第3話 店員のお勧め品と当面の目的
「あの……導師さま、何か不都合でも?」
リヒトはこれでも感心していたのだが、レイラを心配させてしまったらしい。
「ああいや……、逆に合理的だなと思ってたんだ。
だってそうだろ? もし俺が無理な生成をしようものならクレセト様に筒抜けとなる。
つまりは、導師に好き勝手させないための仕組みとなっているわけだ」
『ああーもうバカバカ! ほんとバカ!
なんのためにチート能力を与えたと思ってんのよ!』
リヒトとレイラは思わず両手で耳を塞いでしまった。
『民衆ってものは! 派手な奇跡でも起こらない限り!
神の恩恵を感じられない生き物なの!
だって言うのに! そこで折角のチート能力をセーブしちゃってどうすんのよ!?
逆にイキらないで何をするって言うのよ!? そんなんで迷える民を救えるってわけ!?』
その捲くし立てにはさすがに降参せざるを得なかった。
「わ、わかったっすよ……。俺がダイソアー商品を生成して、
その固有効果の凄さで、神の威光を取り戻そう――、ってことっすよね?」
『そういうことよ、まったく……。
じゃあレイラちゃん、そこの大蜘蛛の亡骸をリフレッシュで浄化してもらえる?』
「あ、はい! お任せください!」
『体液なんかの毒素を無くしてもらうから、あなたが解体するのよリヒト?』
「ええっ……!? 俺がっすか?」
『これだけ大きければ、素材としても珍味としても高値が付くものだから』
「導師さまは知らないかもですが、ほぼカニと同等の食材として扱われてるんです。
隣街でご馳走してもらったことがあるんですけど、結構美味しいんですよ?」
真っ二つになっているグロい大蜘蛛を前にして、
ニコニコと平気で浄化魔法をかけている辺りはさすが異世界人である。
『それで? こんなときダイソアー店員は、どんな商品をオススメするのかしら?』
「いえ……、普通にカニだったら『カニ用ハサミ』をお勧めするんすけど……」
『じゃあそのカニ用ハサミに、レイラちゃんを驚かせるような、
女神の奇跡を思わせる拡大解釈と、意味付けをすればいいだけのことよ?』
クレセトの言っていることはリヒトにもわかるが、
いきなりそんなことを言われても、大蜘蛛の巨体を前にしては、
カニ用ハサミでどうしたらいいものかと、イメージが湧かずに途方に暮れてしまう。
『しょうがないわね……。なら一つアドバイスよ?
生成にはあなた自身の魔力を消費するから、
消費魔力を増やすイメージで、商品のサイズを大きくしたりもできるわよ?』
「そんなことまでできるんすか!?」
『――ま、ホントはもう少し後で教えるつもりだったんだけどね。
これなら少しはやりやすいんじゃない?』
言われて、リヒトは少し考えた。
「なるほど……、だったらできるかもしれないっすね……」
つまり、カニ用の、普通サイズのハサミでイメージするから難しかったのだ。
であるならば――とリヒトは、両手で持たなければ使えないような、
〝50センチ大のカニ用ハサミ〟を生成したのである……!!
「ええええええ!?」
馬鹿みたいなサイズのハサミが突如として現れれば、レイラでなくとも驚くだろう。
「よし……! うまくいったな!
まあ、拡大解釈がどこまで通用するかはわからないが……、レイラ、見ていてくれ」
「は、はい……!」
そう伝えたリヒトが、大きなハサミでもって大蜘蛛の足を一本、すんなり切り落とすと。
スパンッと切ったときの音が、一拍後に、ズバンッと多重奏となって響き渡り。
レイラが瞬きした次の瞬間にはもう。
大蜘蛛の〝解体作業がすべて済んだ状態〟で、身と殻の陳列までも終えられていたのである。
それはあたかも、誰かが解体作業を〝一瞬で〟済ませてくれたかのような光景であった。
「え……? ええええ~~!?」
「うわっ……!! ウソだろう……!? …………いやまあ、
解体作業なんて正直やりたくなかったから、有り難くはあるんだが……?」
「ちょっ……ちょちょちょちょちょ!? 一体なにが起きたんですか導師さま!?
わたし今……? 立ちながら寝ていたりしたんですか!?」
瞳を真ん丸にしてレイラが迫ってきたので、リヒトは脇に大きなハサミを置いた。
「いや、そうじゃないんだ。…………そうだな?
言うなればこれこそが、女神クレセト様が起こしてくれた奇跡――、と言えるだろう」
『上出来よ導師リヒト! 商品ステータスオープン!』
クレセトが勝手に大きなハサミのステータスを開くと、そこにはこう書かれていたのである。
■――――――――――――――――――――――――――――――■
大蜘蛛用ハサミ
固有効果は『大蜘蛛限定瞬間解体』
ハサミで一部を切るだけで、解体作業が全て一瞬で終わる。
■――――――――――――――――――――――――――――――■
「ええっ……!? ええええ~~……!? …………。
か、解体作業が? 全部? 一瞬で、終わる……?
ど……、どういうことなんですかそれ?」
『う~ん……、仕組みで言えば、
回復魔法で火傷と同時に溶けた服まで直っちゃう現象と一緒よ?
まあ、その遥か上位互換が奇跡だと思ってもらえればいいわ。
と言うかよ。このノマル世界にリヒトを呼べてること自体、
そのリヒトが、オモチャみたいな棒や大きなハサミをポンと出せてること自体、
結構な奇跡でしょ?』
「た、確かに……!」
「いやまあ……、それと比べたら、大蜘蛛を瞬間解体できるくらい、
大差ないと言われたらその通りなんすけどね……」
二人の反応に女神クレセトはため息をついた。
『あなた達にやってもらいたいことはまだまだこんなものじゃないんだけどね。まあいいわ。
ダイソアー商品生成スキルと一緒に、アイテムボックスも使えるようにしてあるから、
商品二つと大蜘蛛の素材に手で触れて、ちゃっちゃと回収しちゃいなさい』
リヒトは我が耳を疑った。
「そこまでサービスしてもらえるんすか!? 容量の程は……?」
『変に賢く使おうとしたり、悪用したりしなければ制限を設けたりはしないわよ?
生成スキルと同等に、アイテムボックスのシステムもこっち持ちなんだから』
「あざっす!!」
「えっと、クレセトさま? アイテムボックスというのは一体?」
『あぁ、こっちで言うところの空間収納よ。
ダンジョンの出入り口で、行きは現れて帰りには消える魔導バッグが有名でしょ?』
「ええっ……!? それって、物が沢山入って、軽くて便利っていう、あの?」
『それをリヒトは魔導具なしで使えるってわけ。ほら、見てなさいよ』
二人が話している間に終えては悪いと待っていたリヒトは、
ウキウキ顔で「収納」「収納」と、
さながら手品の如く、手で触れた物をアイテムボックスの中へ回収していく。
ようやく異世界モノらしくなってきた展開に、
心が躍り出しそうになっていたリヒトであったが、
ふと、懸念に思えるポイントが浮かび上がった。
「しかしっすよクレセト様……? ダイソアー商品を生成して人助けをする。
そうしてクレセト様の威光や信仰を取り戻すのはいいとして……。
もし、拡大解釈を付与した商品が悪人の手に渡ったりしたら、ヤバいじゃないっすか。
そういうのってやっぱり――、いや、待てよ……?
それさえも拡大解釈品で、事前に対処しておけば済むのか……?」
『なかなかいい目の付け所をしてるじゃない。レイラちゃんはどう思うかしら?』
アイテムボックスへ物が消えていく様を目の当たりにしてから、
何やら考え込んでいた様子のレイラは、
女神クレセトから話を振られて、そのときにハッと気づいたのである。
「そう言えば……! 導師さまに関するクレセト教会法……!! 確かアレって……!」
『よくぞ憶えてました。この世界にはね?
導師の力を悪用しようとする者に神罰を与えるっていう、
それはもう古~~い教会法があるのよ』
などと言われても、普通は「へえ」くらいにしか思わないだろう。
「でもそれって、人を従わせるための脅し文句っすよね?」
『そうよ? 導師の力なんて〝今までは〟悪用のしようが無かったからね。
この私が! 自分で! 教会法として定めて、
世界のシステムにまで組み込んでおきながら、
そんなときは一向~~に訪れることのない……、なんならカビの生えた法よ?
でも、この世界で生きる上では必修の教えになってるの。
知らなかったじゃ済まさないわ』
セリフの最後にドスが利いていて、リヒトとレイラは思わず顔を見合わせてしまった。
二人ともクレセトが何をしようとしているのかわかってしまったからだ。
「つまりは……、単なる脅し文句ではなく、ガチの神罰になるってことっすね?」
『そういうことよ。じゃなかったら救済も世直しもあなた達だけにさせようがないじゃない。
いい? 今は強引な手段を使ってでもメスを入れなきゃマズイ情勢になってんの。
それがミルテ村に課された増税という形で現れてるでしょ?』
再び表情を曇らせるレイラを見て、そういうことかとリヒトは話の流れを理解した。
「ってことは、まずはミルテ村の増税対策からっすね」
「えっ……!?」
「いいかレイラ? キミが村から出ていけば問題が解決するかと言えば、コレは違うはずだ。
あんなやり方で求婚を迫ってくる子爵の息子だぞ?
キミが知らぬ間に出立したと知ったら、
後でミルテ村にどんな報復をしでかすか知れたものじゃない」
サッと青ざめたレイラが、リヒトの胸元にすがりついた。
「それは困ります! どうしたらいいんですか!?」
リヒトはレイラの両肩をそっと押し返してから尋ねた。
「その前に教えてくれ。ミルテ村は何を多く納税するように言われているんだ?」
「良質な小麦を……! 例年よりも二割は多く収めるようにと……!」
「わかった……。じゃあその小麦はいつ収穫する予定なんだ?」
「今年は特に不作で……、その都合で前倒しになって今日からなんです」
「今日からなのか! それなら、それは何時から始める予定なんだ?」
レイラは「いえ」と首を振ってみせる。
「もうこの時間なので……、みんな刈り取りを始めてる頃ですよ?」
「こんな朝早くから作業しだすのか! なら、急いで手伝いに駆けつけないとな」
「ええっ……!?」
『よくわかってるじゃない。導師リヒト、まずあなたがすべきことはミルテ村の救済よ?
村の人たちが困っていることに手を貸して、
村の状態を盤石にした上で、心置きなく旅に出るの。そうしておけば――』
「いつか旅の終わりに、気が変わったときにでも、
レイラの帰るべき場所が残っている――、ってことっすよね?」
『正解』
「クレセトさま……! 導師さま……!」
『感激するならもっと後よ? これからが肝心なんだから。
いい? この神託の森からミルテ村を経由して小麦畑までは結構な距離があるわ。
モタモタしてたら絶好の機会を逃すことになるの。
こんなときダイソアー導師のあなたはどうすべきかしら?』
「それについてはもう考えてたんすよ。生成……!!」
リヒトが両手に商品を念じると、現れたのは二枚一組の中敷きが二つ。
「導師さま、それは……?」
「靴の中に敷いて使う『高反発スポーツ インソール』だ!」




