすね?」

「いかにも。ミゲルと申します。導師殿よ、よくぞおいでくださいました」


「あのですね村長さま、急遽予定が変更になりまして、

 導師さまが麦刈りを手伝ってくれることになったんです!」


「おおっ、なんと……! それは今からですかな?」

「はい。それで、後々のことを考えても、

 このままミゲル様を置き去りにして手伝いに行くわけにもいかないって事になりまして」



 ミゲルは首を振ってみせた。



「いやいや結構。もう足腰にガタが来ている老いぼれですわい」

「それを導師さまがなんとかしてくれるかもしれないんです!」

「ほう?」


「とにかく急ぐんで、やれるだけのことはやってみましょう。生成……!」

「おおっ……!!」



 先ほどのエプロン生成では伝わらなかったが、今度の『スチール製ステッキ』生成で、

 リヒトがどんな導師であるのか、ミゲルにも少しは理解できた。



「この通り、杖を手放しても問題ないようにストラップも付けたので、

 ここに腕を通して使ってみてくださいっす」



 リヒトからステッキを手渡され。



「なんと……!? これほど軽い上に、ここまで滑らかな仕上がりとは! 職人技ですな。

 グリップは昆虫系の素材のようで、この手触りと質感はかつてさわったことがない。

 いやはや、こんなにも上質で贅沢な物を……、よろしいのですかな?」


「もちろんっす。ミゲル様用に生成したものですし、

 なによりも、女神クレセト様からのお慈悲なので、受け取ってください」

「それはそれは……! 有り難いことですな」



 そうして古びた杖と持ち替えて、ステッキを突いて立ち上がると。

 よぼよぼで足腰の悪くなっていたはずのミゲルが、なんと、

 老人らしからぬ動きで、スタスタと歩き始めたのだ。



「村長さま!?」

「なんと……!? これは一体どういうことか!? 妙に身体が軽いではないか……!!」



 その間、ものの数分である。


 ステッキによる歩き心地を確かめている内に、曲がっていた腰がまっすぐに伸び、

 程なくステッキで突くまでもなく、

 しっかりとした足取りで、競歩レベルにまで早く歩けるようになり。


 その内に確信でも得たのか、本気ダッシュで辺りを走り始め。

 リヒトとレイラのもとまで戻ってきて、自分の息が上がっていないことに気が付くと、

 ミゲルは目が飛び出さんばかりに驚愕したのである。



「導師殿!! この杖は一体……!?」

「わたしも気になります! どんな解釈を与えてくださったんですか?」


「あぁうん、二人とも落ち着いてくれ。

 俺もまさか、ここまでクレセト様が許してくれるとは思ってなかったんだ。

 要は、生成した俺自身が一番驚いてたりするんだよ。その上で確認してくれよな?

 商品ステータスオープン!」



■――――――――――――――――――――――――■

 健康若返りステッキ


 固有効果は『健康状態固定』『徐々に若返り発動』

 ただ杖を突いて歩くだけで健康を取り戻せる。

■――――――――――――――――――――――――■



 その文面を見て、レイラとミゲルはあまりの恐れ多さに息を呑んだ。



「つまり村長さまは……!! 若返ったってことですか!?」

「これはもはや! 神の御業ではございませぬか!?」


「その通り。言うなれば女神様が許してくださった一つの奇跡なんすよ。

 それに、村長のミゲル様には、まだまだ村の舵取りをしてほしいって、

 クレセト様からの伝言っす」



 その言葉に、深い皺に刻まれた顔を喜びに歪めて、ミゲルは瞳に涙を浮かべた。



「おぉ女神よ……! ありがとうございます! ありがとうございます……!!

 深く深く、心の底から感謝いたします……!! ありがたや~ありがたや~!」



 地面にひれ伏し、天への祈りを何度も捧げ終えた後。

 レイラの差し出した手を有り難くも辞退して。


 少しも危なげなく、ステッキで地面を突くこともなく、ミゲルはすくりと立ち上がると。

 リヒトに対しても、深々と頭を下げてくれたのだ。


 なので当然リヒトは慌てた。



「いやいや! いいんですってミゲル様!

 俺なんかはクレセト様の遣いみたいなものなんすから」


「だとしても――、あなた様が来てくださってくれて良かった……。

 本当にありがとうございます」


「わたしからも、ありがとうございます!」

「レイラまで……。

 俺は拡大解釈をしただけに過ぎないって、キミならわかってるだろ?」


「それでも! こんな奇跡みたいな贈り物、ダイソアーの導師さまでなかったら、

 クレセトさまだってお許しにならなかったと思います!

 それに、村長さまが健康になってわたしも嬉しいんです。

 だから、ありがとうございます!」



 心からの笑顔と感謝を向けられて、リヒトは少し不思議な気持ちとなった。


 ダイソアーのお客から商品の場所を問われ、案内し、

 ありがとうと礼を言われることなど日常的な接客業であったのだ。


 故に、礼を言われたことがないわけではないし、

 自分だって客として店を利用したことがある。


 それでも、感謝されたことに不思議な感を覚えたのは、

 リヒトが数えきれない程の笑顔を浮かべて、

 ありがとうございますと言い続ける側の人間であったからだ。



「良かったですね、村長さま」

「うむ。腰痛ともオサラバできて清々したわい」



 そんな、ありがとうございますを言い続ける側だった自分が、

 スチール製ステッキを、健康若返りステッキに変えて、今度は逆に感謝されている。


 無論、ダイソアー商品でこんな勝手なことをして、

 本部に知られたりしたら大目玉ではある。

 だがそのときは、元の商品のPRにもなってますなどと誤魔化しゃいいかと、

 異世界に来てまで要らんことを考えながらも。


 それでも――、こうした拡大解釈の生成が、

 誰かの為になって喜ばれることに、リヒトは純粋な嬉しさを覚えた。



「では導師殿、そろそろ参りましょうか。お時間を取らせてすみませんでしたな」

「いえ。俺としても、記念すべき救済の第一歩目を喜んでもらえて何よりです。

 ――と、畑へ向かうその前に」



 リヒトはまた一組の中敷きを生成すると、ミゲルへ手渡した。



「これを、靴の中の底に敷いてください」

「ほう……? これは一体?」

「こんな感じの物なんすよ。商品ステータスオープン!」



■――――――――――――――――――――――――――■

 韋駄天インソール


 固有効果は『俊足能力上昇』『疲労軽減』

 靴の中に敷いておくだけで長距離を楽に速く移動できる。

■――――――――――――――――――――――――――■



「ほほう……! それで〝あの速度だった〟わけですな」

「そうなんすよ。

 それとクレセト様が仰るには、今のミゲル様であれば使用しても問題ないとのことなんで」


「絶対に使うべきです村長さま! だって、

 神託の森から、馬車で飛ばしたような速さで戻って来られたんですから!」



 ならば、お言葉に甘えるしかありませんなと。

 韋駄天インソールを装備した爆速村長に案内されて、

 二人は小麦畑へと向かったのだった。

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