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ダイソアー店員は異世界で導師となる  作者: 毒味係りの直岡
チュートリアル編

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1/11

第1話 女神クレセトと同行者レイラとの出会い

 ダイソアー店員の青年、鏑木かぶらぎリヒトは、

 仕事帰りに女神クレセトによって白亜の空間に拉致された。



「ここは……?」

『意識がハッキリしたようね、鏑木リヒト』



 リヒトはキョロキョロと辺りを見まわしていたはずなのに。

 声をかけられてようやく。

 目の前に美しい女神が腰かけていることに気が付いた。



「あなたは……、女神、様?」

『そうよ。私は異世界ノマルを管理している女神クレセト。

 あなたに頼み事があってここに来てもらったわ』



 リヒトの脳裏に既視感のある数々の光景が浮かんだ。

 とは言えそれらは漫画やアニメのシーンであったが。



「じゃあひょっとして……! 俺、事故か何かで死んだんすか?」

『いいえ。私が単に拉致っただけよ。

 あなたはあなたのままでピンピンしてるから、その点は安心してちょうだい』

「そ、そうすか」



 安心したような拍子抜けしたような気持ちになったが、

 リヒトは特に不満を覚えることもなかった。



『いや実はね? 結構ほうぼうを探したんだけど、

 今のところあなたしか適任者が見当たらなかったのよ』



 綺麗な容姿であるにもかかわらず、片手で頭をガリガリ掻いてみせる女神はフランクに言う。

 さすがにここまで来るとリヒトにもわかることがあった。



「と言うことは……、転生の方ではなく、転移の方な感じすか?」

『正解。理解が早くて助かるわ。

 まず第一に頼みたいのは、異世界人の少女レイラちゃんを、

 遠方の地にある『旅立ちの遺跡』まで送り届けて、

 もとの出生世界へ帰してやってほしいのよ』


「異世界人……? もとの出生世界?」


『わかりやすく言うと、別の異世界からウチの異世界に来ちゃった子なのよ』

「へ~、そんなことがあるんすね。ってことは、エスコート役みたいな感じすか?」

『まさにそう、なんだけど……、

 私の管理してるノマル世界が色々面倒なこと起こしちゃってて、

 頼みたいのはそれだけじゃないのよ。だから――』



 と、整った顔が身を乗り出してきたので、リヒトが思わず身を引くと。

 女神クレセトはその美しい顔立ちをやや妖艶な表情へと変えて言った。



『レイラちゃんを無事に異世界へ送り返すことができたら、

 あなたの願いをなんでも叶えてあげるわ、鏑木リヒト』

「マジっすか!?」



 異世界転生ではなく異世界転移で、しかもゴールとボーナス付きともなれば、

 これといってすぐにやりたいことが思いつかないリヒトでも冒険のしがいがある。



「やります! 是非とも俺にやらせてくださいっす!」

『その返事が聞けて何よりだわ』



 挙手までしてみせるリヒトに、女神クレセトはニコニコとなった。



「それでクレセト様? やっぱりあるんすよね? 

 俺が異世界へ行くことで得られるチート能力が?」

『あるわよ』

「いよっしゃーーーー!!」



 アラサー目前だというのに年甲斐もなく大喜びするリヒト。

 女神クレセトはそんな彼に自信満々の面持ちでこう答えたのである。



『鏑木リヒト。あなたが異世界ノマルで行使できるその力は――、

 ダイソアー商品生成スキルよ』

「……は?」



 話の流れが変わったことをリヒトは察したのだが、

 女神クレセトは抗議する隙を与えなかった。



『おっと! 急がないとマズイわ。それじゃ行くわよ?

 ノマル世界へ~~、GO――転移!』



 鼻先に人差し指を突き付けられ。

 リヒトが瞬きをした次の瞬間にはもう景色が変わっていた。




 × × × 01




 朝日と思しき光が差し込む森の中に、リヒトはいつの間にか立っていた。

 今まで嗅いだことのない濃密な草木の香りを吸い込んで、

 自分が異世界へ転移させられたことを実感する。



「きゃあああああああああああ!!」



「なっ、何だっ……!?」

『悲鳴が聞こえた方へ走って!』

「っ、了解っす!」



 あまりにも事件性のある少女の悲鳴が聞こえ、脳内に直接響いた女神の声に従い。

 そう遠くない距離をリヒトが駆け抜けたところ。



《 キシャーーーーー!! 》



 ヒグマの2倍もの大きさがありそうな『大蜘蛛』が、

 今まさに『赤髪の少女』へ襲いかからんとしていた。



(ウソだろっ……!?)



 全身が総毛立つほどの威圧感。初めて嗅ぐ魔物特有の匂い。

 異世界での初戦闘と言ったらゴブリンだの角ウサギだのスライムが定番のところ。

 いきなりボスクラスのモンスターと接して、恐怖で身体がすくみそうになる。


 だが、赤髪金の瞳の少女――レイラと目が合った。


 それだけで意識が切り替わる。

 たとえ自分が身代わりになったとしても、彼女だけは逃がしてやらなければならないと。



『リヒト! 手の中に武器を念じて生成するのよ!』

(ええっ!? 武器!? 武器って言ったって……!!)



 光景がスローモーショーンとなり、リヒトの脳内で目まぐるしい検索がかかる。

 ダイソアーの売り場なんかに武器なんて置いてあるわけがない。


 けれども、あの商品も武器にカテゴライズされるものなのか? と思った瞬間。

 リヒトの手の中には、税込み110円の『ソフトソード』が生成されたのである。



「なっ……!?」


 

 スターウォーズのライトセーバーを模したのであろうチープな発泡ポリエチレンの棒は。

 強く握り込んだところで柔らかく、あまりにも軽い代物だった。



「――!!」



 少女のレイラ側から見ても、

 リヒトの生成したダイソアー商品がオモチャにしか見えなかったのだろう。

 咄嗟に両手で口元を押さえ、絶望の様相となった。

 当然リヒトも同じ顔となった。


 しかし、今にもレイラに飛びかからんとしていた大蜘蛛は、

 自分の背後に突然現れた『冒険者の気配』を鋭敏に感じて。

 その場から大木の側面へと飛び移ったのである。


 そしてそこからが――、リヒトと大蜘蛛の攻防が凄まじかったのだ。



「――は? ――はあ!?」



 と疑問を口にしている間にも、

 リヒトの身体はさながら〝熟練冒険者〟のように勝手に動き、勝手に判断して。

 踏みつけに襲い来る大蜘蛛の多脚を、ソフトソードで何回も打ち返し。


 尻の先から噴きつけられた粘着質の糸も、

 ライトセーバーかの切れ味の如く、軽やかに切り払って。


 4・5回の攻防を経た後に。

 見事、リヒトの『ソフトソード』が大蜘蛛を一刀両断したのである。



 ところが、その大蜘蛛を斬ったときに体液が飛び散ってしまった。

 それがまさか服を溶かして肌を焼くような毒性があるとも知らずに。

 それを上半身に浴びてしまったリヒトは、

 あまりの激痛に絶叫を上げて、地面をのたうち回った。



「落ち着いて! 治しますから! 少し我慢して動かないでください! 

 リフレッシュ! ヒール!」



 しかしなんて幸運なことか。レイラが両手をかざして、彼に注いだ暖かな光が。

 毒素を浄化し、火傷したリヒトの肌をたちまちに癒し。

 それどころか、彼の来ていたワイシャツまでも修復してみせたのである。



「なっ……!? ウソだろ……!? 信じられない……! これが魔法ってやつなのか!?」

「良かった~。大丈夫ですか?」

「おっと、すまない」



 レイラから差し伸べられた手を掴んで、リヒトは立ち上がった。



「ふ~……、危うく死ぬところだったよ、助けてくれてありがとう。

 それで、ぶしつけで済まないんだが、キミが異世界人のレイラか?」

「はい。ミルテ村の『魔力持ち』レイラです」



 レイラは、田舎の村娘然とした素朴な格好をしていながら。

 ほんの少しの立ち振る舞いから、

 礼儀正しさと愛嬌が滲み出るアイドル級の美少女であった。


 ただ、異世界人だからと言って、

 エルフのように耳が尖っているなどの特徴は見受けられず。


 今し方、解毒と治癒をしてもらった上に、

 本人が魔力持ちであると自己申告したことからも。

 なるほど、これはエスコートの必要性がある人物だなとわかった。



「あの、それでなんですけど……、あなたはやっぱり」

「ああ、俺は――」


『彼の名前は鏑木リヒト。

 師として女神の教えを説いて回り、迷える民を導く、救済の旅路を歩む、導師リヒトよ』



 天から淡い光と共に声が降り注ぎ、二人は揃って空を見上げた。



「クレセトさま!」

『ごめんなさいねレイラちゃん。

 まさか待ち合わせ場所に〝アレ〟が現れるなんて思ってもみなかったのよ。

 ただまあ、怪我の功名とでも言うべきかしらね……。

 鏑木リヒト、導師としての初の仕事よ? 

 そこの空中にブラックホールみたいな穴があるでしょ?』

「はい? ブラックホールって……げっ!? 何だありゃ?」



 リヒトがすぐに気づかなかったのも無理はない。

 それは優に3メートルもの高さにあったからだ。

 しかも黒い穴のサイズは大蜘蛛くらいに大きかった。



『アレを、あなたがまだ握っている〝柔らか冒険者ソード〟で断ち切ってほしいのよ』

「これで? っすか?」



 ダイソアー商品名で言えば『ソフトソード』なのだが。

 今し方、大蜘蛛との戦闘を済ませたリヒトには、

 自分でもなんとなくできることがわかったので。


 軽く駆けて、高く跳躍すると、

 柔らか冒険者ソードでもって『黒い穴』を一太刀にて両断――、霧散させた。



「すごい……!! さすが導師さま!」



 尊敬の眼差しどころか高速拍手までしてくれるレイラに、リヒトは反応に困った。

 もうこれくらいはできると判断して自分でやってみたことだが、当然のこと実力ではない。



『順を追って説明するから、とりあえずは素直に称賛を受け取っておきなさい』

「じゃあ、まあ……やったぜ!」



 なんだかサクサク進んでソシャゲのチュートリアルのようだが、

 大蜘蛛の体液はリアルにガチ激痛だったので。

 初めてのお役目にしては上手くやれた方だろうとリヒトは自己完結した。

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