第2話 ノマル世界の情勢と商品ステータスオープン
『それでね、鏑木リヒト。今あなたに斬ってもらったのが、
このノマル世界で長らく生じている〝次元の歪み〟という問題事なのよ』
「次元の歪み……? ってことは、あ~~!」
リヒトの視線を受けて、苦笑いをこぼすレイラ。
『わかってもらえたようね。
次元の歪みからは、
別世界の異世界人が何らかの拍子にこちらへ通り抜けて来てしまったり。
さっきみたいに、こちらでは存在しえない強力な魔獣の巣と繋がったり。
それどころか、魔導具や神器なんかが手に入るダンジョンまで現れたりして。
元から住んでたこの世界の住人、ノマル人たちに大きな影響を及ぼしているのよ』
クレセトが大きなため息をついてみせたので、リヒトにはピンと来るものがあった。
「じゃあ、ノマルの人たちは〝魔力を持ってなくて〟魔法は使えない……みたいな感じすか?」
『そうなのよ。でもね~……。ノマル人と魔力持ちが子を作ると、
その子どもが魔法を使えるようになるって、広く知れ渡っちゃってるのよ』
故に、その魔力持ちの人権を保護するための、
女神クレセトを祭るクレセト教会が存在すること。
その魔力持ちを元の世界へ送り返すための『旅立ちの遺跡』という次元転移装置が、
数少ないながらも遠方の地に存在していること。
魔力持ちは少女であることが多いため、旅立ちの遺跡までのエスコート役として、
今までにも『導師役』が不定期に召喚されていたこと。
話をまとめると、魔力持ちは本来であれば手厚く保護されるべき対象なのだが……。
一方で『次元の歪み』から現れたダンジョンからは、
攻撃魔法を行使できる希少な魔導具や、身体能力を強化できる神器。
または、庶民の生活に役立つ様々な低級魔導具も、
少数ながらダンジョンを攻略する度に入手できることから。
たとえそれが魔導具であろうとも、
魔法を使えることはこの世界でのアドバンテージとなっているのだ。
『で、そんな情勢となっちゃったもんだから、私の教会を敵に回してでも、
魔力持ちの少女たちを付け狙う、力を付けたい勢力が各地に存在するってわけ』
「なるほど……。となると、導師って責任重大っすね……」
『そうよ~』
そんな役目が果たしてダイソアー店員の自分に務まるものかと、
不安に思うのは普通の感性であろう。
『でも、まーだ話はそれだけじゃないのよ。
と言うことで、はいレイラちゃん。
予定通り、彼に今までの生い立ちを話してやってちょうだい』
「わ、わかりました……!
え~っと……わたしは、恐らく、8歳の頃に、ミルテ村に来ました。
信じてもらえるかわからないんですけど、気づいたら、もう居たんです。
何が起きたのか、自分が誰なのかサッパリで……。
頭を打って、元の世界の記憶を失っていたことから、
高い位置にできた次元の歪みを通って、
地面に落ちたことが原因じゃないかって、牧師さんが言ってました」
その後は、この森でレイラの第一発見者となった【カルラ】が養母となり。
普段は畑仕事や洗濯、食堂の手伝い、お針子から小麦粉の粉ひきまで。
果ては隣街の冒険者ギルドまで出張して、
怪我人などを魔法で手当てして生活していたとのこと。
『レイラちゃんは教会の牧師から自衛のための護身術も教わっててね。
異世界人特有の肉体の強さも相まって、決して弱い存在じゃないの。
それでいて愛嬌があって物腰も柔らかくて、自分に芯を持ってるものだから、
ミルテ村でも人気者だし、よその街でも目を惹く存在なのよ』
そこまで言われて、話の流れがわからないリヒトではなかった。
「と言うことは、教会から人権を保護されているにもかかわらず、
そんなレイラにちょっかいをかける奴が現れたと?」
『そうなのよ……。それがあろうことか! この土地の子爵のドラ息子と来てね!』
「わたしは……! クレセトさまから助言された通り、
魔力持ちに対する強引な求婚は、教会法によって罰せられると伝えたんですけど……」
『だったらミルテ村に増税を課してやるって、
そのドラ息子の【アルドリック】がバカなことを言い出したのよ!』
表情を曇らせた彼女の心中を察して、リヒトは目付きが険しくなった。
「それでレイラは、居心地のいいミルテ村から、
何一つ憶えてもいない異世界へ帰ることを決意したのか?」
「…………はい」
このまま自分が居ては村の負担になりかねない。
無理やり結婚させられるくらいなら、自分が村を出ていけばいいということだ。
「それなら、クレセト様から直接、
そのアルドリックとかいう奴にお叱りをいただくことはできないんすか?」
『それなのよ……。私の声を聴けるノマル人が激減しちゃっててね。
こっちじゃいいとこ、この子と母親のカルラくらいで。
そのカルラも、私の言ってることは、犬の鳴き声くらいにしか伝わってないはずよ』
まあそのおかげで、レイラちゃんが事故転移してきたときには、
この森までカルラを導くことができたんだけどねと、クレセトは付け足した。
「じゃあ、クレセト様の存在は形骸化しつつあるってことっすか……。
で、信仰が減ってきたせいで、それだけ教会の言うことを聞く人間も減ってきたと……。
ってことは……、たとえ今回、そのドラ息子をなんとかできたとしても」
『根本的な解決にはならないし。
まあ、できなくはないんだけど……、独り身を通すのも、それはそれで大変だからね』
村に留まることを選べば、
たとえ老いたとしても魔法を使える魔力持ちはいつまでも火種となり続け。
仮に結婚して子どもをもうけたとしても、
今度はその子どもが勢力争いの種としてくすぶり続ける。
『でだ――。私は考えました。
このまま今まで通りに導師役をスカウトしたところで意味がないと。
私という神が実在することを、
信仰の薄くなった民たちに知らしめるには、どうしたらいいかを悩んだ先に』
「……俺がいたと?」
『そういうことよ、ダイソアー店員の導師リヒト』
自分の案によほど自信があるのだろう。それは声色からも察しが付く。
『さてそれでは、ダイソアー商品生成スキルの解説と、チュートリアルを始めるわよ?
まずはその〝柔らか冒険者ソード〟から始めましょう。
いい? 商品ステータスオープンよ。わかるでしょ?』
「おお……! いよいよ来たか! 商品ステータスオープン!」
定番の展開に心躍ったリヒトであったが。
ソフトソードに被さるようにして出現した半透明のウインドウには、
こう書かれていたのである。
■――――――――――――――――――――――――――――――■
柔らか冒険者ソード
固有効果は『戦闘能力上昇』
ただ手にしているだけで熟練冒険者なみに戦闘が可能となる。
■――――――――――――――――――――――――――――――■
「お、おお……! なんか思ってたのと違う感じのテイストだが――、だからか!
あんなにも勝手に身体が動いてくれたわけは!」
固有効果とはその文面通りに、
熟練冒険者なみの『戦闘能力上昇』バフが、リヒトの身体にかかっていたわけである。
これは言ってしまえば、柔らか冒険者ソードを一般人に握らせるだけで、
熟練冒険者に仕立て上げられる商品なのだ。
「とは言えだ……? あんなに大蜘蛛の足と打ち合ったのに、
折れもせず、欠けの一つも生じないのは一体……?」
『当たり前でしょう?
まあ……、あなたがよく知ってる品質と耐久性で、
そのまま生成することもできるんだけど」
「ってことは! この頑丈っぷりは……!」
『そうよ? ダイソアー店員のあなたは、この異世界で、
ダイソアー商品を最強・最高品質で生成することが可能なのよ!』
「最強、最高品質だって……!?」
そのあまりの衝撃にリヒトは打ち震えた。
百均ブランドと言っても、220円しようが330円しようとも、
それがたとえ550円だろうと1100円であろうとも!
結局のところは、その値段を上回る〝別ブランドの方が良い〟なんてのは普通のことだ。
それでも、それでもだ!
お求めやすく、安い割には使い勝手が良くて、
ダメになっても気軽に買い直せるダイソアー商品を、リヒトは愛してすらいた。
無論のこと、品質が良いもの悪いもの、実際に使える物と使えない物もあるにはあるが。
ダイソアーは高額ブランドも展開していて、
それでも〝まだ安い〟と言える商品は、庶民の味方であるとさえリヒトは認識している。
そんなダイソアー店員が、それらの商品を一手に、この手で!
望むままの品質で生成できる力を与えられたのだ。
感動しないわけがなかった――……のだが……。
『で、ここからが本題なんだけど。
商品に対する拡大解釈と意味付けも、あなた自身がやっていくのよ?』
「は……?」
にわかには意味がわからなかった。
何を言われたのかその意味を、頭の中でよく反芻してから尋ねた。
「って言うとなんすか? 商品の『固有効果』自体も、俺自身で決められるってことっすか?」
『そういうこと』
「いや……? いやいやいや! さすがにそれは――」
『ちなみにだけど、柔らか冒険者ソードは、
私があなたの思考に合わせて用意した、サンプル品みたいなものだから』
また意味がわからなかった。
「えっと……? 俺の思考に合わせたって、どういうことっすか?」
『アレって、ライトセーバーっていう有名な武器の模造品なんでしょ?
だからその武器の解釈を私が付与したのよ。
って、あぁ、そうか……こう言えばいいのか?
生成スキルのシステム自体が、女神の私の力で動くようになってるからなの』
「って! ホントっすか、それ!?」
『いや、こんなときにウソついてどうするのよ? ホントよホント。
だから、柔らか冒険者ソードで空を飛べるようになる~とか、
よっぽど解釈の合わない物でなければ大丈夫よってこと』
なるほどとリヒトは感心した。
ゲームのシステムを内包しているような異世界は、
どういう構造で成り立っているのか、前々から疑問には思っていたからである。




